表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
17/396

パンツ英雄、一丁上がり!

 返答に面食らったのはティラドルさんの様でそうか、とだけ言ってソニアさんの方へ向かう。

 「しかしこれを以て犬ころは晴れて英雄だな」

 レブは目を閉じてフフフ、と不敵に笑う。

 「なんだよ、それ」

 「分からぬでもあるまい。召喚された翌日以降に始まり、順調にビアヘロを退治して今回のトロノの子どもらは奇策を用いて無傷で救い出した。当然、ビアヘロも処理してな。誓いも立てた今、わんころを英雄と呼ばずして何と呼ぶ」

 レブは嫌味を言っているのではない。レブなりにフジタカの成長を喜んでいるんだ。……喜び方はかなり捻くれているけどね。

 実際の私達は英雄なんて物々しい表現はしない。でも、フジタカなら不思議とそう呼んでも良い気がしたというか、レブがフジタカを評価するのも分かったかも。

 特異な力だけじゃなく、力を持つだけ相応しい心構えというか芯が通っている。迷いはしても決めたら一直線に来てくれたフジタカにチコもレブも目が離せないんだ。

 「ククク……。膾炙かいしゃされ、尾ひれに毛皮と棘と鱗も付いた噂を流され、お前はもう放って置いても人に善意を向けられる。それも覚悟に加えるのだな」

 「こ、怖い事言って脅かすなよ!最近の若者はセキニンって言葉に弱いんだぞ!」

 ……ところで、少し気になっていたんだけど。

 「それは良い。今回分かった犬の弱点は二つ。一つ目は討伐の証拠を残すためにはそのナイフは不向き。もう一つは責任の重圧を嫌う」

 「くぅ……!」

 フジタカは地団駄を踏んで唸る。

 「あ、あのさフジタカ……」

 「なんだよ!お前のインヴィタドだろ、何とか言ってやってくれよ!一仕事終えた俺を苛めるんだぞ、あの怪獣!」

 ちょっと、あの……近いってば。

 「ふ、フジタカ!いつまでその格好でいるのさ!」

 「え?」

 目線を下に向けるフジタカ。私はもう耐えられずに手で顔を覆って背を向けた。

 ビアヘロ退治の途中からずっと下着一枚でうろうろしている。しかもその格好で私の肩に手を置いたり、興奮して詰め寄って来るものだから堪ったものじゃない。

 「あ……!わ、悪い!えーと……あれ?靴の片っぽどこ行った?」

 「知らない!」

 背後でガサゴソ茂みまで探し始めたみたいだけど、手伝うのは無理だ。まずは服を着てもらわないと。

 「……異性の裸を直視できないのなら、私はどうなる」

 レブが回り込んで私の赤くなった顔を覗き込む。言われてみればレブはズボンだけだ。

 「そ、それはそれ!これはこれ!」

 「そうだぞデブ。デリカシーが足りないぞー」

 「困らせた本人が言うな……!」

 意味は分からないけど気遣いってそういう事だよ、レブ。

 結局靴の行方が分からず、子ども達にも手伝いをお願いしてやっと見付かった。お礼ではないが、エルフの子を集落の近くまで送り届けてから私達は帰路に着く。

 「損失は剣一本で済んで良かったな」

 チコが夕焼けを見ながら呟く。日中に出て帰りは夕方。トロノに戻る頃には日は暮れているだろう。忙しい一日だった。

 「結果はインペット三体の退治。成果として持ち帰れた羽は一つだけ……」

 陽が沈んでしまう前に、とソニアさんが報告事項をある程度記載している。忘れる程の内容ではないけど、纏めるのが役目だからと言っていた。

 「もう片方ももいだ方が良かったか?」

 「同一個体よりは、先に倒した二匹の翼も片方ずつあった方が良かったのかも」

 私が教えるとフジタカはあー、と声を伸ばした。今はちゃんと服も防具も身に着け、中身のない鞘だけを担いでいる。

 「蹴った時に歯とか折ってたかもな」

 「今更戻る気にはなれないでしょ?」

 ここは今からでも戻って、と言うべきかもしれない。でも今日はだけでもかなり盛りだくさんだったもん。皆疲れているし。

 「そうだ。それに、足りない証拠を補うのが証人であり、今回の同伴者だ」

 レブが言っているのはソニアさんとティラドルさんだけではない。子ども達もまた私達の言葉を補填してくれる。

 「アラサーテ様に頼りにされている……。本望だ……」

 「利用されてるだけじゃありませんか」

 ソニアさんの指摘を聞き流す程にティラドルさんはニヤニヤしている。……逆に。

 「こういう日もある。ただそれだけだ」

 「え?」

 「思い詰めるのは貴様の悪い癖だと言ったのだ」

 レブは言うだけ言って、先にずんずん歩いて行ってしまう。私はしばらくその背中をポカン、と見ていた。

 ……逆に、今日の私は何もできなかった。って、ちょっと落ち込みそうというか、考え込みそうになった。……見抜かれていたのかな。


 レブの予言通り、トロノに戻り一夜明けて夕刊が配達されてからだった。フジタカの活躍は再びトロノ中に知れ渡る。

ある者は彼を期待の新星、またある者は異界の勇者、子どもの味方と称賛を浴びせた。その一方、一部からは裸の英雄なんて称号も与えられたらしい。

 ……ところで、ビアヘロを倒して少し話してる間、途中から手にナイフを持ってなかったけどどこにしまっていたんだろう。パンツしか穿いてなかったのに。

 まさか、ね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ