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ホーミィ・イ・アモール

 レブと話したのは主に私の事だった。前に話したビアヘロに襲われた事も含めながら自分が過去に触れた出来事にどう感じたか聞いてもらうだけで時間は過ぎる。レブはその一つ一つへ耳を傾けてくれていた。

 「ふぁあ……」

 おかげで少し寝不足。喉も少し喋り過ぎてイガイガする気がする。そんな話をしたら喉には果物が良い、と勧められた。その手には乗りません。

 「おはよう、ザナ」

 「ルビー。おはよう」

 顔を洗って鏡を見ていると私の横に立ったのはルビーだった。私が退くとすぐに冷水を顔に三度浴びせて水を振り払う。

 「……っし!今日も頑張ろう!」

 「気合入ってるね」

 水も滴る良いルビー。一方私は顔を洗っても少し体が怠い。

 「ザナこそ。いつもの元気はどこにやったのさ。」

 「昨日、かな……」

 今日に余力を残そうと考えずに昨夜を迎えたのがいけなかった。私とレブの体力差を考えずにずっと話していたから目が重いんだ。

 「なんか難しい事してたんだね……」

 「そうじゃないけど……有意義にはしたかったかな」

 立ち返るには良い機会だった。自分がどうして今ここにいるのか。これからも戦っていくにはどうしたら良いのか自分の経験から考えられた。もちろん、レブにも協力してもらって。

 「特待生も努力してるんだもん、私もやっちゃうからね!」

 「張り切って、どうしちゃったの?」

 分けてもらいたいくらいにルビーは気を昂らせて拳を握っている。前のルビーはも少し控えめだったと思うのに。

 「私ね、チコの出したフジタカ君みたいなインヴィタドを呼ぼうと思ったの」

 「どういう意味?」

 フジタカみたいな、と言うと不都合も多少あると思うんだよね……。強力な特技を持っていても平和な国からやってきたから戦うまでに苦労するとか。

 「なんというか、歳の近いインヴィタド!それでミゲルさんとリッチさんみたいな関係になれたら素敵じゃない?」

 フジタカの力が目当てで言ったわけじゃないんだ。そこに安心して私も顔を拭きながら頷いて見せた。……レブの名前は少しも出なかったな。

 「そうだね。女子のインヴィタドってあんまり見ないから、いたら楽しいかも」

 「でしょ!だから私、今は色々試してるんだ!……なかなか、話の通じる相手には出会えないんだけどね」

 カルディナさんでもトーロと出会うのにかなり時間を要したみたいだし、すぐには難しいのだろう。だけどルビーのやる気は燃焼し続けている。表情も明るく、今日を良くしようと輝いて見えた。

 ビアヘロに怯えるよりも前に自分の召喚技術が上がっている実感を得られたのかな、と見ていて思った。リッチさんみたいな人を呼ぶなら戦闘は難しいかもしれない。自分達の行き先を話し合える関係って築けたら最高だと思う。

 「じゃあね、ザナ!私は講義受けてくるよ」

 「うん、またね。いってらっしゃい!」

 顔を濡らしたままでルビーは小走りで洗面所を出て行く。手を振りながら私もそんな時間だったか、と気付かされた。

 基礎学の課程を君達は飛ばして良いと所長に言われて私やチコは受けていない。でも私は独学で勉強を続けていた。でないと他の召喚になんて辿り着けない。

 それは何もレブに不満があって言っているのではない。……寧ろ、逆なんだ。

 私はレブを異性として意識してしまっている。セルヴァで召喚士とインヴィタドの正しい関係を説かれて私はしっかりと言えなかった。それは私がレブに命令をするのが苦手とか怖いからではない。

 ルビーとルナおばさんに気付かされて私は自分がこれからどうレブと向き合えば良いか分からなくなってしまった。昨日の夜はあんなに楽しかったのに、それは私が一人で喋っていたからに過ぎない。

 「………」

 独りよがりでいたくない。レブと少しでも優位ではなく対等でありたい。そんな事を考えると胸が切なく締め付けられる。魔法を使う痛みとは違うのに息苦しくなってしまうんだ。

 「……よし」

 だったら自分はあのへそ曲がりの相棒に何をするのか。決めていた事から少しずつやってみる。……この気持ちが本物なのか確かめる為にも。

 私は洗面器に水を再度張って顔をしばらく浸けた。ぶくぶくと息を吐き出し、限界を迎えて顔を引き上げる。

 「ぷっはぁ!」

 前髪も濡れ、水が目に入らない様にと目を細める自分の姿は鏡で見ても滑稽だった。だけど、他ならぬこれが私なんだ。

 「はぁ……はぁ……」

 顔や髪をもう一度拭って私は手に力を込める。ぎゅ、と握った拳はさっきよりも手応えが強くなっていた。

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