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脱がなくても凄い、なら脱いだらもっと凄い。

 虫の居所が、とか間が悪い時に来たのではない。ティラドルさんが来たのがレブの苛立ちの原因だ。

 私は理由も無く顔を見たい、って気持ちは分かるけどなぁ。それはレブからしたら軟弱って事なのかも。

 「レブ、せっかく来てくれた相手に……」

 「良いのです、お嬢様。こんな我にアラサーテ様はお声を聞かせ鼓膜を震わせてくださった。それだけでもお邪魔した甲斐があったというもの」

 前は数か月会えなかった事に比べれば叱られるだけでも有難いのか……。会えないよりも会えた方が良いけどこれではティラドルさんがあまりにも報われない。

 「今日の予定を確認してたんでしょ?だったら……」

 「ふむ」

 私が言い欠けている段階でレブが何かに反応した。

 「ティラ。お前の今日の予定はどうなっている」

 「……まさか」

 察しが付いてレブを見ると、彼は普段見せない笑みを浮かべた。


 「くっ……!」

 「はぁっ!」

 上半身を裸になった緑竜の締まった体に紫竜の剛腕が次々に振るわれる。……私はソニアさんの横に立って気が気じゃなかった。

 「あ、あぁぁぁ……ズボンが解れる……破ける……!」

 「………」

 訓練場に引っ張り出したのも申し訳ないのに、ティラドルさんが着ている服もレブが拳で所々を弾け飛ばしている。ソニアさんの悲鳴に私は逃げ出したかった。

 レブは自分の訓練相手にティラドルさんを選んだ。ティラドルさんはレブの命令は断らないし、ソニアさんはティラドルさんの一声ですぐに承諾してしまう。だからソニアさんは今日の研究を中断してこちらに来てしまった。それが私には申し訳なくて頭が上がらない。しかも竜人達もいるから下手に謝る事もできない。

 「ふっ!」

 「遅ぉい!」

 振りかぶった輝く緑の拳が届く前に跳び上がったレブの足がティラドルさんの顔面を捉える。

 「がぁ!」

 訓練だからと言って躊躇も遠慮もなくレブがティラドルさんを蹴倒す。吹っ飛んでズボンが土や泥で汚れるのも私は気になっていた。肉体の方の怪我はあまり心配していない。致命傷は与えないでいてやる、とレブが言っていたから。

 こんな予定じゃ無かったのにな……。そう思いながら私は二人の竜人の激突を眺めていた。

 「……やるじゃない」

 「えっ?」

 ティラドルさんだって当然、無抵抗ではない。お互いが魔法を禁止した上で戦っているし、何度もレブだって吹き飛ばされている。

 「アラサーテ様よ。私のティラドル様が崇めるだけはあるわ」

 「………」

 そう、それでもレブは本気のティラドルさんを相手に一歩も引かない。殺気立った二人の間に人間である私達はとても近寄れなかった。

 多少細身とは言え、自分の倍以上の大きさをしたティラドルさんの攻撃は一発一発がとても広い。体を急に回転させて繰り出す尾の一撃に至っては手斧を持った状態のトーロよりも範囲が大きかった。

 レブはティラドルさんの攻撃を一つ一つ確実に飛び越え、いなし、反撃している。初撃は譲りながらも確実に当てているのはレブの方だった。

 「ち……っ!」

 レブは距離を調整する際に度々翼を使っていた。最初こそ戸惑っていたものの、ティラドルさんもすぐに対応して逆に翼を広げた時に畳み掛けてくる。翼を使って間合いを詰めても離れても必ずティラドルさんの距離には入るのだから。まして、棒立ちしているわけではないのだから向こうからもどんどん攻めてくる。

 「もっとだ、ティラ!もっと激しく攻めてみろ!」

 「必ずや満足させてみせます!」

 「おぉぉぉ!」

 「はぁぁぁ!」

 広げた翼で浮いたレブとティラドルさんの拳が激突し、レブが背中から地面に叩き落とされる。地に足が付いている分、ティラドルさんの方が踏ん張りが利くからだ。

 状況を冷静に見て、インヴィタドへ的確な指示するのが召喚士の役目。だけどこんなにも常人離れした戦闘を見せられると私からは何も言えない。思った事を口に出してもレブだってそんな事は分かっているからだ。

 「ティラドル様!飛ぶと左手か右足から攻撃が来ます!」

 「……っ!」

 ソニアさんの声に呼応したかティラドルさんの両腕が広がる。それと同時にレブの攻撃を受け止めた。

 「そこぉ!」

 「くっ……!」

 レブからの攻撃は左手からだった。ティラドルさんは先読みした様に右腕で受け、左手を引き戻し振り上げてレブの腹に一発。レブは一度着地しすぐに足払いを狙ったが後ろに跳んで躱されてしまう。

 「ソニアさん、今の……」

 「変幻自在な戦い方、なんでしょうけど絞る事ぐらいならできるわよ。ずっと見ていたんだから」

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