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澄んだ空気の森に住んだビアヘロ。

 そういう一面もあるかもしれないけど……ぺぺのお父さんも昔は召喚士を夢見ていたらしい。なのに召喚士である事を辞めたから戻ったんだ。

 ……召喚に成功した先がまだまだあった。ビアヘロと戦うのならば、それだけの力を持ったインヴィタドが必要だし、召喚士自身にも力を問われる。そこに追い付けないから……戻ったのかな。力不足以外で言うとビアヘロに手痛い目に遭わされたとか。

 暗い理由ばかり思い付くが一つ分かる。今はぺぺのお父さんは笑って暮らしているという事だ。召喚士に未練を抱いている様子は無い。契約者に魔力線を解放してもらったからと言って、召喚士ではない幸せは選べるんだ。

 一方で、どうして一人前になった召喚士がセルヴァに戻って来ないかは分からない。召喚士育成機関から資格と権利を持って卒業したのならば活動はある程度自由にできる。自主的にもっとビアヘロを処理したいのならどこかの傭兵団体に所属する者もいるし、インヴィタドの能力を買って技術者として確保する者もいた。

 「帰りたく、なかったのかな」

 単純な答えに行き着いてしまう。セルヴァよりも、トロノやカンポのフェルトみたいに別の場所の方に思い入れが湧いてしまった

 「明快だな」

 「セルヴァの結界は強力だよ?でも、召喚士の一人もいないとこういう時に対処ができなくなっちゃう」

 長椅子に座ってレブが腕を組む。

 「貴様とて、任務でなければ戻るまい」

 「……そうなんだよね」

 灯りを点けて私もレブの隣に座る。レブの方が重くとも古い椅子だからギ、と音が鳴って私の方へ少しだけ傾く。

 「この地から離れたいからでも、留まりたいからでもない」

 「理由は幾らでもあるんだね」

 召喚士だって誰にでもなれるわけではない。……戻りたくても戻れない人もきっといる。だから今は、代わりに私達がいるんだ。

 「犬ころに合わせて夜明けと共に出る」

 「支度はできてるよ。……頑張ろうね」

 「言われるまでもない」

 挨拶代わりのやり取りを終えて私は眠った。久し振りに使う自分のベッドはやっぱり少し埃臭かった。

 ビアヘロについて知識は独学で少しずつでも身に付けている。今日のビアヘロの特徴は以前にソニアさんから聞いた物と特徴が一致していた。……ソニアさんには戻ってから一度もまだ会えていない。ティラドルさんに聞いても今は研究に集中していると会わせてはもらえなかった。カルディナさんも口に出さないからもしかしたら二人では会ったのかな、と勝手に思っている。

 「ジャル……って呼ばれてるんだっけ」

 「角が武器で……攻防一体なんだよな」

 私が確認し、フジタカも頭の情報を引っ張り出していた。ソニアさんがいないと、こんなにもあやふやな知識なんだと思い知らされる。

 「フジタカ!臭いで発見できないのか!」

 「無茶言うなよ、知らない臭いとか……。耳を澄ますから大声出すなって」

 「お前……!」

 後ろを歩いていたチコがフジタカへ声を張る。まだ何か言いたそうにしていたから私が口元に指を当てて静かにする様にお願いした。

 「……ちっ」

 「………。どう?」

 しばらく全員で黙っているとフジタカの左耳が微かに跳ねた。

 「………向こう、蹄みたいな音がした」

 フジタカの指差した方を見るが、木々に覆われビアヘロ……ジャルらしき姿は見えない。隠れているか、位置取りが悪いか。レブは何も言わなかった。

 「よし、行くぞフジタカ」

 「待ってくれよ!」

 指差した方向へチコが一番に歩き出す。それに遅れてフジタカ、私とレブ、一番後方にルビーが続いた。

 「レブは飛んだりしないの?」

 「不要だ。こちらに気付いて向かって来ているのだからな」

 私が前を見てもまだ何もいない。でもレブの耳や鼻は何か……。

 「っ……」

 「聞こえたか」

 「うん」

 音だけ聞こえた。草を踏み締める硬い何かが……勢い付いてこちらへ来る。

 「ルビーは少し下がって!」

 「でも、私も何か……」

 緊張からかずっと話にも入れていなかったルビーもこの場に立って自分を奮い立たせた様だった。

 「心意気で十分だ。今回はあの犬ころを見ていれば良い」

 無理はさせたくない、と思っていたところにルビーへレブが言ってくれた。腕を組み、どっしりと肩幅に足を広げて先を見ている。まるで自分は動く気が無いかの様に。

 「レブは……」

 「不測の事態が起きれば対処する。それで構うまい」

 「え……あぁ、うぅん……うん」

 少し迷ったけど、理には適ってる。二人掛かりの方が早いと思うけど……。

 話している間に少し遅れてしまう。再び二人を、ビアヘロを追って私達は走った。

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