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その名はニエブライリス!

 「当然だ。質問したのは俺だからな」

 しかしポルさんは胸を少し逸らして悠然と答える。

 「だったらなんで無視して別の話しようとしてんだよ……!」

 呆れたのかセシリノさんは手で目元を覆って天井を仰ぐ。そうしている間にポルさんは持ってきた物に巻いていた布を机の上でしゅるしゅると衣擦れの音を立てながら解いていく。

 「話は分かった。だけどな、フジタカがビアヘロでも別に変わらない。俺は前と同じ様にするつもりだぞ」

 淡々と、でもしっかり芯を通してポルさんは言い切ってくれた。

 「ただし」

 結んだ布も一通り解き終え、あとは退けるだけというところでポルさんは手を止めてしまう。

 「お前はどうなんだ、フジタカ」

 「……俺?」

 自分の意見を求められるとこれっぽっちも思っていなかった様にフジタカが顔をゆっくり上げた。名前を呼んだ張本人、ポルさんは頷いて見せる。

 「お前が止めるって言うなら俺だってここまでだ。でも、お前にまだする事が残っていて、続ける意志があるのなら俺もお前に協力する」

 「……する事……できる、事」

 フジタカが自分の手を握っては開いて、最後に力強く握り締める。

 「君のしたい事はなんだ?」

 「俺の……」

 ポルさんから最後の質問にフジタカが立ち上がる。

 「俺はビアヘロ、なんだ。もう今からは変えられない。でも……この世界に来てできる事もやりたい事も分かってきた。そして……まだやらなきゃいけない事は残ってる」

 「それで?」

 「この世界に来た理由を知りたい。その為に必要な力を貸してくれ」

 溜め息を吐きながらポルさんは笑う。

 「身構えてるのはお前だけなんだって。じゃ……持ってけ!」

 布を取り払って出てきたのは諸刃の剣だった。

 「名付けて、ニエブライリスだ!」

 名前まで既に付けられている。その名前を聞いてフジタカは露骨に顔を歪めた。

 「………」

 「なんだ、気に入らないのか。アルコイリスに対して霧虹ニエブライリス……良い名前じゃないか」

 「言いにくそうだな……」

 フジタカはどうしても違和感を拭えないみたい。

 「まぁ、最初だけか。ニエブライリス……な」

 やっと持ち主になる予定の狼男の手に剣が渡る。持ち上げてみてその剣が他と違う事に気が付いた。

 まず、片方の柄の近くが窪んでいる。刃が不自然に引っ込んでいた。切れ味を増すのが目的で用意されたにしてはあまりにも不格好だと思う。

 「これ……もしかして」

 フジタカも凹み部分を見て数秒唸ると何かを思い付いたらしい。そこで彼が取り出したのはアルコイリスの付いた彼のナイフだった。

 「ここに嵌めろ、ってか……」

 見れば柄も随分と複雑に留め具が幾つかあった。そこにアルコイリスを取り付ける?……確かに形状を見るとぴったりと収まりそうだった。

 「でも、そんな事したら……」

 「そうだ。消えちまうだろ」

 私とフジタカの意見が重なる。手元のニエブライリスとアルコイリスを見比べてからポルさんを見ると、腕を組んで目を細めた。

 「お前はいい加減、力の制御ができてもおかしくない。決め付けるのは良くないぞ」

 「……」

 言われた事は分かる。フジタカも渋々と言った様子で再び手元を見詰める。

 「フジタカのナイフが剣に変わる、って事でいいんですか?」

 「あぁ。そうすれば戦い様もしっかりしてくるだろ」

 こちらの質問にセシリノさんが答えてくれる。レブはフジタカをじっと見て先程から一歩も動いていない。

 ナイフが剣に変わる。届く長さが変わるのだから攻撃に幅は広がると思う。小回りが利かなくなりそうでも、ナイフに合わせて刀身を用意したからかあまり重そうには見えない。私が持ってもなんとか振り回せそう。てことは、フジタカにはもっと簡単に扱えると言う事だ。今までも片手剣と併用していたのだから、分離させればこれまでと同じ戦い方もできる。

 「……よし。魔力をギリギリまで絞って……やってみる」

 「頑張れ、フジタカ!」

 私に頷いて見せてからフジタカはゆっくりとアルコイリスをニエブライリスに重ねていく。……もしかして、合体だけは私がやってもいいのかな。

 「うぁっ!」

 しかし、代わる前にそれは起きてしまう。ナイフが微かに剣に振れた瞬間、フジタカの手元から剣だけが姿を消した。

 「やっちまった……!」

 フジタカが慌ててナイフを畳む。普段ならまだしも、今の彼は精神的にもまだ不安定だ。魔力をちゃんと制御し切れていなかったのかも。

 「あ、あの……すまない」

 セシリノさんも目の前で力作が消されたせいか言葉を失ってポルさんを見た。謝ってもフジタカが消したものが戻って来た例は今まで一度たりとも、ない。

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