エルフ達の憂戚。
「我はソニアの研究の傍ら……アルパに何度か復興の手伝いで訪問していました」
アルパ、と聞いてフジタカの長い耳が跳ねる。
「とは言っても、触らせてはもらえない。遠目から見学するのを黙認されていた程度です」
「それでも良いんで、聞かせてください」
フジタカが前に身を乗り出す。私も聞きたかった、あれからアルパがどうなっていたのか。
「トロノでエルフの姿を見なかったが」
「はい。ほとんどの者は避難後すぐに散らばりました。……アルパに戻って、復興を始めたのは三割程度です」
百世帯に届かないうちの三割と言ったら、ほとんどいなくなってる。
「残りはセルヴァやアラクラン、もしくはピエドゥラを越えた先の集落を目指したと思われます。全てはトロノ支所も把握できていません」
「……そうか」
レブも腕を組んで何か考えているようだった。
「復興はどの程度進んでいるの?」
私からの質問にティラドルさんはゆっくりと首を横に振った。
「ほとんど進んでおりません。大工の手伝いもできない状況に加え、召喚術を使えるエルフも……」
「ゴーレムは使いたくない、か」
「仰る通りでございます」
結論を言い当てたレブにティラドルさんが軽く頭を下げる。
「ソニアも含め、召喚士達が数人で説得に行っても応じませんでした」
物は使い様、とよく言うが使う人が道具を好きになれなければ使える物も使えない。まして、私達が手伝う、なんて言っても使う人を信用できるかは相手次第。そして……恐らく答えはまだ覆らない。
「しかしフジタカ。君のおかげで随分片付けは捗ったそうだ」
「………」
アルパで大勢が見ている前で消して見せた事を言っているんだ。フジタカからすればその力との向き合い方が分かってきたところ。……切っ掛けは本人も嫌がってるだろうな。
「エルフも分断する程度にはいざこざが起きていました。本人達からすれば長い時を過ごしたあの地を何も無い土地に変えられたのが余程堪えたのでしょう」
エルフの種族的特徴と言えば、まず一番に挙げられるのが寿命の長さだ。森と寄り添う様に生きて、悠久の時を植物や樹木と共に過ごす。その長い暮らしの中で魔力に目覚めても、それを何かに悪用する様な者は少ないと聞いた。腕力が秀でているという話は聞かないが、寿命の長さから来る知力や魔力ならば人間の比では無い。
「感情を向ける相手がいないのだろう。ただでさえ内向的な種族だからな」
レブの推測は当たっているのだと思う。でなければ、トロノなんて便利な町から離れた森の中に集落を作って住んでいる訳ないのだから。
「それも変わっていくでしょう、フジタカが戻ったのですから」
「俺……?」
名前を出したティラドルさんはゆっくりと言ってくれる。
「お前はアルパを潰した張本人とそそのかした者を倒したのだ。それを知れば、エルフ達の召喚士を見る目は変わる。……時間は必要だろうがな」
「でもアマドル達を捕まえるって言って結局逃がした……。それに直接殺したのだって……俺ではない」
フジタカが殺したのはインヴィタド達とベルトラン。本人はティラドルさんに言われても納得できていない様だった。
「過程は我も聞いた。だがエルフ達には結果、事実を伝える事が最も重要なのだ。お前の過程を考慮するなど、今の連中にはできない」
「………」
いなくなってしまった人達を後回しにさせるのが本当に得策……なのかな。言っている事は分かるのに、認めたくないんだ。
「フジタカ達は契約者自らが囮となり旅に出発。一度は取り逃がしたが、次に遭遇した際に犠牲を払いつつもアルパを襲撃した二人に加えて更に二人をまとめていた者も処断した」
「要約すると身も蓋もないものだな」
話をかいつまんで言ったティラドルさんにレブは鼻を鳴らす。そんな一言や二言で纏められないのに、当事者でない人達にはその程度以上に理解してもらえないんだ。相手の聞く耳にも依るのだから。
「他の人間の町に暮らすエルフ達には効果があるかもしれません。おそらく、あの男かソニアがすぐに手配するでしょうから話は広まります」
ブラス所長がフエンテの事は伏せて、か……。召喚士達の中でしかできない話になっていくんだろうな。
「戻ってきてくれる、かな」
「エルフは故郷を大事にすると言います。……あとは復興に尽力できる態勢が整えば、あるいは」
エルフの人達が協力させてくれれば。……そう思うけど、それって善意の押し付けなのかな。それか、私達が招いた事件へのせめてもの贖罪のつもりか。




