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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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お散歩日和。

 「ソニア姉さん達が来るって知ってたのか、あのおっさん……!」

 フジタカが苦笑して肩からも力が抜けた。知っていたのに黙っていたんだ……。

 「俺、体調悪いんだけど……って、そうも言ってらんねーな」

 チコはなんとか自分を奮い立たせて深呼吸をしている。呼吸を整えるだけでも魔力の巡りは良くなるから、魔力酔いには効果的だった。

 「話が見えないんだけど……」

 「さっきまでブラス所長がここに来ていたんです」

 ソニアさんに説明するとティラドルさんは顎に手を当てた。

 「あの所長、今回はアラサーテ様とフジタカに任せたい様なのです。私はその付き添い」

 まだ私達は経験が浅いから単独でビアヘロ退治に行く事はほとんどない。だから今回も危険があるから先輩達と同行、と思っていた。その中でできる補助を行い勉強する。

 だが今回は私達が主体になってビアヘロを撃退しろ、と言ったらしい。

 「だったらもっと最初に言うべきだったろうに……」

 フジタカは不満らしくまだぶつぶつ言っている。だけどこうしてはいられない。

 「ねぇフジタカ、被害はもう発生してるんだから早く動いた方がいいんじゃない?……できれば、陽が暮れないうちに」

 「あ……!そう、だな。だったらこうしちゃいられない」

 私が何を言いたいかは察してくれたのかフジタカの目付きが変わる。

 「私達は……」

 「あぁ、必要ない」

 レブは身体が武器であり防具だ。常に全身に最高級の武具を纏っているも同然。だから必要なものと言えば、食料品くらいだろうけど今回はすぐ近くの話。決着をつければ戻るのも容易い。

 一度トロノ支所に戻って用意したのはチコ用の剣と私の鞄くらいだった。小悪魔相手に用意すると言っても聖水を注ぎ込んだ瓶ぐらいのもの。軽装だが、動き回るにはこの程度が無難だと思う。それよりも問題は……。

 「足は痛むか」

 「ちょっとね。でも、肉離れしてるわけでもないし昨日よりは楽だよ」

 レブとの走り込みで起きた筋肉痛だった。召喚学に集中して部屋に居る事も多かったから体がすっかり鈍っていたみたい。翌日まで筋肉痛を持ち込むとは思わなかった。

 だけど辛いのは今日走り回ったソニアさんやスライムを立て続けに召喚したチコも変わらない。それどころか二人に比べればよっぽどましだ。簡単に化粧をし直して凛と歩くソニアさんの姿は女性としても、召喚士の先輩としても立派なものだった。

 「あの森か」

 トロノを離れ半刻程度歩いて森が見えてきた。もう少しで着くと思うけどやたら鳥が森の周辺を飛んでいる。

 「あれはただの鳥だよな……?」

 「あぁ」

もしあれが全部ビアヘロだったら、とフジタカは身震いしていたがレブが事実のみを伝える。私だって数え切れないだけの鳥の全てをビアヘロとして相手にするなんて考えたくもない。

 「この時間からあれだけ大量に飛び回っているって……妙だよな」

 「うん」

 チコに同意して頷く。状況は違うけどペルーダが現れて暴れていた時を思い出してしまう。

 「恐れる事はありません。アラサーテ様が共におられるのですから」

 「そういうのは、自分の召喚士に言った方がいいんじゃないの……?」

 ティラドルさんが私を元気づける様に言ってくれるけど、声をかけるなら私よりも黙々歩いているソニアさんに言った方が先じゃないかな。レブはこっち睨んでるし。

 「ソニアには改めて告知をする必要はありません」

 「そう!私はティラドル様の力は召喚陣を通じて常に体で感じておりますから!」

 急に声を上げたからレブの目付きも鋭さから一転、丸みを帯びてぎょっとした。ソニアさんも元気良く会話に加わる。

 「全幅の信頼を置き慕い申し上げます!」

 「自分の身は自分で、召喚陣は……」

 「この身に替えましても守り通します!」

 前々からソニアさんはティラドルさんに心酔している様な言動をしていた。これは洗脳の類ではなく、本人がインヴィタドに対し一方的に抱く感情。

 最初はティラドルさんも魔力を自分へ供給するだけの存在と思っていた様に見えた。……今も言動は大きく変わっていない。

 外面は変わらないのに内容に含みがあるというか、前ほど険悪な雰囲気になっていない。たとえソニアさんが罵られ、叱られても本人はそれすらも甘んじて受け入れている。落ち込む様子は見せなかった

 ティラドルさんとソニアさんの関係は良い方向に進んでいるように見える。

 「………」

 「ザナ?どうかした?」

 「……いえ」

 それでも二人は専属契約をしていない。繋がりは通常の召喚陣で魔力のやり取りのみ。理由がある、のかな。


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