帰り道、二人。
私達はミゲルさんとリッチさんを伴ってポルさんとセシリノさんの工房から外へ出た。風が冷たいのは季節の移り変わりか、それとも工房が暑かったか。
「お二人はこれからどうされるんですか?」
「適当に宿を探すさ」
「そうそう!」
ミゲルさんからの返答に私は目を丸くする。宿屋なんてトロノには大きいのと小さいのが一つ二つずつあるくらいで、そんなに選択肢は多くない。
「雑貨屋のバシリオんとこはどうだ?」
「僕はカルロータちんのとこがいい!」
「お前は女の家しか提案しないから却下」
「えぇ!」
……会話を聞くに、誰かの家に泊まろうとしているみたい。しかも今から探すらしい。
「あの、トロノ支所には来ないんですか」
「え?どうして?」
「どうして、って……」
リッチさんに聞き返されて私も言葉に詰まってしまった。
「ちょっとした取引はあるけど所属しているわけではないからな。ただ行って泊めてもらおうなんて虫のいい話はあの所長が許さんよ」
「ブラス所長が……」
育成機関は育成されている段階の召喚士の拠点だから、ミゲルさんの様な召喚士は受け入れないんだ。カルディナさんやソニアさんは育成機関や契約者の活動を拡張する為の例外。私もいつかは出て行くのかな。
「だから今夜の寝る場所を僕らは探しに行くわけ!ザナちん達はもう帰るんでしょ?」
「そうですね。……どっか寄るところある?」
頷いて私はレブとフジタカを見る。
「あ、チコに雑貨屋でインク買ってくるように言われてんだった」
「そっか……じゃあ」
「じゃあ俺達と行くか!値切ってやっからよ!」
一緒に行こう、と言い掛けて先にミゲルさんがフジタカの肩を叩いた。リッチさんもすかさずフジタカの腰に手を添えて雑貨屋の方へ歩き出す。
「ハッハァ!まずはバシリオのところ!こういうのを一石自重って言うんだよな!」
「一石二鳥じゃないのか……。悪い、道は分かるから先に帰っててくれ!」
「あ、うん……」
フジタカがミゲルさんとリッチさんに連れていかれてしまう。追うか迷ったけど雑貨屋に今日は用事も無い。インヴィタドだけには商品を売らない店ではないけど人間のミゲルさんもいる。間違う様な道でもないし、帰宅も購入も問題はない、かな。
「行っちゃったね。帰ろうか」
「あぁ」
二人並んで歩くとレブの方が足が短いから少し遅れる。それを補うのが速度だ。私が三歩、足を動かす間にレブは五歩で並び立つ。レブに合わせようと歩調を緩めたら以前睨まれたから、私は素知らぬふりでいつも通り歩いていた。
「ザナちゃん、今日はもうお帰り?」
「はい!」
夕暮れの通りを歩いていると店仕舞いをしていたルナおばさんに見付かる。さっきも会ってポルさんの工房に行くと話してあった。
「フジタカは?一緒だったのに」
「ミゲルさんとリッチさんに連れられて雑貨屋に行ってから帰ってくると思います」
二人の名前を出すとおばさんは溜め息混じりに笑った。
「はぁ、あのやんちゃっ子達に引っ張り回されてるのね……。見掛けたら程々にする様言っておくわ」
「大丈夫だと思いますけどね」
流されてる様でフジタカは自分の考えも持ってるし。嫌なら断る、って人種ではないけどあの二人相手なら平気かな。
「……あら、ザナちゃん。その胸の、どうしたの?」
「あっ」
ルナおばさんがじっと私の胸元を見ている。早速気付かれたんだ。
「実は……今日はこれを取りに行っていたんです。リッチさん、こういうの得意だって聞いてたから」
「ポルフィリオさんとこのドワーフとリッチの合作?すごーい!」
もしかしておばさんの耳飾りもリッチさんのお手製なのかな、と聞く前にもうルナおばさんは私の首飾りに夢中だった。そっと首飾りを撫でて目をうっとりと細める。
「やだぁ……こんなに綺麗な紫の宝石、見た事が無い……!」
「……ゴホン、ブエッホン!」
首飾りを眺めるルナおばさんの顔がどんどん近付いてくるのでどうしようかと思っているとレブが咳払いをした。そこで一瞬おばさんも我に返る。
「……日頃から目にしている筈だぞ」
「え?でもこんな……。……あら?」
あ、レブの指摘で気付いた。
「えっ……ザナちゃん、それ……」
「……はい。レブからの贈り物、です」
「私は鱗しかやっていない」
強がらないでよ、こっちだって少し言いにくいんだから。でも、言ってしまえばこっちのもの。ルナおばさんの表情はどんどん柔和なものへと変わっていく。
「レブちゃんがあげたの?ザナちゃんのために自分の鱗を?まぁーっ!レブちゃん、偉いじゃなぁい!」




