つもり、では勝てない相手。
誰もが言葉を失う中で一人だけ口を動かす者がいた。
「ククク……」
「レブ……?」
この状況で何がおかしいのか。ベルトラン程ではないにせよ、レブが笑っていた。
「冥土に持っていくには過ぎた情報だろうけど、お気に召したかな?」
「あぁ。つまりお前らを潰せば、当面は静かに暮らせそうだという事だ」
初めて、ベルトランの表情に変化が起きた。ぴた、と笑みが消えて無表情へと変わっていく。
「なに……!」
「分からないか」
レブはサロモンさんよりも前に進んで腕を組む。
「お前は我々やそこの二人を短慮だと言った。だが、話を聞くにフエンテの中ではお前も短慮なのだろう」
「ふ、ふふ……。せめて改革派と言ってほしいね」
「浅知恵しかない癖によくも言えたものだ」
「この……」
一度は笑みと余裕を取り戻し掛けたベルトランがレブの一言に今度こそ顔を歪めた。口が逆に曲がっていく。
「初対面だが分かるぞ?自惚れの強い傲慢な者だとな」
人を煽らせたらレブは本当に強い。別に本人に煽っているつもりはない。だって、実力を発揮させれば彼の言葉は現実に起きる力へと変わるから。
「ふふ……崇高な僕らの前に立ちはだかる小虫が今日はうるさいらしい」
「目も飾りとは哀れだな」
「煩い!」
遂にベルトランが怒鳴り、次々周囲が光り出す。召喚陣があちこちに設置されていたんだ。
「そこのジジイと老いぼれの竜人!見よ!これが……!」
あちこちから出てきたのは一本角の馬に子ども程の大きさを持った赤いトカゲが二匹ずつ。そして、見覚えのある姿もちらほら見えてくる。ざっと見ても十匹以上のインペットが私達を囲む様に辺りを飛び回っていた。
「僕達の力さ!あっはっはっはっは!」
これだけの量を一斉にインヴィタドとして呼び出すなんて初めて見た。例えベルトランだけでなくアマドルとレジェスもこの内の数体を召喚しているとしても、私ではこの三分の一を呼び出すなんて真似できない。
「……これ……」
「ニクス様、お下がりください!」
チコは唖然と空を見上げ、カルディナさんが身を呈してニクス様の前に立つ。この状況にライさんも剣を構えて見回すのみ。状況が刻一刻と悪化する中で、私達側は何もできていない。
「トロノや田舎のフェルトでぬくぬくしていた君達にはできない芸当だよねぇ?でも、僕は油断しないよ」
ベルトランは前髪を揺らしながら笑い、見据えていたのはレブだった。
「聞いてるんだ……。そこの獣人の力は厄介だが、本当に脅威となる存在はその横にいる」
「………」
アマドルとレジェスを帰還させてしまえば、もちろんこちらの情報は戦った分だけ相手に流れていく。この前のゴーレム戦、二回共彼らのインヴィタドを倒したのは……フジタカじゃない。
「ふん」
そう、今鼻を鳴らしたレブなんだ。
「見た目に騙されていたが、腐っても老いても相手は人の容を成した竜なんだ。それを今まで見くびっていたのは、確かにこちらの落ち度だよね」
「恥じる事はない」
ベルトランの笑みがレブによって再び消される。
「脅威と理解できる知能があったところで、対抗する力を用意できないのだから結局お前達はただの無能だ」
「………!」




