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レブの見るザナ。

 「私はそんなにおかしい発言をしたのか」

 「あのね!そもそも私は……!」

 自分の事を可愛いとか言った事、無いから!言い返す前にルナおばさんが笑いをなんとか堪えた。

 「あっは……。笑い過ぎちゃったね。ふぅ……」

 おばさんはおばさんで笑い疲れちゃってるし。

 「冗談を言ったつもりはないぞ」

 「その目を見たら正直に言ったってのは分かってるよ。でもねレブちゃん。女の子を恥ずかしがらせる様な事を人前で言っちゃあいけないよ」

 こっち見ないでよ。顔赤いのバレるでしょ。

 「……配慮が足りなかったか」

 いつもの様に……二人の時に言って欲しかったかな。……人前で言うか、二人でいる時ならの話ね。可愛いって言われて浮かれてはいられないんだから。

 「私も笑ったからハイリョができてなかったね。ごめんよザナちゃん」

 「いいえ」

 ルナおばさんのこういう思った事をすぐに声に出せる人は尊敬する。だから私も素直に話をしていられるんだ。

 「お詫びに、これあげる。ザナちゃんと分けて食べるんだよ?」

 「む……これは」

 ルナおばさんが棚から果物を取り出しレブに渡してやる。

 「白ブドウじゃないですか」

 白、と言うが見た目は淡い緑色のブドウだった。

 「伝手で仕入れたんだよ。お得意様に、もっとお買い上げ頂ける様にこっちだって工夫してるのさ」

 レブは渡された白ブドウを睨んでいる。

 「熟していないではないか」

 「これは熟しても緑色のままのブドウなんだよ」

 私も詳しいわけではないけど知っていた。ブドウは元々未熟なうちは緑色だが、成熟するに連れて紫がかってくる。しかし中には緑色のまま房を大きくし成熟する品種もあるのだ。

 「……ね」

 ルナおばさんが穏やかに私達に微笑んでいる。

 「見てごらんよ。ブドウはレブちゃん、白ブドウはザナちゃんに見えないかい?」

 言われて二人で顔を見合わせる。……レブはまんま紫色だけど……私の髪はもう少し青みがあるかな。そう言うと、未熟な部分が目立つ感じ。

 「確かにな」

 レブが陽の光に白ブドウをかざす。

 「……綺麗だ」

 「だからそういうのは……!」

 「白ブドウの話だぞ」

 くっ……!自分で言ってしまった。

 「誤解させてしまったか」

 「ううん……。私が悪いの」

 綺麗だ、って言われて少し浮かれたのかな……。思い違いして情けない。

 「レブちゃん、気に入った?」

 「味は確かめておく。気に入れば、次は買わせてもらおう」

 「頂いて良いんですか……?」

 なんだか前から良くしてもらってばかりだ。しかも、話を聞くにレブの為に白ブドウを仕入れた様な口振りだったし。

 「ブドウは買ってもらったんだし、いいんだよ。また元気に戻ってきてくれたからね。あぁそれと」

 ルナおばさんが更にリンゴを渡してくれる。

 「これを、フジタカに。あの子……落ち込んでたんでしょ?たぶん、二人よりも」

 「あ……」

 フジタカが英雄なんて言われて気を重くしてたの……おばさんも気付いてたんだ。

 「……ありがとうございます」

 私は最後に頭を下げて果物屋を後にした。

 普段のレブなら場所も構わずブドウを一粒一粒もいで食べ始めるのに、今日は食べようともしない。ただ白ブドウを持って眺めているだけだった。

 「レブ、食べないの?」

 「食するなら部屋に戻る」

 「言われなくても戻るよ。でも、いつもなら……」

 言って、人気の無い街路の外れを二人で歩いてトロノ支所への近道。この道はレブと早朝デートを繰り返して見付けた道だ。……デートってやっぱり教えてくれないけど。

 「ここまで来れば人はいないな」

 レブが立ち止まる。

 「外での食い歩きがお行儀悪いって、気付いたんじゃなかったの?」

 「違う。……先程の話だ」

 ルナおばさんとの話で……って、これ以上何かあったっけ。

 「白ブドウもだが、貴様も美しいぞ」

 「ぶ、ブドウと一緒にしないでよ!」

 例えが失礼でしょ!自然の恵みと同じくらいに美しいとか言ってるんだったら、もう少し詩的な表現に変えるとかさ!

 「……それで貴様の美しさを引き立てる方法を思い付いた」

 「えっ?」

 レブが私にブドウを渡す。すると彼は自分の腕の鱗を一枚、勢い良く剥がした。

 「……受け取れ。そしてブドウを返せ」

 「……はい」

 言われた通りにレブの鱗とブドウを交換する。手に収まった鱗は爪よりも少し大きい程度。だけど……。

 「わぁ……」

 とてもじゃないけど、私の髪なんか比較にならないくらいに綺麗だった。

 「首飾りや耳飾りでも、好きに使えば良い。黄色い嘴の方が好みかもしれないがな」

 「だから好みとかじゃないってば。いいの?」

 あぁ、とレブは言って歩き出す。

 「どうせ数日で生える。もっと必要なら言え。鎧を作るとなればしばらく時間が要るが」

 「それはいいかな……」

 ……でも、と私は掌で光る鱗を見詰める。

 「ありがとう、レブ。……大事にするから」

 「ふん」

 レブは言葉で返事はしてくれなかった。

 「ねぇレブ。白ブドウ食べたいから頂戴よ」

 「食い歩きは行儀が悪いと言ったのは貴様だ」

 「ケチ」

 竜の鱗なんて貴重品を何の気兼ねも無くくれる人物が白ブドウは頑なに渡さない。その構図におかしいと思いながらも私の表情はどこか緩んでいた。こんな暮らしをしてまた過ごせる。それがどんなに儚いか、どんなに大事か知ってしまったから。

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