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振り回されて、流されて。

 「セシリノさんが探してたよ。やっと完成した、って言ってた」

 「……!」

 何が、とまでは聞いていなかったけどフジタカは理解したみたいで表情が変わる。しかしそれもすぐに崩れて口を曲げてしまった。

 「でも俺……」

 「会いに行ってみようよ。待ってるんだよ?行かせるって言っちゃったからさ!」

 フジタカの手を取り引っ張ると抵抗はされなかった。

 「レブ、裏から出てちょっと遠回りしよう」

 「いいだろう」

 そもそもフジタカがビアヘロだと知っているのは片手で数えられる人数だ。しかも全員がそれに関しては口を閉ざしている。だったら堂々と歩いていれば良い。チコにだけ会わない様にすれば広まる心配も少なく済ませられる。

 私はすぐに二人を連れてポルさんとセシリノさんの工房へと向かった。もちろん、誰もフジタカを気にしたりしない。

 それどころか、フジタカは今でもトロノでは人気者だ。アルパの一件をセルヴァではジャルを倒して盛り返している。誰も彼へ冷たい目を送ったりはしない。

 「………」

 本人が気にしている分にはそれも届かない。目線が私達に向けられているだけで彼は避けたくなっているんだ。心配せずとも、わざわざチコにフジタカの位置を知らせる様な人もいないと思うんだけど。……自分から探しに来たら答える人はいっぱいいるかな。もう、何人にも見られてるし。

 「来たな」

 「おはようございます、ポルさん」

 「おはよう」

 レブと一緒になって無理に来てしまった。特に驚く様子も無くポルさんに挨拶を返すとセシリノさんも奥から現れる。

 「あれ?ザナちゃんも来たのかい」

 「はい!ちょっと気になっちゃって……」

 「だよな!分かるぜ、その気持ち」

 気になるのはフジタカに用意した何かよりも彼自身だけどね。

 「……どうしたんだ、お前」

 ポルさんが急に声を低くして私の横を通り過ぎた。そして後ろに立っていたフジタカの顔を覗き込んで眉をひそめる。

 「え、いや……特には……」

 「じゃあなんでそんな顔してんだ!」

 ポルさんが声を張ると、フジタカと私、セシリノさんが肩を跳ねさせた。

 「……まぁた、何かあったな?」

 「………」

 詰め寄られてもフジタカはどうしても目を合わせない。合わせる顔がない、と言いたげにかろうじて工房の玄関に立っている。

 「……どうしちまったんだ?コイツ」

 「はい……」

 諦めて親指でフジタカを差しながらポルさんが私に向き直る。口を開きかけると、やっと地面を擦って彼が一歩工房へ踏み込んだ。

 「あ!は、話す!俺が……」

 「………」

 「だから少し……待ってくれ。整理、するからさ」

 黙って見ていたポルさんが丸椅子を勧めてくれたのでそこにフジタカは腰掛ける。あとの四人で少し離れて囲む様な状態になった。余計に話しにくいんじゃないかな、と思ったけどフジタカの口がゆっくりと動き出す。

 「実は……ビアヘロなんだ」

 「何が」

 「……俺が」

 「俺……!?」

 主語の無い一言にポルさんが一つ放る。付け足したフジタカからの情報にセシリノさんが声を荒げた。目を丸くして髭を揺らしたドワーフに対して、その召喚士ポルさんは静かに彼を見下ろしている。

 「お前がビアヘロだってのか」

 「……昨日知った。分かんなかったんだ、自分の事なのに」

 しかも教えられたのはベルナルドに。でもきっと今のフジタカに昨日の経緯を説明する余裕は無い。

 「騙すつもりじゃなくて。本当に知らなかった。それで……チコに来るな、触るなって言われて……追い出された」

 「それで落ち込んでるのか」

 ポルさんがフジタカではなく私を向いたから頷いて見せる。

 「あの、ビアヘロが私達に馴染んだ話とかってご存知ないですか?」

 フジタカは座って俯いてしまっている。これ以上は話せないだろうと思って私が引き継ぐとポルさんは首を横に振るだけだった。

 「強いて言うなら、コイツ?」

 「………」

 それでは解決しない。焦りばかりが出てきて先が見えてこない。

 「ふーん……。インヴィタドにもビアヘロと戦う以外の選択はあるってんならセシリノやリッチみたいな話もできるのにな」

 ポルさんはもたれていた机から体を離すとそのままスタスタと工房の奥に入っていく。すぐに戻るとその両手には布で包まれた何かを持っていた。

 「とりあえずこれを見てくれよ」

 「ちょちょちょちょっと待てぇい!とりあえずってなんだよ!」

 セシリノさんがすぐにポルさんの腕を掴む。

 「……ダメか?」

 「ダメだろ!話聞いてたのかお前!」

 私も急に話が切り替えられたからついていけなかった。ポルさんがレブを見ても無反応だからこっちを見る。個人的にはセシリノさんと考え方が近い、かな。

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