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まずはお友達から。

 「レブも読書がしたいなぁ、って話だよ。ねぇ?」

 片目を細めてレブが怪訝そうに私を見る。嘘は言ってないよ。

 「レブ爺ちゃんもライの本に興味あるんだ?」

 「ジ!」

 「ジイ!?」

 私とレブが声を重ねる。レブをレブと呼ぶ人はいたけど、爺ちゃんと言ったのはココが初めてだ。

 「……私が関心を持つ女体は一人で十分だ」

 「なーんだ」

 レブを覆う気の様な物が揺らめいた様に思えた。それを一息置くと、ふっと消してレブはいつもの様に淡々と返す。ココも返答がつまらなかったのか手を頭の後ろで組んで足をぷらぷらさせた。……私は聞き捨てならなかったよ。

 「デブ、遂に爺さんにまでなったか……」

 「誰が老けた上にメタボリック・シンドロームだ」

 なに、今の長い単語。レブが興味を持つ女体の話もフジタカが加わってすっかり流されてしまった。

 「レブ爺ちゃんはさー」

 「祖父になった覚えはない。呼び方を替えろ」

 デブと呼ばれるのは替える様に言わないのに、そっちは気にするんだ……。

 「じゃあ何が良いのさ」

 ココも頬袋に空気を溜めて異を唱える。

 「レブで良い」

 「なら、僕もココって呼んでよ」

 面倒になったのだろう、レブが普通に呼び捨てで構わないと言ったらまさかの返し。……ふと思ったけど、レブって人の事を名前で呼ばないよね。フジタカは犬とかわんころ。トーロは牛だし、ニクス様は契約者……。だったらココは……。

 「契約者の小僧」

 「むきー!ココだよぉ!」

 だと思った。小僧はチコと被るけど、名前も似てるからなのかな。

 「せめてコレオとか……」

 「前を向いて歩け、契約者の……」

 「ココ!……って、うわぁぁぁ!」

 懸命に呼び方を正そうとしているけど、レブも呼ばないと決めたのか意地でも応えない。なんとか言わせようと食い気味に言うとココは足をもつれさせ、尻餅をついて転ぶ。

 「言わんこっちゃない!注意されてただろうが!」

 「ライ……」

 ココは見た目以上に幼い。成長すればライさんみたいになるのだろうか。あまり予想はできなかった。

 ココは諦めずに何度もレブに自分の名前を呼ぶ様に言っては断られていた。用も無いのに名前を呼んでどうする、と言っているレブの考えも分かる。だけど一度呼べば済みそうな事を頑なに拒む理由が分からない。

 そうして歩いている間に、森に入る手前に大きな民家が一つ見えてきた。地図は朝に見せてもらったきりだけどたぶんあそこだ。

 「やっとぉ?もう疲れた……。ねぇ、レブ?」

 「鍛え方が足りないのではないか、契……」

 「ココ!」

 親睦は深めたみたい。……成果はともかく。

 「サロモンさーん!」

 ウーゴさんが歩きながら声を張る。しかし返事はどこからも返ってこない。

 「いませんかー?サロモンさーん!」

 呼び掛けながら家に着いてしまう。太い木を切って組んで造られた立派な家だ。

 「入りましょうか」

 「ウーゴ……?いいのか?」

 「大丈夫。ほら」

 ライさんが止めるのも聞かずにウーゴさんは家の扉に手を掛ける。ほら、と言った次の瞬間にはもう開いていた。

 「あれ、鍵は……?」

 「また閉めないで出掛けたんでしょう」

 そんな不用心な話……。いや、他に誰か近所に住んでいる気配は無い。だから大丈夫とか、もしくはインヴィタドがいるとか……いや、返事が無い時点でいるわけないよね。

 ウーゴさんが家主の様に私達を中へと案内してくれる。机に雑に書かれた紙が何枚も敷かれていたり、床は乾いた土の塊が転がっていてざらざらしていた。なんというか、農家の男性一人暮らし、って言葉が似合う空間に見える。

 「あーあー、また散らかして……。適当に座って寛いでいましょう」

 言って真っ先にウーゴさんが座り、余っている椅子の一つをニクス様の方へ寄せる。私達もどうしたものか迷ったけど手近にあった椅子や棚にとりあえず腰を下ろした。

 「レブは座らないの?」

 「どこに座れと言うつもりだ」

 ……確かに、もうどこもかしこも散らかって、あとは土埃だらけの床しかない。私は椅子から半分自身をずらす。

 「ほら、半分使っていいよ」

 「……気遣いはいらぬ」

 尻尾も羽も大丈夫だと思うんだけどな。……また大きくなった?いや、太ったとか聞いたらフジタカにからかわれそうだから止めておこう。

 「……ここがフェルト支所先代の所長が住んでいる家、ですか」

 カルディナさんが控えめに灯りを点けていない家の中を見回す。窓から陽当たりはあるものの、室内は穏やかに暗い。夜になったら森の闇に呑まれそうだけど、どこかセルヴァを思い出す。セルヴァの皆は元気かな……。

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