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 コラルから船に乗ってまずはアーンクラへ。そこからはもうボルンタ大陸だ。俺は船縁で頬杖をついて磯臭い夜の海を眺めてぼんやりとしている。呆けてる場合じゃないのは分かってた。でも、何も考えられないんだよな。

 海は魚だかプランクトンの死骸が腐った臭いらしい。それはこのオリソンティ・エラでも変わらないみたいだな。……俺、内陸育ちであんまり海水浴とかした事ないんだけどさ。人間よりも伸びた鼻をひくひくさせても懐かしさはあまり感じない。

 海水浴かー……。ザナとかカルディナさんも泳ぐ時は水着とか着るのかな。そもそも遊びで泳ぐなんて文化あるのか?ビアヘロが危ないからそんな無防備な事できない、とか……。

 「フジタカ?そこにいたんだ」

 「おう」

 一人で噂をすれば。甲板に出てきたのは長い髪を揺らして足をふらつかせたザナだった。

 「大丈夫か?」

 「うん。ニクス様のおかげで。揺れる足元ってやっぱり慣れないや」

 言ってザナは俺の隣へとやって来る。手に持っているのは契約者、ニクス様の羽だった。

 本当はトーロに巻き付けてた羽なんだが、傷は塞がったからって俺とザナが貰った。この羽が実は優れもので、効能に癒しだけでなく酔い止めも含まれてたらしい。だから船酔いが酷い俺とザナもこうして船旅を楽しんでいられる。

 「少し気持ち悪いけどね」

 「……だな」

 ……楽しむ、ってのは大袈裟だった。具合は悪いが吐く程じゃないってくらい。それでも俺達からすれば大躍進だ。俺もニクス様の羽を取り出し、指先でくるくる回す。これ、いきなり効果が切れたりすんのかな……。

 「落としちゃうよ」

 「大丈夫だって。俺達が話すの久し振りだな?」

 「うん。……歩いてる時、皆静かだったもんね」

 旅の道中、黙って歩いていた理由は俺達が一番よく分かっている。俺達はフェルトを出発してから口数がぐんと減っていた。なんとなく、気まずかったんだ。

 「しばらく歩かないし、こうなると話すか寝るかしかないんだよね」

 ザナの表情はあまり落ち込んでいない様に見えた。……まぁ、あれから気を静める時間はあったもんな。

 「……気にしてないわけじゃないよ」

 「えっ?」

 なのにこっちは未だにくすぶってる。それを見抜いた様にザナが俺に言った。

 「……フジタカも、ライさんみたいになってないかなって。聞きたかったけど話せなかった。で、今日は絶好の……チョイス?」

 「チャンス、な」

 思わず表情が緩んじまった。顔が緊張してたんだ、って気付いて一度自分の顔に触って確かめる。こんなに強張ってたんだな、俺の顔……。

 「フジタカ語は難しいね」

 「俺語じゃないんだけどな……」

 ある意味、良い言葉のチョイスだったかもな。そう思い直して俺は少しだけ話してみようと思った。

 「……ココが僕に他にできる事はないもん、って言ってたの覚えてるか?」

 「うん」

 ココ、って名前を出すだけでまた何かが込み上げてくる。一息、海を嗅いで深呼吸。

 「そんな事を言ってたやつだったが、俺達を助けてくれたのは間違いなくココだった。……それを殺したあのベルトランが許せなかった」

 「……ナイフ」

 刃を畳んだナイフを手に持つ。この重さを掌で感じていると妙に落ち着いた。

 「あの時……自分でやったの?」

 「そうだ。……できる、ってどうしてか分かんないけど確信してた」

 言葉でどう表現するのがいいんだろう。自信ではなくて、もっとこう……気持ちで言えばこのナイフで何ができるか分かっていた。ナイフで斬れば、相手に何が起こるか……知っていた上で俺はアルコイリスを使ったんだ。

 「その後、ナイフを放ったよね」

 「あぁ……だな」

 ザナと話していてもやもやしていた思考がクリアになっていく。

 「殺す気だった。ナイフを使ったのは、確実にベルトランを殺してやろうと思ったからだ」

 物騒な考え方をする様になったな、俺……。今でも貫いた時の感触や、ベルトランが吐いた血の臭いも思い出す。……あの気持ち悪い笑顔もだ。

 「……復讐する相手、もういないんだよね」

 「そうなるのかな」

 本当はアマドルとレジェスは生け捕りにしてやりたかった。アルパを潰した償いを……俺の手でさせたかった。もっと罵って、責めて、そして……。どうしたんだろうな、刑務所にでも入れたかったのかな。それすらも今となっては分からない。

 だって、アイツらはもういないんだから。テルセロ所長が呼んだゴーレムが埋めたってのもあって、その辺は俺も受け入れている。

 「デブの言った通り、しばらくは静かに暮らせるのかな」

 「そうしたいね」

 だけど、そうもいかないんだろうな。このナイフを使う日はまた、きっと来る。きゅ、と握り直して俺はナイフをしまった。

 「デブで思い出した。最近アイツとはどうなんだよ?」

 俺が聞くとザナの口が震えた。

 「れ、れれレブ!?別に、どうもしないよ!」

 「ふぅん?」

 歩いてる間は二人もそんなに喋っていなかったが、何かあったな。あったとしたら……フェルト支所か?

 ……いいなぁ、恋人がいるって。いや、この二人の場合は違うのか?

 「フジタカ?違うからね?」

 「はいはい、分かってるよ」

 「う、嘘だ!」

 この際どっちでもいいな、見てて面白いから。俺にはそういう話、当分巡って来そうにないし……。


 静かな日常が少しずつ取り戻せた。だったらあとは平和に暮らすだけ。

 ……それでいいのか。自問自答しても、結局答えも正解も見えてこなかった。

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