正しくあるべき召喚士。
「ザナもビアヘロとは何度も戦ってるんだもんね。やっぱり備えは大切って事か……。ザナ達の戦いも見てみたかったんだけどなぁ」
「また次に、ね?」
「うん……」
やっとルビーは納得してくれた様で前を向く。レブを見ると私の視線に気付いていないフリをして、てくてくと歩き続けていた。
とっぷりと日が暮れてセルヴァに着くとチコの両親が迎えに来てくれた。フジタカの持つ角を見て目を見開き、すぐにビト長老が呼び出される。
それがジャルの物だと判断されてからだった。長老は村中を挙げてビアヘロ退治を成し遂げた召喚士を労おうと提案してくれる。
「良かったのか」
「うん」
しかしそれを私が断った。ルビーが断った理由は分からないけど、召喚士側の多数決で見送られる。今頃はチコの家の中だけでご馳走が振る舞われているんじゃないのかな。
だから今、私とレブは二人で家に戻っていた。明日にはトロノに戻る為に出発するから、散らかしてもいられない。長椅子に二人で座ってスープだけの食事を済ませる。
「レブには悪いけど……そんな気分じゃなかった」
「気にするな。言いたい事は分かっている」
暖炉の炎を眺めてレブは目を細める。
「チコ、どうしちゃったのかな」
フジタカとは仲良くやっていると思ったのに。ここ数日のチコはどう見ても変だ。
「どうしたも無い。考えられる理由は幾らでも出てくるだろう」
「幾らでも……」
言われて、少しだけチコが変わる前と変わってからを比較する。変わったのは……やっぱり、フェルトの一件なのかな。あれからフジタカへの当たりは少し強くなったかも。
「今回初めてと言えば貴様にも言える。人前で緊張は無かったか」
「ルビーの話をしてるの?」
レブが横目で頷いた。見られていたからって別に……。
「あっ。チコが張り切ってた?ルビーの前で?」
「本音は知らん」
……気付けたのだから有り得なくはない、だろうけど。
「私にはよく分からないな……」
頬杖をついて暖炉を見詰めると炎が揺らめいた。召喚士として一歩、二歩と先を行く俺達がビアヘロ退治のお手本を新米召喚士に見せる!なんてチコが言うのかな。
「犬ころはトロノでは有名だ。少なからずセルヴァでも耳には入っているだろう」
「セルヴァの皆の為、っていうなら納得かな。チコは地元からほとんど出てなかったし」
だからって、と私は続ける。
「……やっぱり、フジタカに取る態度があんなになって良い理由にはならないんじゃないかな」
「………」
薪がバキン、と音を立てて崩れる。
「召喚士としての在り方の一つを表現したのだろうな」
「チコの肩を持つの?」
静かにレブは首を横に振った。
「私はあの小僧を否定する気は最初から無い。だが、召喚士とインヴィタドならば召喚士が優位に立っているのは最低限の前提だ」
「優位……」
随分前にソニアさんと召喚されたばかりのティラドルさんを見てレブが言っていた事と同じだ。魔力供給している以上はインヴィタドよりも召喚士の方が立場は上だと言っていた。
「ルビーに……チコは召喚士の在り方を見せていた。セルヴァの人にもしっかりフジタカを従わせていると見せたかった?」
「聞く相手を間違えるな」
答えは本人次第、今のはレブの推測。
「召喚士ならば馴れ合いだけではない。力を以てインヴィタドと向かい合う事も時には必要だ。もしも相応しくないと判断されれば、それは召喚士の問題だ」
「………」
ルビーは私とレブを変だと思っていた。カルディナさんも……チコとは違うけどトーロとは一線を引いていたと思う。ソニアさんのティラドルさんへの態度は屈服させようと言うよりは嫌われない様にする為の態度だったのかな。
あれが、召喚士とインヴィタドのあるべき主従関係、なのかな。
「……ウォッホン」
「どうしたの?って……ごめん。考え過ぎてたかな」
露骨な咳払いをしたレブは一度尻尾をくねらせた。
「……もっと命令しても構わぬのだぞ」
そっとレブの尻尾が私の腰に絡まる。……私からは触ったらダメ、なんだっけ。
「命令って、レブは嫌いじゃないの?」
「私は貴様の判断であれば信用してやらなくもないと言っているのだ」
必要だと思った命令なら従ってくれるんだ。……でも、レブに命令をしようって思った事なんて一度しかない。
「命令すれば召喚士、従うからインヴィタドってわけではないよね?」
私からの質問にレブが目を丸くする。
「……そうだな。そんな道理はない」
「だったら決め付けない。私とレブには、私達なりのやり方がある。でしょ?」




