見抜かれた賦質。
「こ、のぉぉぉ!」
「そうだフジタカ君!もっと打ってこい!」
フジタカが腕を振り抜き、一度ライさんが後ろに跳んで距離を置く。声を軽やかにしてライさんが見せた表情は笑顔だった。
「言われんでも……っ!」
完全に剣を両手持ちにしてフジタカが踏み込む。トーロの教えた両刀使いではない。ライさんが見たかったのは、本当のフジタカが放つ剣圧だった。
「はぁぁぁぁ!」
「ふんっ!」
良い音を立てて木刀が折れん勢いでぶつかり合う。あれだけ派手に激突させれば互いの手も痺れているだろうに、両者手放さずにギリギリと拮抗させて睨み合う。
「う……くっ!」
「ぐ……ぬぅ!」
木刀を跳ね上げると今度は肩と肩を衝突させ、隙あらば再び木刀が振るわれる。それに迎撃し合ってまた距離を置き、仕切り直して再びぶつかった……。
幾度となく繰り返されたそれは、フジタカの敗北に終わる。結果の予想は本人が一番できていたと思う。
「ぐは……っ、はぁ……はぁ……!」
「ふぅ……ふぅ……」
フジタカは両手両足を広げて倒れると息も絶え絶えになっていた。ライさんもだいぶ疲弊した様で、乱れた呼吸と服の襟を静かに正す。
「む、無理……!参りました……!」
「頑張ったじゃないか。最初は……一撃もフニャフニャで……どうしたもんかと……思ったが、な……」
「へ、へへ……」
ライさんが屈んで手を差し出すとフジタカは弱々しく笑いながら握り返し、身を起こす。
「フジタカ、大丈夫?」
持っていた布巾を二枚、私が差し出すと二人は静かに受け取って汗を拭う。
「分かってたんだろ、こうなるの」
「うーん、まぁね」
元からの戦士であるライさんとフジタカが同じ条件で戦えば何が起きるか。それは火を見るよりも明らかだった事……。
「でも、フジタカ凄かったじゃん。ねぇ?」
「ライを相手にこんなに長く粘った人は初めてだよ!」
私が振り返るとココは力強く頷いてくれた。正直な事を言えばあそこまで善戦するとは思わなかったもの。
ライさんの力は圧倒的だったのに、何度打たれてもフジタカは木刀を握り直して向かって行った。結局一打も木刀では浴びせられなかったが、体力の限りぶつかっていった精神力は見ていたこちらがはらはらしてしまう。あれだけ殴られれば自力で立てなくなっても全然おかしくない。
「………」
「私なら剣をへし折って終わりなのだが、って顔してるよ」
腕を組んでフジタカを見ていたレブに私から一言。
「犬ころと私は違う。……だが、よく分かったな」
「当てちゃった」
獣人と竜人を同じに扱う事はできない。分かっていながらも自分の身に置き換えて考える。これが大事なんだよね。
「そこの獅子よ、私と拳を交えるか」
「はは、お受けしたいところですが申し訳ありません。……俺もそろそろ限界で……」
フジタカの横にライさんが足を震わせ座り込む。怪我は無くても体力は削られていたんだ。
「日常的に歩いているから平気、と思っていたが腕は随分鈍っているな……。フジタカ君には気付かされる事が多かったよ」
「フジタカは元々住んでいた世界ではカラテって武道をやってたんです」
喋るのも辛そうなフジタカに代わって私が教える。
「戦いもてんで素人ではないわけだ。巨人に真っ先に飛び込む度胸もある。だから……」
首だけ動かしてライさんは舌を垂らして体温を下げようとしているフジタカを見る。
「君に足りないのは経験と、殺意だな」
「殺意……」
何とか単語を一つだけ拾うがフジタカの顔色は優れない。
「ビアヘロとの戦いはもう何度も経験しているのだろうが……。最初、俺との打ち合いも本当は乗り気じゃなかったと思うんだ」
「……乗り気でないというか、軽い気持ちで受けて立ちましたね……」
そんな事はない、と答えると思ったらフジタカは自分の気持ちを静かに吐き出した。
「殺しはしないし、本物の剣を使ってないのも分かってた。だけどライさんは向かい合ってた時だけは、本気で俺を叩き潰すって気迫を放ってた」
二人の迫力は見ていて圧倒されたけど、フジタカの目に映るライさんはもっと脅威だったらしい。
「これは殺し合いではないが、真剣な試合だった。稽古とか特訓じゃない。毎回挑んで……俺は全部負けた」
レブが少し深く鼻息を出した。
「殺気を向けられ慣れていないのだな」
「慣れてる方がどうかして……!あ、ごめん……!」
指摘するレブに言い返し掛けて、フジタカは言いよどむ。私だって、自分が慣れているとまでは言えない。私が苦笑するとライさんがゆっくりと口を開いた。




