理不尽に立ち向かえ!
サロモンさんの考えは的を射ている様に思えた。答え合わせは本人達に聞くしかないけど。
「………」
どうあっても、もう一度あの二人には会わないといけない。それはきっと戦うという事だ。向こうの話を聞くにはまた叩き伏せる必要が出ると思う。……できるのかな。
「身内だけで楽しもうって魂胆。それが契約者を邪見にする理由、かな。聞いた話と知ってる話を合わせたらよ」
「そんなのってないよ!」
サロモンさんが締めくくったところでココが声を上げる。
「僕もニクスもできるからやってただけ!それを他の人も喜んでくれてた!なのに……」
「そう、なのにだ」
レブがココの言葉を引き取る。
「……何故、今この時期だ。それが解せん」
どうして今になって契約者を……ニクス様を攻撃してきた?そんなの……。
「襲う用意ができたんだろ」
「トロノ支所に潜入する機会を狙ってたとか」
チコとフジタカが言っている事は分かりやすかった。今までは懐に飛び込む算段をしていて、機会が巡って来たから始まった……。
「……それだけか」
レブは納得できていない様で一人思案に沈む。
「トロノ支所内が荒らされたって話はねぇのか?」
「ありません。強いて言うなら、育成機関流の教育を少し受けてもらったくらい」
古くから存在していた召喚士と、新しく台頭してきた私達が使う召喚術の差異を盗みに来たって事かも。
聞いた情報を総合してサロモンさんは唸った。
「……トロノから一番近いのはフェルトか。そんでもって、アンタらが襲われたのはカンポのロカ……。来るか、居るかだな」
既に潜伏しているかもしれないという話はテルセロ所長も言っていた。……だけど。
「サロモンさん、ここに一人で住むのは危険だと思います」
「……ワシが?なんでまた」
カルディナさんが躊躇いがちに答える。
「フエンテの存在を知っているからです。今はまだ、通達が行き届いていないから知っている人物が少ない」
「まして、直接対面した事もあるのならば尚更だ」
付け加えたレブにココが何か言いかけて止める。私達も対面しているから分かる。……もしかしたら、私達と接触したから狙われるかもしれない。
「おっかねぇ話だな……」
「サロモンさんさえ良ければ、少しの間フェルトに戻りませんか?」
「ワシがフェルトにぃ?」
ウーゴさんの提案にサロモンさんは怪訝そうに眉をひそめる。
「はい。それならココと一緒に警護できます。それに、サロモンさんがまた召喚術の教鞭を取ってくれれば若い者達もきっと……」
「召喚術で教える事なんざねぇよ」
強くサロモンさんが遮った。ウーゴさんも気圧されて身を引きかけた。
「しかし……!」
「くどい!……フェルトに連れてくってんなら、行ってやるが……それは無しにしてくれ」
最初こそ怒鳴ったが、サロモンさんの声はどんどん細くなっていった。
「フエンテもビアヘロも専属契約も……もうこりごりなんだよ。だから農作業してんだ」
「………分かりました。すみません」
ウーゴさんが間を置いて引き下がる。沈黙が室内にじんわりと重く圧し掛かった。
最初は一方的な引退と聞いていたけど、本当にそうなのかな。……私達ではまだ聞いてはいけないような気がした。
しばらく外で待たされると、荷造りを終えたサロモンさんが現れた。鞄一つで、思ったよりも身軽そうだった。
「あの、それだけで……」
「いいんだよ。さ、行こうぜ」
鞄を担ぎ直すと中から微かにガタゴトと物音がした。中身が詰まっていて重量はあるらしい。厳選した物を持って来たんだろうけど、何を持ってきてるのかな。
「トロノからわざわざ来てもらって悪かったな。だが、ワシから教えてやれる召喚術はないんでそのつもりでな」
振り返ったサロモンさんに先程までの暗い表情はなかった。釘刺しされてしまったけど聞きたいことはあるよね。
「なぁザナ」
珍しく私の横にチコがやってきた。
「どうしたの?やっぱりサロモンさんが気になる?」
同じ事を考えていたのかなと思って言ってみたけど、チコは首を半端に傾ける。
「いやぁ、それもなんだけどさ。ブラス所長の召喚って、お前見た事あるか?」
「………無い、かな」
うん……思い返してみても無い。サロモンさんの召喚がどういう物かも気になるのに、私達は身近に居た所長の方が余程知らなかった。
「カルディナさんは見ましたか?」
チコが話をトーロの肩の方をぼんやり見ていたカルディナさんへと振る。話は聞いてくれていたのか、こちらへ頷いて眼鏡をくい、と持ち上げた。




