72話 旅行⑧
「うわぁ……」
水族館に着いてすぐに僕は思わず小声でそう呟いちゃったんだ。勇輝君に穴場だって聞いていたからチケットを買うのも並ばなくても大丈夫かなって思っていたんだけど、穴場と言われてもやっぱり水族館なだけあって、券売所には人が居たんだよね。これは30分くらい待たないといけないかな?
そう思って券売所まで行こうとしたんだけど、勇輝君が券売所に並ぼうとしないで水族館の入口の方に向かうように言ってきたんだよね。だから僕は
「あれ?チケットを買わなくていいの?」
って聞いたんだ。そしたら勇輝君は
「あぁ、それなら大丈夫じゃ。チケットはこの通り2枚すでに手に入れておるからな。後は入口で渡すだけで入れるじゃろ」
持っていた鞄から2枚のチケットを取り出しながらそう僕に言ってきたんだよね。え……?もしかしてもう買ってくれていたってこと……?
そのことにすぐに思い当たった僕は
「ご、ごめん。すぐにチケット代渡すから」
勇輝君にそう言った後すぐに財布を取り出そうとしたんだけど、
「いやいや、俺が勝手にしたことじゃから気にせんでよい。それにチケット代も結構じゃ。これはその……、デ、デートの練習なんじゃろ?男の俺にそれくらいの甲斐性を見させてやってくれないか?」
勇輝君に断られちゃったんだよね。これって僕が言っちゃった言葉のせいだよね……。そう思った僕は
「ほんとにいいの……?」
様子を窺うように勇輝君を見ながら言ったんだ。そしたら勇輝君は
「あ、あぁ。もちろんじゃ。その顔をこんな近くで……じゃなくて、俺がしたいようにしておるだけじゃからいいんじゃ。それよりも折角チケットがあるんじゃからここで立ち止まっておらずに行くとしようかの」
って僕が指摘したとき以上の早口でそう言った後、僕にチケットを1枚渡して入口に向かったんだよね。だから僕も
「うん、わかった。勇輝君ありがとう」
と勇輝君に聞こえたかはわからないけど、すでに歩き始めていた勇輝君に向かってそう言った後、僕は勇輝君を追いかけるように歩き出したんだ。そのときにチラッと見えた勇輝君の首の辺りが赤かったような気がするけど、光が当たっただけで、気のせいだよね?
…………
……
「わぁ……」
水族館に無事に入館して、エスカレーターを上ってすぐのところで、ガラスがアーチのようになっていたんだよね。だから僕は思わず声を出しちゃっていたんだ。綺麗だなぁって、何の捻りもない感想を抱いていると、
「綺麗じゃ……」
僕の横で勇輝君が僕が思っていることと同じことを呟いていたんだよね。だから僕は思わず
「ふふ……」
声がこぼれちゃったんだ。すると僕が急に声を出したのが不思議だったみたいで勇輝君が
「ん?どうしたんじゃ?」
そう僕に聞いてきたんだよね。だから僕は
「いや、同じことを考えていたんだなぁって思うとおかしくってね」
勇輝君の方に振り返りながらそう言ったんだ。すると勇輝君は
「京さんも同じことを考えておったか……。まるで長年連れ添った……、いや、下手な感想は野暮というものじゃな」
何かを言いかけていたんだけど、首を左右に振って言うのを止めちゃったんだよね。何を言いかけたのは少し気になったけど、それを聞くことこそ野暮だと思った僕は何も言わず勇輝君の横で綺麗なアートを見ながら進行方向へと足を進めたのであった。
…………
……
その後勇輝君に色々教えてもらいながら順調に進んだんだ。例えばラッコはイタチの仲間だから普通に歩くことが出来るとか、ペンギンが歩くときに同じ方の手と足を出して歩いているのは出来るだけ効率良く歩いて長距離を移動するためとかね。あとあと、勇輝君が教えてくれた中で一番印象に残ったのは大きい水槽だと色々な魚が一緒にいるよね?小さい魚やサメがどうして同じ水槽に入って大丈夫なのかなって思っていたんだけど、先に小さい魚を入れて後から大きい魚を入れることで縄張り意識をはっきりさせることで大きい魚が小さい魚を襲うことがほとんどなくなるんだって。
こんな風に、勇輝君に色々と水族館の説明には載っていないことを教えてもらいながら進んだんだ。僕としては色々なことを知れたし、全然よかったんだけど、勇輝君は僕に説明することに夢中になっていたみたいで、出口が見えてきたところでふと我に返ったように
「す、すまん……。俺ばかり話してもうた……。こんな興味もないことを言われ続けても面白くなかったじゃろ?」
すまなそうな表情を作りながら僕に謝ってきたんだよね。僕としては全然面白かったから僕は軽く顔を左右に振りながら
「ううん。今まで知らなかったことをたくさん知れたからすごく面白かったよ。次はもう少し大きい水族館に行こうね」
勇輝君に感謝の言葉を伝えたんだ。人は大きい水族館よりは少なかったからよかったんだけど、その分やっぱり種類が少なかったから少し不完全燃焼のところがあったんだよね。だから次はもっと色々な種類のお魚が居るところで行けたらいいなと思いながら勇輝君にそう告げると
「う、うむ。京さんさえ良ければこちらから願いいれたいところじゃ。……っ。すまん、少しトイレに行ってくる」
勇輝君はすぐに了承してくれたんだけど、その後なぜかすごい勢いで顔を左右に振った後両頬を手で叩いた後僕にそう言ってからトイレに言っちゃったんだよね。そんなに我慢していたのかな?僕に説明するために我慢しなくても言ってくれていたら全然待ったのにね。
そう思いながらも勇輝君を待っている間、他の人の邪魔にならないように壁際に移動していると
「む……。君は……」
つい先ほど―って言っても午前中だけどー聞いたことがある声が後ろから聞こえてきたんだよね。思わず声が聞こえた方に振り向くと
「あっ、谷村君……」
谷村君が僕の方に歩いてきていたんだよね。谷村君が居るってことは近くに青木君もいるってことだよね……。そう思ってどこに居るのかと思って目で周りを探していると
「テルは居ないから安心してくれていい。午前中までは一緒にいたんだが、午後からは俺にも言えない用事とやらで別行動なんだ。それにしても、それほどまでにあいつは君に嫌われていたか。まぁ大体あいつの自業自得だが……」
「あ、あはは……」
谷村君は僕が周りを探っていた理由をすぐに察してそう言ってきたんだ。だから思わず僕は苦笑いで返していると
「……まぁ、冗談はさておき、今回も偶々君の連れが席を外しているだけだろうから、用件だけを簡潔に話させてもらってもいいだろうか」
谷村君は急にまじめな顔を作りながら僕に言ってきたんだよね。その雰囲気に僕は
「う、うん」
とだけ言って頷いたんだ。すると谷村君は
「こうして俺が、いや俺やテルのように君との繋がりが薄い人物がこうして君の友人がいない瞬間にばかり君と遭遇しているのは何か出来すぎている。恐らくこの旅行の間だけだろうが……。いいか、この後君がここにどの程度滞在するのかはわからないが、外出している間は決して1人になるようなことはないように心がけてくれ。普段ならともかく、旅行中にテルが俺にすら言えない用事があるなど、その用事が普通なわけがない。しっかりとは占っていないから確信は持てないが、不安の芽は摘んでおくに限るからな。出来ればそうしてくれ」
一息で僕にそう言ってきたんだ。1人になるな……か。そういえば枡岡さんにも旅行に行く前に言われたような、言われてないような……。でも同じことを言われたし、もう少し気をつけた方がいいかな?そう思った僕は
「う、うん。わかったよ。それにしても谷村君は占いをしてるんだ?」
頷いてから谷村君に占いのことについて聞いてみたんだ。すると谷村君は
「あぁ。趣味の範囲で基本的に自分のことしか占わないけどな。今回のテルの行動が不可解すぎてな……」
懐からカードケースのようなものをチラッと見える程度くらい出して僕に見せてから神妙な顔をしつつそう言ったんだ。青木君のことを本当に心配してるんだろうなって思いながらもどう伝えればいいか上手く言葉に出来ないでいると、谷村君はカードケースを懐にしまった後、
「とりあえず言いたいことはこれで終わりだ。すまんな、時間をとらせて。どうか気をつけて」
とだけ僕に言ってそのまま水族館の出口の方に歩いて言っちゃったんだよね。それを呆然と見送っていると、
「京さん、待たせてすまんのぅ。……ん?どうしたんじゃ?」
丁度勇輝君が入れ違いのようなタイミングで戻ってきたんだ。谷村君に言われて改めて思ったけど、確かにタイミングが良すぎる気がしてきたよ……。すっごく不安になってきたけど勇輝君にそのことを言って楽しい気分を台無しにしちゃうのも嫌だし……。
そう思い、勇輝君に今の谷村君とのやりとりを伝えないと決めた僕は
「ううん、なんでもないよ。それよりも、もう夕食の準備を始めないといけない時間になってきたし、昨日行ったスーパーによってから帰ろっか」
表情でばれないように少し前へ歩いてから振り返ってから表情が少しでも見えないように上目遣い気味にそう勇輝君に言ったんだ。すると上手く誤魔化せたみたいで、
「う、うむ。もうそんな時間か……。惜しいが夕食も大事じゃしな。今日も微力ながら手伝わせてもらおうかのぅ」
勇輝君は腕時計の時計を確認しながら今日も手伝いを申し入れてくれたんだよね。だから僕は
「うん。お願いね!勇輝君は料理も出来るから昨日はすっごく助かったもん」
って笑いながら勇輝君にお願いをしたんだ。
そうして僕は谷村君に言われたことに少しでも気を紛らわせるために昨日以上に精を入れて夕食を作ったのであった……。
余り旅行編が長すぎるのもダメだと思って勇輝君との水族館デートはほぼカットという形を取りました。
作者の都合で大体のシーンをカットされてる勇輝君ェ……。
いずれ京と勇輝とのやり取りをしっかり入れる……はずです。




