ベッドの下に眠る秘宝。
いらないと言われたらそうするしかないか。まさか覚えるまで寝ないで勉強してたとか……。それって定着しないと思うけど、私とレブじゃ頭のできも違うだろうからな……。フジタカも使ってくれればいいんだけど。
身支度を終えて私達は早速テルセロ所長が渡してくれた地図を頼りに歩き出していた。そこで、ライさんが以前と違う物を片手に持っている事に気付く。
「その籠、どうしたんですか」
「今日の弁当だ。先代への土産も兼ねている」
言ってライさんは笑みを浮かべて籠の中に入っていたサンドを見せてくれた。冷めても美味しそうと言うか、彩りが鮮やかで見事だった。
「ライって寝起き悪いのに料理はできる方なんだよ!」
「寝起きの悪い俺の料理が食えんなら、抜いても良いんだぞココ」
籠を閉じてライさんは歩幅を広げて前へ出る。
「ごめん!ゴツい指から繰り出される繊細な手捌き、僕はヒョーカしてるから!」
「気取るな!」
「いだーい!」
駆け足でココがライさんの持つ籠へ手を乗せ、その手をつねられる。今日も元気だなぁ。
「……えっと…これが、肥沃って意味か」
一方フジタカは歩きながらレブから渡された辞書を片手に言葉を訳している。やっぱり、自分の国の言葉で置き換えたいらしく、手帳に書かれた言葉の半分は私達が読めなかった。
「余所見をしていると転ぶぞ、フジタカ」
「でも、ただ歩いてても暇だろ?」
周囲を警戒しているトーロがいる一方で、フジタカの姿はあまりに無防備だった。それを指摘したトーロに言い返しながらも辞書は閉じる。
「語彙力を増やすには、あとはもう読書!なんだろうけど辞書じゃぁなぁ……」
「だったらフジ兄ちゃん、僕が本を読んであげようか!」
閉じた辞書は安物で、持ち運びにも便利な様に大きさも掌よりも少し大きい程度。携帯性を優先したせいで、掲載されている単語もどこか古臭い。もちろん私にとっても勉強になる単語はいっぱい載っているけど実用的ではないのかな。
そこでココからの提案。何か教材とか持っているならありかも。
「あのね、ライの使ってるベッドの下にすんごいのがあるの!女の人の胸とお尻……」
「ココォ!」
何かを言いかけたココを遮る様にライさんが叫んで引き返して来た。そのまま頬を指で挟み、勢い良く持ち上げる。
「あがぁ!いふぁいよ、ふぁい!」
痛いよライ、って言ったのかな……。ココがライさんの腕を叩いているけどその程度の抵抗ではうんともすんとも言わない。
「いつ見付けた……!」
「だいぶ前からあるじゃん!昨日も増えてたし!」
「この……!」
拳を振り上げただけでココは頭を庇う。
「小遣いが欲しいと言うから、何を買っているかと思えば……」
「ち、違うぞウーゴ!あくまで厳選し、最低限……あぁ!女性を前にそういう話は止めないか!」
ウーゴさんが呆れて溜め息交じりに言うと慌ててライさんが弁明する。結果としてココへ背を向けたから、ウーゴさんなりにライさんからココを守ったのかも。
「ライさんの秘蔵コレクション……か」
「問題は胸か尻かだが……」
「興味持ったんだ……」
フジタカがとチコが手で顎を揉んで何か思案している。
「まったく……」
カルディナさんは眉間に皺を寄せて眼鏡の位置を直した。トーロとレブ、ニクス様はまったくの無反応。
「……フジタカ君用で語学の練習に向いた図書は俺の方で用意する。……それでいいな」
無理矢理まとめに入るライさんにフジタカが口先を尖らせた。
「俺、お姉さんの本の方が……」
「いいな?」
「はい」
威圧する様に牙を見せたけど、なんだかもう説得力が無い。こういうのを、見る目が変わるって言うんだろうな……。
「レブは何か読みたい本とかないの?」
「……ふむ」
フジタカの学習のためではあるけど、レブだって文法と辞書だけでは楽しくないと思う。この世界に住む生き物の図鑑とか、文学とかも読めたら少しは……。
「地図帳、だな」
「地図ぅ……?」
思わず拍子抜けしてしまう。そんなの……。
「貴様も読んでいたのだろう?同じ物を読み、感想の共有を……したい」
私が読んでいたから、か……。
「じゃあトロノに戻ったら一緒に読もうか。召喚学の教材もあるし、知ってる部分とか教えてよ」
「構わないぞ」
レブの返事に頷く。私の見た世界に興味を持ってくれている相手に何ができるか。レブの見てきた物を私だって知りたい、他の誰よりも。
「二人で何を話してるのー?」
そこにフジタカに飽きたのか、ココが腰を曲げてこちらの顔を覗き込む。




