カルソンシージョス・イ・クチージョ
「こっちもだ」
肩にある防具の留め具を外し、同じ様に放る。まだインペットは動かない。
「……なら、次はこうだ」
「ふ、フジタカ!?」
上着に手を掛け、脱ぐと茂みに投げる。続いてズボンを留める革のベルトをカチャカチャと緩め、ずり下してフジタカは下着一枚の姿になった。ズボンは靴と一緒に蹴っ飛ばす。
「……これでどーだ!」
腰に手を当てフジタカはインペットへ胸を張る。今日はセルヴァに来た時に穿いていた体にぴったりと密着する下着だ。フジタカがボクサーブリーフとかパンツと呼んでいたその下着をトーロはやけに気にしていたのを覚えている。尻尾の部分だけ通すための穴が開いていた。
「キ、キキキ」
「ケケ」
「クキャキャキャキャ!」
しなやかな筋肉が身に着いた肉体は綺麗な毛皮に覆われ、頼りない印象は受けない。それでもインペット達は丸腰のフジタカを見て指を差し笑う。私は目を逸らしたかったけど、そうもいかないし。何を考えているのか分からないままインペットが動き出す。
「キキキ」
「かはっ……っは…げほっ……!」
一番フジタカの近くにいたインペットが子どもを解放した。口に入れていた指を引き抜き、投げ捨てるとすぐに羽でフジタカの剣を目指した。
「フジタカ、逃げ……っ!」
インペットはフジタカの剣を鞘から抜くと、楽しそうに振り回す。軽く素振りの真似事をしたインペットが次に目を付けたのは、無抵抗に裸になった狼の若者だった。
「キィィィィ!」
大きく飛び上がり、剣がフジタカを目掛け振り下ろされる。私は逃げてと言おうとしたのに声が止まる。
ビアヘロを前に、フジタカが微かに笑っていたのだ。その意味は直後に分かる。
「ここだ!」
フジタカがパンツの中に手を突っ込んだ。若干膨らんだ部分から取り出したソレを、手首を振るだけで展開するとすかさずビアヘロの剣を迎撃する。
「キィ!?」
ほんの少し金属音がしたと思えばヴン、と少し嫌な音を立てて小悪魔の手から剣が消える。
「そい、やぁぁぁぁぁぁ!」
次にフジタカは左足を軸に自分を回転させて、右足を上半身全て持ち上げる様な勢いで畳んだ。
踵の角度が決まると、弾丸の如く右足が真っ直ぐ放たれる。何でも消せるナイフで剣が消えて、インペットはまだ何が起きたかも分からぬ間にフジタカの回し蹴りが顔面を変形させた。
「グゲ……」
勢い良く吹っ飛んでインペットが骨の砕けた顔面から地面に落ちる。少し痙攣したが動き回る気配はない。フジタカはすぐにナイフを突き立て、その場から一匹を消し去った。
「ググ!?」
「シャァァァー!」
すぐに残りの二匹もフジタカを脅威と認識した。しかし彼らがフジタカに気を取られて子どもの手を放したのは好都合。背を向け逃げ出すが、そうはいかない。
「チコ!ザナ!そいつらよろしく!デブ!」
「分かっている。逃さん!」
フジタカの号令に私とチコは同時に駆け出した。それぞれ人質にされていた子と合流すると、余程怖かったのか震えて動けなくなってしまう。
でも動けなくてももう大丈夫。
「犬ころ!」
「あいよ!」
木々を蹴って跳ね回っていたレブは簡単にインペットに追い付くと一匹をフジタカへ蹴落とす。待ってました、と言わんばかりにナイフがこの世界に害を成す化け物を触れるだけで消失させた。
直後、私の胸がチクリと痛み森の中に火花の散る音が響く。程無くして、レブが電撃で倒したインペットを持って現れた。
「お疲れ様」
「うむ」
インペットを放ると背中を踏み付けた。短く悲鳴が聞こえたから、まだかろうじて意識はあるみたい。
「犬ころ。頼まれてくれ」
「え?」
暴れない様にしっかり足を踏み付けるとレブはインペットの羽の付け根を掴んだ。
「……子どもに聞かせるものではないからな」
「あ……分かった」
レブの一言にフジタカが頷き、しまおうとしていたナイフを取り出す。私は子ども達に後ろを向いているようにお願いした。皆素直に言う事を聞いてくれる。
「せー……」
「のっ!」
「グギャ……………」
二人が合図するとレブがインプットの羽を引き千切り、叫んで暴れそうになった本体をフジタカがナイフで消した。耳に痛い声は一瞬で止み、風が吹くと微かにレブの持つ羽からだろう、血の匂いが鼻に入る。
「報告に退治した証拠が要るのだろう?片付けろ」
「はっ」
レブがもいだ羽をティラドルさんに放る。血が跳ねて白いシャツを汚したが、ティラドルさんはまったく気にした様子はなく布で羽をくるんだ。
「本日もお見事でございました」
「世辞は止せ。私はほとんど何もしていない」
ティラドルさんが頭を下げるがレブは腕を組んで顔を背けた。




