決意なんてガラじゃなくても。
「もっと人が、誰かと繋がってほしい。僕はその橋渡しができる人になりたい」
「良いじゃん、それ。でも人が、誰かじゃない。その中に自分も入れてやらないとな!」
フジタカの言葉にレブも頷く。
「大事にするのは自分自身だ。それを俯瞰した物言いで他人事として扱うのは感心しない」
「要は、ココ自身ももっと人と話そうよ、って事。ね、レブ」
「……うむ」
レブが言いたい事がはっきりと分かった気がした。肯定されて私も手応えを感じる。
「ザナ姉ちゃん……レブも……ありがと!」
二人で顔を見合わせて私は笑う。同時に感謝されるなんて滅多にないもんね。
「おう、なんだ若ぇの!いや、年配もいたか」
「気にするな」
ジョッキを片手にやって来たのはサロモンさんだった。中の麦酒はほとんど空に近い。レブは構わないみたいだけど、流石に年齢が数桁違う相手を若いの、で一括りにするのはちょっと……。
「ははは!どうだ、アンタも飲まねぇか!ブドウ酒はまだあるんだぜ?」
「気持ちだけ受け取っておく。勧められた酒だが……」
「断るからには理由もあるってわけだ。なら無理は言えねぇな」
その理由に私も関係してるんだな……。根に持つとは思わないけど、レブの記憶力は良いし私も忘れないでいよう。
「せめて楽しんでくれよ?アンタ達をもてなす為の宴会なんだからな!」
「分かっている」
表向きは遠路はるばる契約者同士の交流を目的として、ニクス様がトロノ支所の召喚士と特待生を連れてフェルトまでやって来た。それを前フェルト支所の所長であるサロモンさんが音頭を取って催した会合、という事になっている。……こう言うと裏に壮大な陰謀がある様に見える。でも本当はサロモンさんが飲みたいだけらしい。もっともらしい理由を並べても、前からサロモンさんを知っている人はそうらしいと思っているみたい。
「サロモンさん!」
「おっとぉ、どうしたよ。えっと……ココ!」
酔っているのか顔を赤くしたサロモンさんがなんとかココの名前に辿り着く。ココは見習えと言わんばかりにレブを見たけど、そんな視線はレブには通じない。
「あのさ、フェルトの召喚士の人達、紹介して!僕はまだウーゴとライ、あとはテルセロさんとかとしか話せてないから!」
レブには諦めてサロモンさんに向き直ったココが言う。さっきのフジタカやレブの言葉が効いている。
「お、おう……。へへ、そりゃあ大歓迎だ!よしゃ、こっち来な!」
立ったココの肩を叩いてサロモンさんが行ってしまう。後は任せておけば大丈夫だろう。
「分かってくれたかな?」
「契約者としての覚悟ではない」
レブが塩トマトを口に放り、呑み込む。
「だが、あの小僧も変わろうとしている」
「新しい契約者、ってやつにココならなれるんじゃないか?ニクス様の変わり方は俺にはちょっと分かんないけど、ココも自分なりに契約者としての向き合い方を変えたがってる」
さっきまで契約者だから話せないと言っていたココ。すぐにその現状は覆らない。でも、今日の様な日に行動を起こそうと思い、実行に移した。
「ココは偉いね。フジタカもニクス様と話してみたら?」
「意外に面白い事が起きるかもしれぬな」
「俺、老人受けはそんなに良くないと思うんだが……」
そうかなぁ。アルパでもエルフのお爺さんに声を掛けてもらってたし、トロノでは老若男女問わずに人気者だった。レブとだって仲良くしてるのに。
「食わず嫌いをしても仕方ないぞ」
「言ってくれるな偏食家。……分かったよ、俺だってチコとも話したいしな」
言ってフジタカも立ち上がり、水だけ片手にニクス様やチコの所へ向かった。
「貴様も行かないのか」
「んー……」
話したい気はあるんだけど、あの大人達の気が昂った中で聞きたい召喚術の話はしにくいかなぁ。皆最近の近況や健康、あとは普段離さない人達へ個人的な質問をしている。
「私は好きでこの位置にいるんだよ。レブは?」
「……同じだろうな」
だったらいいかな、と思ってしまう。フジタカをけしかけておいて無責任かもしれないけど……。
「そうはいかないよ、お嬢ちゃん!」
「えっ?」
声がして、振り向くとそこにいたのはブドウ酒の入ったグラスを持った女の人が二人。
「そこのカルディナから聞いたよ?凄いインヴィタドを連れてるって」
「そうそう。あの狼君の陰の立役者だって」
そんな風に話していたんだ、カルディナさん。……見ると、本人は顔を赤くして突っ伏して目を閉じていた。飲み過ぎて寝ちゃったとか……?




