変わる自分、変わらぬ他人。
「おうよ。どうだデブ、ふわっふわだろ?」
「……そうだな」
私の時は良い香り、って言ってくれたじゃん。フジタカの方が毛も多いから余計に香ると思うのに。
「鱗磨きという気分ではなくなったな」
「どうかお許しを……」。
「あの……ザナ。俺が背中流すとか変な事言ったせいなら悪かった……」
なんで二人ともそんなに謝ってばかりなの……。私の行動が軽率だった……?
「やっぱり尻尾を握る、ってのはそっちの世界でも……」
「うむ。間違いない」
「お前達、いい加減その話を止めろ」
私が聞く前にレブが二人の話を止めさせる。置いてきぼりにされて言い出す機会を逃してしまった。聞いてももはや教えてくれなさそう……。異世界の文化とか風習?尻尾を持った人種がそもそものオリソンティ・エラにいないから分からないよ……。繊細な話題だったのかな、レブの背中への反応も含めて。
「……失礼しました。アラサーテ様がお戻りになられたと聞き、つい遠征先での武勲を早く耳に入れたいと思いまして……」
レブとフジタカ、そして私もティラドルさんを見る目が変わる。
「おや、どうされました?勿体ぶらずに聞かせてくださいませぬか!」
どうする、と顔を見合わせる私達を順番に見られてもどうしようか迷う。部屋に入ってもらうとレブから口を開いた。
「……武勲等とは言えない」
「………?」
そこまで言うと、ティラドルさんの表情からも浮かれるだけではなくなる。椅子に座ってもらってからは私がぽつりぽつりとトロノを出発してからの事を話し出した。カルディナさんの様には上手くできなかったけど。忘れなくてもこの話をするのは……最後にしたい。
「契約者の死……ですか」
「お前にとってはただの契約者だ。だが、私や他の連中にとっても同じではない」
話終わってもティラドルさんはブラス所長と同じだ、何を感じるでもない様だった。フエンテの三人を倒した部分だけを取り上げると思ったけど、レブが先に封じる。
「アラサーテ様にそこまで言わせる者だったのですね」
「契約者だからじゃない。ココも、サロモンさんも……殺される様な人じゃなかったんだ」
フジタカを見てティラドルさんも言葉を選んでいる様だった。
「戦いの中で発現した力、それは使える物か?」
敢えてフエンテの名前は出さずに言ったのかな、と思った。
「胸の中にあったつっかえが取れた様な感じがした。頭にきて、考えてることが本当に一つだけになってたからかな。とりあえず……同じ事はできる」
断言するフジタカを見てあの日の事を思い出す。スライムに足を取られたベルトランに突進して、ナイフが相手の細剣に触れた。すると剣ごと相手の腕も消し去ってしまう。……いつもなら剣だけか、全てを消していたのに。 試しに何か消してみてもらおうかと思ったけど、話している間に陽は落ちてしまっていた。
「夜消せないのは変わらないんだよね?」
「そうだな」
ココが言っていた。時が来ればできると思う、と。……魔力の調整ができるようになったのも、よりによってあんな時でなければ。フジタカは耳を力無く畳んでいる。
「……一方で、お嬢様とアラサーテ様は……」
「私が魔法使ったのはロカの途中だったね」
そう言えば、ティラドルさんには見せた事がないんだ。フジタカのナイフと同じ、あまり人に大っぴらに見せる代物でもないけど。
「レブもいつの間にか飛べるようになって……」
「元々は飛べていた。魔法以外でも力を取り戻しているという実感は日々持っている」
召喚されてすぐは飛べなくてトーロに笑われてたもんね。この前の戦闘を見れば、速度は分からないけどティラドルさんと同じ様にしっかりと飛べていた。空から放つ魔法……妨害は受けにくいのかな。狙い撃ちにされてもレブは平気そうだったし。
「それぞれが成長して戻られたのですね」
「代償が大き過ぎるがな」
魔法が使え、身体も鍛えられたのだろう。その代わりに、私達は決して取り戻せない大切な人を失った。それはあの場に居た全員が感じていた事だ。
そう、ティラドルさんに言われてやっと私達は自分達の中で起きた変化に気付けた。今日までは自分達の身の周りの変化にしか目を向けていなかったから。……はっきり言えば、少なくとも私には余裕が無かったんだ。
「ティラドルさんは、私達が出発してからどうしていたんですか?」
「敬語は結構ですよ、お嬢様」
そっちが敬語を使ってくるからこっちも身構えるんだけどな。久し振りに会うとどう接したら良いか分からないよね。出発する少し前の調子、取り戻せるかな……。




