感情のままに起きてしまった救済。
そのやり方とは、と聞かれると……レブ任せな部分が多い。まして、今回はフジタカに全部押し付けてしまったんだから。改善しないといけないとは思っている。
「私達なりの関係か……。築いていきたいものだ。色々な意味を含めてな」
「………」
応えてあげないよ、今は。……二人きりの今こそ、とも思うけど。
「フジタカは……インヴィタドとしての役割を受け入れたから何も言わないのかな?」
チコの態度に気にしていないと言っていた。チコが変わった理由を自分なりに知っているのかも。
「媚びるだけがインヴィタドではない。あの犬ころがそこに気付けぬ程愚かとは……」
「へぇ……」
「……なんだ」
やっぱりフジタカにレブは一目置いてるよね。今日のビアヘロ戦だって、信用していたから何も手を出さなかったんだし。
「別にぃ?」
言えば否定するだろうから言わない。フジタカにはこの部分より先は伝えなくて良いと思うもの。
「そんなに構ってほしいのか」
「そういう返しができる様になっても、使いどころが違うよ」
この話題を続けたくて言っているんじゃないんだから。大事なのは、レブがフジタカを愚かと思っていないという一点。
「余計な事を吹き込むなよ」
「余計かどうかは私が決める事だ。……どう、似てた?」
「ふん」
すっかりレブはヘソを曲げて私に背を向けた。拗ねるなんて子どもじゃないんだから。でも声真似はやっぱり……。
「……若干だが、興奮した」
「………」
……思ったよりウケは良かったみたい。
翌朝を迎えて私達は朝も早い内から集合していた。馬車を待たせてあるが、見送りに話を聞き付けた村の人達が集まってくれている。
「チコ!ありがとうな!ザナとルビーも!元気にやってけよ!」
「ヒルに会ったら手紙の返事くらいよこせって言っといて!」
「エマにこれを渡しておいてくれ」
「はい。分かりました」
最後にルビーがエマのお父さんから小包を渡されていた。……心配してくれる人がいるっていいな。
「また来るぜセルヴァ!今度はもっと立派な召喚士になってな!」
チコが腕を高く上げて叫ぶと、村人達も一気に沸き立つ。そこに、少し調子の異なる声が聞こえた。
「あの……!通して、ください!」
「通してー!」
村人を掻き分けて現れたのは二人の女性エルフ。その姿を見て顔色を変えたのは、フジタカだった。私も片方の少女を見て前へ出る。
「君……!」
「イルダちゃん!」
「うん!」
名前を呼ぶと、イルダちゃんはすぐに応えて頷いた。どうしたのか、とセルヴァの皆は一気に静まる。
「なんで、君がここに……?」
「……あの後、私とイルダはこのセルヴァへ移住したからです」
フジタカの質問に答えたのはイルダちゃんのお母さんだった。伏せがちな目で何度もちらちらと私達を見ている。あの後……がどの後かなんて聞き返す事はなかった。
「……私は貴方の事を疑っていました。でも、シルフの噂で聞きました。やり遂げてくださったのでしょう?私達の故郷を焼いた者へ制裁を」
「…………あぁ」
長い間閉じていたフジタカの口は、イルダちゃんのお母さんが発した言霊を肯定した。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「俺は……」
私の知るあの日に、礼を言われるような行動は一つもなかった。だけどそれが彼女たちに、アルパにとってはかけがいのない物だった。だからこんなにも笑みが眩しく見える。
「まだ故郷へ戻る事はできないと思います」
イルダちゃんのお母さんは再び目を伏せる。そう、時間をかけねば取り戻せないものもある。
「ですが貴方の行いを私達も無駄にしない。いつかアルパへ帰ります。イルダを連れて」
「………」
フジタカは言葉を失っている。
「貴方は、アルパの希望でした。心より、お礼を申し上げます」
「……あ、あはは……。参ったな」
困った様に乾いた笑い声を上げて、頭を下げる二人のエルフをフジタカは見ている。感謝されるなんて思っていなかったんだ、この時まで。
私達が行った事で助からなかった人もいた。そして対照的に心を取り戻した人もいた。
それが、フジタカにとって何よりも救いになったのはこの後だった。




