守護者の意地。
だけどベルトラン達は気付いていない。だったら……。
「ねぇ、君……魔法にまだ慣れてないでしょ?」
「…………」
ハッタリでも微かな望みが掴めれば、と思ったけど相手は一目で見抜いていた。
「いやね、派手に叫んだ割にはあっさり終わっちゃったからさ。そこの竜人に教わったにしても……使いこなすには時間が足りてないと思ってね?」
違ったらごめんよ、なんて言ってベルトランは口角を上げた。少しでも余裕を見せたいのに、相手の態度がそれを許さない。
「はぁぁぁぁぁぁあっ!」
「ギャァッ!」
「グエェ!」
サラマンデルをライさんが続け様に二匹仕留めた。こちらへ向くとベルトランに突進する勢いで剣を振る。矢の援護は鎧が弾いて受け付けない。
「おぉぉぉぉお!」
「やだなぁ、ケモノ臭い。牛肉と同じ目に遭いたいのかい?」
「黙れぇ!」
ライさんの大剣を受けても、不思議とベルトランの剣は折れない。最低限で受け流しているにしても、たわんでもおかしくないだろうに。
「ふっ!」
「ぐぁっ!」
ベルトランの手がライさんの胸に触れる。すると胸当てが大きく凹んでライさんの巨体が吹き飛んだ。
「うっ……かはっ……!」
息が詰まっているのかライさんは起き上がれない。あと動けるのは、フジタカとレブだけ。そのレブもインペットの数に推されている。消し切れていない召喚陣から、まだ出しているんだ。……どんどん増えてるけど、これはたぶんベルトランだけじゃない。アマドルとレジェスもどんどん召喚している。このままじゃ……。
「くっそぉ!」
「迂闊に動くな!」
フジタカが剣を構えて走る。それをレブがインペットを相手にしながらも止めた。だけどベルトランも自ら動いてフジタカに向かう。
「ぐぶっ……!」
「剣ってのはね……振り回せば良いってものじゃないよ」
フジタカの腹にベルトランの細剣の柄が埋まる。腹を押さえて倒れたフジタカの周りもインペットが飛び回って私達では近付けない。
「さぁて……お?」
「………っ!」
「あれあれぇ?」
ベルトランの前に、剣を持って相対する者が一人。彼を見てフエンテからの刺客が笑う。
「や、止めなさい!」
「駄目だ!」
「戻れ!」
カルディナさんとウーゴさん、そしてニクス様も止める。チコが落とした剣を握ったのは……。
「こ、ココ……行、くな……」
「ライも皆も動けない。だったら僕が……やる。守らなきゃ!」
ライさんも必死に起き上がろうとしているけど動けない。ココを止めようにも私にできるのは……。
「れ、レブ……!一気にやって!早く!」
「……承知した!」
私の心臓が跳ねる。息が詰まる感覚と共にレブが両腕を広げ、その先から雷撃が走る。次々にインペット達の悲鳴が洩れて撃墜されていくが、数はまだ多い。
「ぐぁぁぁ!」
そこに一人悲鳴を上げたのがアマドルだった。レブの魔法が直撃したわけではない。おそらく魔力の逆流に反応してしまったんだ。狙いは逸れたと思ったのに、つがえていた矢は離れ、それはあろうことかココの肩に深々と突き刺さる。
「うぁっ!」
「ココ!」
ライさんが立ち上がり、直後に足をもつれさせる。私もチコから離れたけど、間に合わない。
「…くっうぅぅぅぅ!あぁぁぁぁあ!」
肩に刺さった矢を引き抜きもせずにココが剣を握り直して走る。
「ふふっ」
「ココォォォォォオ!」
ライさんの絶叫が、横に振ったベルトランの細剣がココの肉を裂く音をかき消す。ココが持った剣はベルトランに触れる事無く手から零れ落ちた。
「あ……ウー……ラ……」
「ふふ……ふふふふふ!あははははは!契約者が自分から死にに来た!あはははははははは!」
頭を押さえてベルトランが大笑いする。倒れたココから紅い命の液体が、さっきのサロモンさんと同じ様に広がっていった。
「こ、ココ……?」
「………」
フジタカがなんとか起き上がってココを呼ぶ。しかし返ってくる言葉は一言も無い。
「あ……」
ココの周りに広がる血に気が付いてフジタカが口角を下げる。そうだ、それが普通なのに。
「契約者殺し達成ってね。もう一人の命も頂くよ」
「させない!」
カルディナさんとウーゴさんがニクス様の前に出る。ニクス様も剣は持っているが振るわせまいと召喚士が守っていた。だったら私にだって……。
「くうっ……!」
前に出ようにも、レブの魔法がまだ続いてる。素早く動いたら転んで立てなくなりそうだった。
「俺が、やる……!」
ライさんは放心して声も出せない。トーロは魔法に倒れ、レブはインペットの数を徐々に減らしている。そこで名を上げたのは涙を流したフジタカだった。
「フジタカ……?」
「……はぁ」
ベルトランは溜め息を吐き出して剣を下ろしてしまう。




