モフモフ対グチョグチョ。
「さぁどうだ!俺が気張ったんだぞ!」
「……分かったよ。覚悟してもらうぞ、デブ!」
「………」
渋々ながら剣を構えるフジタカをつまらなそうに見ていたレブだったが、溜め息を一つ吐き出すとバキバキ指を鳴らした。スライムも揺れて臨戦状態になっている。
「ふん!」
「うぉ!?」
レブの気合一喝。跳んでスライムに拳を真上から叩き付ける。成す術もなくスライムはたちまち爆散し、地面が凹んで大きく抉れた。
「まずは一つ。次は……」
「ま、待った待った待ったぁー!やっぱ無理だって、チコぉ!」
「……はぁ、はぁ……間に合った、逆流……」
レブが土とスライムの混じった泥を振るい落とすとフジタカを見る。チコはチコで、また魔力の断線を防ぐ事に集中してたみたいでフジタカどころではなかった。当のフジタカもすっかり尻尾を巻いてしまっている。レブは腕も足も短いけど、速度と殺傷力は十分にあった。
「くっそぉ、フジタカ!俺のスライムと戦ってみせろし!」
「デブが一発だからって俺かよ……。カルディナさんのスライムだってまだ一撃で倒せたことないのに……」
ナイフを使えば別だろうけどフジタカはスライムを倒すのによく苦戦している。核を一度に破壊できないかららしく、訓練にうってつけと言っていた。実際わざと核を壊さずに技術の練習や鍛錬相手に使っている者も多い。
「来いや!」
三度目にもなると疲れもかなり溜まっているんじゃないのかな。けど、調子良く出せているから早くも慣れ始めているのかも。スライムは陣から出現するとフジタカの方へとぬるぬる動き出す。
「ナイフ禁止だぞ!」
「お、おう……!こうなりゃ、俺だって!」
スライムはのろのろと動いてたが、フジタカの構えに合わせて高く飛び跳ねた。跳躍力は高く、私達の身長などより優に勝る。
「こ、こ、だぁぁぁぁぁ!」
ギリギリまで腰に溜め、ある一点を目掛けて剣が閃く。フジタカの剣がスライムを抜けると、軟体は固形を保てずに液体と化して地面にべちゃ、と音を立てて広がった。
「……うし!」
「上出来だな」
フジタカは拳を握り締めて達成感に浸っている。レブも腕を組んでうんうん頷いている。
「ふ、フジタカでも一撃なのかよ……」
チコに至っては倒されて複雑なのか肩を落とした。善戦すると思ったのかな。
「でもチコ、今のがもっと早く、一気にできたらレブは危ないかも」
「この程度のスライムなら十体相手でも殲滅できるがな」
「張り合わないの」
スライムだって、その気になればもっと大きく召喚できた様な口振りだった。練度を上げれば立派な戦力になる。
「少し休憩にしようぜ……。ちょっと、しんど……」
そう言ったチコの顔は真っ青だった。
「だな。俺もお前達が来るまでずっと素振りしてたし」
「じゃあ、フジタカの話を聞かせてよ」
「……俺の?」
目を丸くするフジタカに私は頷いて、座っていた二人の横に陣取った。
「うん。フジタカの世界の話、もう少し聞いてみたくて」
断片的に何がある、と聞いた事はあるけどそこでフジタカはどんな生活をしていたかは知らなかった。昨日の件もあるし、フジタカの世界を知るのも良い勉強だ。
「俺の世界……」
「そうそう、結局お前の言うコーコーセーってなんだよ。そっからな」
「……分かったよ」
言って、フジタカは自分の住んでいた世界の話を始めてくれた。学校にも位があって、小中高大と上がっていく過程でフジタカは高校の生徒、高校生だった。そこでは毎日分野別に講義を受けて、時に試験を課せられる。学者とは別の様でフジタカの住んでいた国では子ども達の大半が文字の読み書き、数の加減乗除も教育されるのがほぼ義務として定着しているらしい。
どんな人がいるのかと聞けば、オリソンティ・エラが本来は人間とエルフの世界に対し、フジタカの世界では会話できる種族は人間と獣人だけ。多種多様な見た目の獣人は山のようにいても、耳が長く長命のエルフを見たのはここに来てからだそうだ。
魔法なんてものはなく、人は道具を進化させる事に特化。科学の発展は戦争を誘発し、長期化させた事もある。しかしある時期からとんと戦争のない、四季が豊かな島国にフジタカは住んでいたらしい。そこで学業に勤しみ、空手を習い青春の苦い汗を男達と流していた、と。
「………ざっと言えば、こんな感じ?視点は偏ってるぞ、海外とか行った事ないし」
言って、あぁここもある意味外国か、とフジタカは呟くと長く息を吐いた。
「ビアヘロの話は?科学兵器で根絶やしか?」
「そんなもんいねーよ!……いや、昔話の怪物とかエイリアンってもしかしてビアヘロだったのか……?」
今度は一人でぶつぶつと呟いて物思いに耽り始める。でも私は気になって一人の世界から彼を引き戻す。




