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合格は終着ではない。

 「頼りにしているぞ、チコ」

 クレトさんにチコは胸をトン、と叩いて見せる。

 「少し扱いにくかったが、今ではその力の使い方も分かってきた。任せてくれよ」

 チコは元気良く答えた。……でも、言われたビアヘロと中心に戦うのはチコではない。フジタカを差し置いて言ってしまうのは安請け合いじゃないのかな。

 後ろに立っていたフジタカは何か言おうともしない。チラ、と後ろを見て彼の表情を確かめても無表情だった。ぼんやりしているわけでもない。

 「トロノから来たのが貴方達だったというのは少し心配だったけど……。今はどんな召喚士よりも信頼できる。お願いね」

 「母さんこそ。ビアヘロなんて騒ぎでぎっくり腰になってんじゃないかってこっちが心配したっての」

 セルヴァはトロノやアラクラン周辺程はビアヘロが出現しない。まして、現れたとしてもトロノの召喚士が村に着くまでに対処する場合も往々にしてある。この前のペルーダと違い、実害まで被ったビアヘロがセルヴァを賑わせるなんてかなり久し振りだ。

 「ルビーを危険な目には合わせません。私達で早急に対処します」

 「ザナ……」

 だから私も意気込みを見せておく。この村に危険なんて似合わないのだから。

 チコも対抗意識を燃やしたのか私を見る目が細くなっている。こうして張り合った方がチコはやる気を燃やすと知っていたから私は敢えて言った。……セルヴァではもっとゆっくりしたいけどそうも言ってられない。

 「セルヴァから旅立った召喚士達にも聞かせたいぐらいだ……。一刻も早い解決を願っている」

 言って長老と私達はしばらくビアヘロの目撃情報や被害状況の確認を行った。活動範囲の広さに別個体の可能性も示唆されたが、森の外には出ていないらしいと発見する。

 どうやら計画的に村人達がセルヴァの結界陣を越えた途端に襲われていたらしい。相手が餌を持っていると知ってたんだ。

 「魔力が切れて消える、って事はないのかな」

 「無いから派遣されているのだろう。楽を考えるな」

 帰りの夜道、歩きながら私はレブに尋ねた。返ってきた返答はもっともだけど……。

 「ビアヘロにも依るんだろうね」

 「魔法を使わず大人しくして、効率良く魔力を摂取する。浅知恵は持っているらしいな」

 被害者の肉を一部食べたとか血を飲んだとか……噛み付くだけでも随分この世界への定着度は変わるみたい。その辺りは異世界の住人達に聞いても反応はまちまちだった。この世界から出られない私達にはどの説明でもピンと来ないんだよね。

レブはチコの家で振る舞われた夕食を無言で食べていた。温かな野菜スープに浸し、旨味を吸ったパンを食べる……。あまりトロノでやっていなかった食べ方でもレブは見よう見まねで同じ様に食す。帰宅した私達はもう、あとは眠るだけだった。

 「セルヴァから旅立った、か」

 家に着いてから、ふと長老が最後に言っていた言葉を思い出す。

 「召喚士の話だな」

 しっかり聞いていた様でレブもすぐに扉を閉めて私を見る。

 「セルヴァの選定試験に合格して戻ってきた召喚士って知らないんだよね」

 「合格者として威勢良く飛び出したのだ。引っ込みがつかないだけではないのか」


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