1/4
鉄仮面
薬師寺織仁には表情というものが無かった。
たいそう立派な名前をしていて、たいそう美少年である薬師寺織仁が表情を変えたところを見たことがある人物は、少なくとも、彼が高校に入学して二年経った高二の現時点では一人として居ない。
故に彼の事を多くの人は陰で“鉄仮面”と、そう呼んでいる。
そう呼ばれている事を本人は知っているのだが、知っていてもなお、彼は表情ひとつも変えなければ、それを言う人々への文句のひとつも漏らさない。一言も発さずに、表情をぴくりとも変えない美少年、というのは、はたしてどうなのだろうか。
少なくとも、同性には気味が悪い、そう思われている事だろう。
そんな中、彼と同じクラスの少女、三条色音もまた、彼の事を
「鉄仮面」と呼ぶ凡人のうちのひとりである。
はずであった。