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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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新たでない竜人。

 「あのさ、フジタカ」

 「うん?」

 「フジタカの国って平和だったんだよね。ビアヘロもいないし、戦争もない」

 「……まーな」

 腕を頭の後ろで組んでフジタカが倒れ込む。

 「だったらフジタカはなんで、ナイフなんて持ってこの世界に来たの?」

 私の質問にフジタカは閉じかけた目を見開いた。

 「食料の奪い合いや殺し合いもない世界でお前はなんでそんな物騒なもん持ってたんだ?」

 「う……。分かってると思うが、向こうの世界じゃ何でも消すナイフとかじゃなかったんだぞ……たぶん」

 「たぶん?」

 チコからも聞かれてフジタカは倒したばかりの身を起こす。そしてナイフを取り出してみせた。

 「……死んだ親父の形見なんだよ。だからずっと肌身離さず持ってた。だから一緒にここに来たんだな」

 手元を見詰めて数秒、フジタカの目が細まってナイフの向こうを見ている様に思えた。

 「それまではナイフとして使おうとした事もない。鉛筆削るのも、果物の皮むきもな」

 「………」

 レブの表情が心なしか険しい。無表情にナイフを見てるだけ、かな。

 「今じゃコイツに何度命を救われてるか。……頼ってばかりでもいられないけどさ」

 フジタカは着々とこの何でも消すナイフを使いこなし始めていた。夜に効力を発揮しないと言っても凶器に間違いなく、いつぞやは投げナイフとしてすばしっこいビアヘロの足首を捉え、もつれさせたところにレブが止めを刺したこともある。普通の剣士としてはまずまずだが、今日はスライムも一度の大振りで倒した。

 「そう言えばフジタカ、チコのスライムはどうだった?」

 以前から相手にしていたとは言え、苦手意識を普段から持っていたと思う。うーん、と唸ってフジタカはナイフをしまった。

 「核を見る余裕があった。……というか、自分で作ったんだけど。薄くて、鈍かったからかな?」

 「遠慮ないなお前……」

 チコはわなわなと震えてフジタカを睨む。でも、口でも手でも反撃する余力はないみたい。あれだけ立て続けに召喚したんだから無理もない。

 「でも、目を慣らすにはチコのが丁度いい。カルディナさんのは歯応えあり過ぎで、下手すると返り討ちにあうし」

 「甘えるから伸び悩むのだぞ」

 「できる事からコツコツと、とも言わないか」

 一理あるな、と小声で言ってレブはそれ以上言わなかった。フジタカはゆっくりと立ち上がると大きく体を伸ばす。

 「そういうわけだ、休憩もこれくらいだろ?もう少し付き合ってくれよ、デブ」

 話して少しスッキリしたのかフジタカは朗らかに笑うと剣を抜く。レブも拳を握り直し、訓練の再開と思ったその時だった。

 「アラサーテ様ぁ!」

 「……ちっ」

 どこからか声がした。アラサーテ、と聞いてレブは隠そうともせずに舌打ちをする。

 「アラサーテ様!こちらでしたか!探しましたぞ!」

 「上から……」

 一瞬、陽の光が何かの影に遮られた。逆光で直接は見えなかったが、影は上空を旋回してからこちらへ下降してくる。旋回、つまり飛んでいたのは単なる鳥ではない。それが誰かは見当がついていた……残念ながら。

 「ティラ、下がれ」

 「まだ何も言っていないのに!?」

 翼を畳み、私達の目の前に現れたのは紳士服に身を包んだ緑竜人、ティラドル・グアルデ。レブと同じ世界から来た人だ。崇拝する対象に相手にされず、着いて早々涙目になっている。

 「お、お嬢様……」

 「その呼び方、止めてくれないかな……」

 レブに相手にされないからって、ティラドルさんは次に私を標的にした。慰めたいところだけど、どこか抵抗もある。

 それが今の呼び方だった。いつからかは忘れてしまったけど、タムズを倒してトロノに戻ってしばらくするともうお嬢様と呼ばれる様になっていた。

 「お仕えする主君の二人にこうも無視されるとは……どこに不満があるのか教えてくださいませぬか!?」

 「あー、自分で悪い点に気付けず、挙句こうやって人に直接聞いているところだな」

 「ぐぅ……っ!」

 レブは相も変わらずティラドルさんには気だるげで投げやりにしか扱わないし。

 「は、はぁ……ティラドル様……。やっと、追い付い……」

 そこに、へろへろな足取りで走っているのか歩いているかも怪しい状態で赤髪の女性、ソニアさんがやって来た。

 「主人を待たせる使いがいてなるものか。まだまだなっておらんぞ」

 「は、はい……申し訳、ありません……」

 急にティラドルさんの目付きが鋭くなり、ソニアさんを叱り付ける。推測だけど、ティラドルさんを追って走ってきたのかな……。

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