元召喚士。
「召喚士は引退したんです。出身はカンポで、召喚士としてボルンタや各地を回ったらしく、所長に着任でフェルトに戻ったところ、農業に目覚めたらしく……」
「一方的な引退で、テルセロ所長は半ば無理矢理に押し付けられたそうだ」
言われれば、所長らしさが足りないというのも分かるかも。ライさんも昔の話は聞いてるんだ。
「良くも悪くも、奔放な方でしたからね……。お?噂をすればなんとやら」
苦笑していたウーゴさんが窓の外を見て口は開けた。足音が騒がしく外から聞こえて、扉が乱暴に開かれる。
「うぁー……あ?なんだ、おめぇら……」
鍬を持って現れたのは背の高いドワーフ……ではなく、人間だった。小麦色というよりは赤く焼けた肌に濃い腕毛と髭。耳が尖がっていたらセシリノさんと同類なんだろうなと思ってしまうくらいに男らしい見た目の老人だった。髪も髭も黒々としているけど貫禄がある。
「き、急にお邪魔してすみません!」
カルディナさんが立ち上がり、頭を下げる。続いて私とチコも立った。
「勝手に入ってますよ、サロモンさん」
横で立つ様子も無くウーゴさんが軽く手を上げる。サロモンと呼ばれた男性はすぐにその顔を向けてニヤリと笑う。
「うん?あぁ、ウーゴじゃねえか。久し振りに来たと思ったらなんだ、大人数で押し掛けやがって」
悪態を吐くが楽しそうに言って帽子を壁に掛ける。
「なんだ、ワシの家に来たのにお茶の一つも淹れてねぇのか。気が利かねぇな」
「急に来たのに妙な真似するのも悪いと思いましてね」
皮肉、というかウーゴさんが冗談を言っている。少し話しているところを見ているだけでテルセロ所長とは性格が大きく異なるとは分かった。
「あの!」
「うぉ!?なんだ、このでっかいにゃんこ!」
……うん、ライさんをにゃんこなんて言う時点で大物だと思う。
「俺はウーゴに召喚された……」
「あぁ、思い出した。ライだかカイってやつだっけか。ワシはサロモン・マレス。他の人らもよろしくな」
耳をほじりながらサロモンさんが名乗る。今度はライさんと私達の番だ。
「ライネリオです。これ、お口に合うかは分からないですが……」
「味見しろよ」
差し出した籠をライさんから受け取ってサロモンさんが顔をしかめる。
「あ、味見はしました。特に問題は……」
「分かってるよ、言ってみただけ。助かるぜ、腹ぁ減ってたんだ!はっはぁ!」
「は、はぁ……」
不機嫌そうな顔をしたからライさんも気を遣ったけど冗談だったらしい。初対面の人にもどんどん話す人が多いよね、カンポ地方って。
「で?最初に立ったのが……」
「トロノから来た召喚士のカルディナと言います。お目にかかれて光栄です」
「光栄て……ワシは何もしてないんだが」
髭を撫でながらサロモンさんは苦笑する。
「契約者と、召喚士の事で伺いたい事がありまして、今回は契約者も含め大勢でお邪魔しました」
「ふーん。でも、食事してからにしようや。これ美味そうだし」
「は、はい……」
「お茶淹れますね」
サロモンさんがウーゴさんの退いた椅子に腰掛け、ウーゴさんは湯を沸かし始める。その間に私達は自己紹介を済ませた。
「若いのに竜人なんて呼んでどうすんだ?大陸一つ支配する気か」
「望まれればそうしよう」
しない。それに管理するの大変だと思うよ。レブはそういうのに興味無いだろうし。
自己紹介を終えると恒例とも言えるレブへの周りの反応。大して驚いているわけでもないから、見たり召喚した経験があるのかな。
「ちっこいが、どうしちまったんだ?力をどっかに封印してんのか」
「私の力は私の中にある」
「じゃあそもそも大した事がない……いや、そうは見えねぇな」
サロモンさんがウーゴさんの淹れたお茶をすすってサンドを頬張る。目線は真っ直ぐレブを向いており、その目の奥で何を見て、考えているか分からない。ココもだけど、何も言ってないのに縮んでいるのが見抜かれている。
「お、あれかいお嬢さん?コイツが程良く成長するのを待って婿にでもする算段か」
「ふむ」
望むなら構わんぞ、みたいな目でこっちを見ないでよレブ。地味に気にしてるのを知ってるから笑って聞き流す事もできないし。
「そんな事より、本題に入ろうぜ。召喚士と契約者の危機なんだから」
話を進めてくれたのはチコだった。自己紹介は皆で済ませたし、私としてもこの話題は後回しでも大丈夫。私とレブ、二人の話だもん。……そう言えば、チコはレブが私を気にしてるって話はまだ知らないみたい。フジタカも茶化すけど広めたりはしないでくれているらしい。




