灯し合える想い。
直れば良い、許されるわけではない。直った暁には私達を許してほしいとも言えない。失った物は必ずある。命さえあれば、と言えるのは本人だけだ。
「おい」
「え?」
そこにレブが片目だけ開けて私を見上げていた。
「思い詰めるな。取り戻せるものは、取り戻すだけだ。平和な日常、他愛ない世間話、でもな」
「……うん」
アルパの人々の暮らしを取り戻す力。失わせたのも召喚士だけど、元に戻せるのもまた、召喚士でなくてはならない。だったら私が……私達が頑張るだけだ。
「しかしティラ。しばらく見ぬ間に変わったな」
「そうでしょうか?」
レブが見るティラドルさんの見た目に変化はない。あるとしたら中身なのだろう。
少し言っている事は分かる気がする。前はアラサーテ様の一辺倒だった。今も久し振りに会ってとても気が高まっているのは伝わってくるし。
でも、要所要所ではソニアさんやアルパの人々を気にしている。その変化に自覚はないみたい。
「アラサーテ様だけでなく、お嬢様の事も考えるようになったからでしょうか」
お世辞も上手くなった、のかな。
「そんなの……」
「気持ち悪い」
「ちょっとレブってば……!」
気にしない、って言おうとしたのに。あぁ、ティラドルさんが肩と羽を落としちゃう。
「あ、あの……ティラドルさん!」
「我の行いは……アラサーテ様だけでなくお嬢様にもウザいと思われていたのですね……」
ああ、もう。こっちにまでフジタカの言葉が伝染してる。本人も気まずそうに目を逸らすし。
「聞いて……くれないかな」
「はい、なんでしょうか……」
……ここからは、率直に聞いてもらおう。
「今日、ティラドルさんと話せて少し元気をもらえたと思う。ありがとう」
「お嬢様……」
上手くは言えない。でも正直な感想だ。
今日まで私達は自力では立ち直れていなかった。正確に言えば、まだ全快とは言えないかもしれない。それでも、今日会ったルナおばさんやティラドルさんは何も知らないからこそ私達に変わらず接してくれた。
……それが、冷え切った心に火を灯してくれた。レブと二人ならともかく、私達全体は……傷の舐め合いだったのかも。
「俺も。まだやる事はある。終わってなかったって分かっただけでも進めた気がする」
「レブは?」
フジタカも続くので、私が尋ねるとレブは頬を掻いて咳払いをした。
「……ティラ」
「はっ」
「……今日までご苦労だった。引き続き自身の任に励め」
ティラドルさんが椅子を鳴らして立ち上がる。
「ああ……アラサーテ様……!もう一度、お聞かせ願えませぬか……!」
「聞き逃したのであれば、そこまでだったという事だ」
「いえ!このティラドル・グアルデ!誠心誠意今後もアラサーテ様、お嬢様をお守りする為に尽力致しますぞ!」
守る為の命ではない。だけどこう言ってくれる相手がいるのってとても心強いんだな、って感じられた。君もそうだったのかな、ココ……。
話が終わり解散してすぐに休んだ翌日、私とレブは早速朝から買い物に出掛けていた。買う物は当然、決まっている。
「あらぁ!本当に来てくれた!ザナちゃぁん!レブちゃん!」
「おはようございます!」
気晴らしする事が大事、と言うのは乱暴だけど……落ち込むよりも動いていた方が前を向けると昨日思えた。
だから昨日の口約束を果たしにルナおばさんの果物屋へやって来ていた。
「ブドウはあるな」
「もう、当たり前でしょ!レブちゃんの分、ちゃんと押さえてあるんだから!」
レブが小銭を渡し、ルナおばさんが笑ってブドウを手渡してやる。こんな日が頻繁にあった事も昨日まで忘れてたのに、目の前にするとやっぱり覚えているものだ。
「そうだ。昨日の買い出しって、何を買ってたんですか?」
「うふふ、気付かない?」
ルナおばさんが首を軽くゆらゆらと振る。少し目を凝らして、私はある事に気付いた。
「あ、耳飾り?」
何かが揺れ、きらりと光りを反射した。見れば、ルナおばさんの耳に赤く光る石でできた耳飾りが光っていた。
「そう!昨日は雑用もあったけど一番はこれを買いに行ってたの!」
言って、よく見える様にとひし形に加工された耳飾りを押さえて見せてくれる。綺麗……。
「よく似合ってますよ!」
「ありがとう!ザナちゃんはそういうのは興味ないの?」
「うーん……」
装飾品かぁ。……あまり気にした事が無いんだよね。でも、この召喚士の腕輪ぐらいしか自分を飾るものが無い、ってのも女の子としてはどうなんだろう。
「素が美しいから望みは薄いな」
「ちょ……っと!」
「あっはっはっはっは!レブちゃん、冗談が上手になったじゃない!いや、ザナちゃんは可愛いよ?でも……あっはっはっは!」
レブは本気で言ってるつもりだろうし、ルナおばさんにはお腹を抱えて笑われてるし!人前では少し自重してよ!




