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増えんでフエンテ。

 「なんだそりゃ」

 危機という不穏な単語を耳にしてサロモンさんが髭を乱暴に梳いた。

 「契約者を狙う、育成機関所属ではない召喚士が現れました。心当たりはありませんか」

 「うぶっ……!?」

 カルディナさんからの一言に、頬張っていた野菜のサンドをサロモンさんが詰まらせる。

 「ぐっ……げはっ、げほ……!」

 「だ、大丈夫ですか……?」

 背中を叩くとやんわり大丈夫だ、と私の手を止めた。

 「はー、はー……!ありがとよ。……何かしたのか」

 「………」

 サロモンさんが目付きを鋭くしてニクス様、そしてココを睨む。ニクス様は黙っていた。

 「僕はまだ何も」

 ココが答えるとライさんが頭にそっと手を置いてあげていた。

 「私達は既に二度、襲撃を受けています。フエンテと名乗った彼らは召喚術を使える人間を増やされたくない様でした」

 補足するとサロモンさんはお茶を一気に飲み干した。ウーゴさんがおかわりを注いでいる間は静かになる。注ぎ終えてしばらく湯気を吸い込みながらふと、呟いた。

 「……だろうな」

 一口飲むと長い長い溜息を吐き出した。

 「ご存じなんですね?」

 「まぁな。成程ねぇ、テルセロじゃ知らんわな」

 短く笑ってサロモンさんは私達を見た。

 「昔からの召喚士連中と張り合ったのか、お前達で。だとしたらやるじゃねぇか」

 初めてフエンテを知っている人に会えた。それだけで私は肌が泡立つ。

 「襲ってきたのは若造だ。下っ端に過ぎまい」

 レブが言うと誰もが若造になりそう。でも間違っていない。レジェスとアマドルも若かった。

 「あの連中は才能の塊だ。とんでもねぇ事されたんじゃねぇのか」

 「それは……」

 顔を見合わせて大半が俯く。ピエドゥラでの召喚直後にアルパでの再召喚に専属契約。そしてこの前も専属契約でゴーレムの召喚を行った。確かに、若いと言っても能力は抜きん出ていたと今でも身に染みている。

 「黙ってちゃ分からねぇな。ワシに聞かせに来てくれたんだろ?だったら、話してくれよ」

 「……はい!」

 力強く返事をしてカルディナさんは頷く。それから今までを事細かに話した。ウーゴさん達はもう聞くのが三回目になるから補足やフェルト支点の見解も合わせてサロモンさんには聞いてもらえた。

 「フエンテ、か。群れる様になる数も揃っていたのか」

 話を終えてサロモンさんの第一声は、初対面の気さくさを感じさせない苦々しいものだ。

 「おっと、言わなくても分かるぞ。次はワシが話す番、だ」

 掌を見せて私達の開きかけた口を止める。

 「ワシも契約者を必要とせずに魔力線を開いて召喚士になった奴を数人、ビアヘロ退治で見た事がある。その頃はフエンテなんて名乗ってはいなかったがな」

 知っている情報は多くないみたい。でもニクス様よりも身近だっただけ進展はある。

 「一言で言うなら強力な召喚士。そうとしか思わなかったんだが、決してワシらみたいな召喚士と関わりたがらなかった」

 その召喚士達は人前で力を使わず、極力関らないという考え方を大半が共通で持っていた……?同じ思考をしてるって少し、契約者に似ている。

 「どうして……」

 「そこまでは分からんさ。だが、奴らは決して善人ではない」

 サロモンさんが言い切る。

 「力を独占したいのか」

 トーロの言った答えは私もあるのかな、と思った。レブが以前言った不都合で邪魔、という表現は自分達に都合良くありたいと言い換える事が出来る。

 「問題はビアヘロだ。召喚士がいなけりゃビアヘロに対抗できない」

 だからフエンテは自分達だけ生き残れる様に召喚術を押さえる……うん?

 「ビアヘロの規模が分からないです。もしも、仮に巨人のインヴィタドでも相手にできない様なビアヘロが現れたら……」

 その人達だけで対抗できるのかな。ニクス様やサロモンさんの口振りからして人数は多くなさそう。そんな強大なビアヘロが現れる可能性も高くはないだろうけど……。

 「既にとても強力なインヴィタドが控えているとしたらどうだ。例えるなら……“何でも消し去る力”を持つ魔法使いとかな」

 「………!」

 レブの意見にフジタカが胸を押さえた。

 「襲われた連中がいきなり消えたのもフエンテ側の何者かの仕業、って事か。だったらビアヘロ退治の商売だけで食っていけるだろうな」

 そして、召喚士が呼び出したインヴィタドが持っているのは力だけではない。異世界の鍛冶技術を始め、治癒魔法や作業機械の技術が耐えず渡って来る。一般人からすれば喉から手が出る程に欲しいし、持っている側からすれば安売りしたい物でもない。寧ろ、他に伝播できる連中なんて増やされたくないだろう。

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