65話 旅行①
今回から旅行編が始まります。
「京ちゃんお疲れ~。いやぁ、あっという間に2週間経っちゃったねぇ」
最後のお客さんを見送ってから後掃除をしていると、枡岡さんにそう声を掛けられたんだ。
「え?あっ、そうですね」
だから僕は相槌を返したんだ。そう、枡岡さんに言われたように、今日でついにお母さんとの約束の2週間のバイトが今日で経ったんだよね。初めてのバイトで、しかもこんな服を着てのバイトだから色々と不安だったけど、いざというときは枡岡さんがすぐにフォローしてくれたから何とか無事に乗り切ることが出来たんだ。確かに勇輝君に見られちゃったりしたけど……。あれは勇輝君が帰った後に思い出して恥ずかしかったなぁ。自覚してから顔が赤くなって枡岡さんにからかわれたけど、それは今はいいよね、うん。
まぁ、そのようなことも色々あったけど、このバイトを2週間しての一番の感想はやっぱり楽しかった……かな?1週間過ぎて喫茶店の仕事に慣れてきたころに枡岡さんが期間限定メニューとして僕が作った料理をメニューの中に入れてくれたりしたしね。料理は好きだけど、お店の料理として出すのは初めてだったから、僕の料理が注文されたときは本当にドキドキしたなぁ。
……でも、これで終わりなんだよね……。いやっ、もちろんこれで優花ちゃんたちと旅行にいけるからいいんだけど……。
「…………」
ふとあることを思って黙り込んでいると
「うん?京ちゃん、黙り込んでいるっぽいけど、どうしたの?」
枡岡さんが僕にそう聞いてきたんだよね。折角だし、聞いてみようかな?でも今回のバイトはお母さん……と健吾がお願いしてくれたから受けてもらえた話だろうし、そもそもお客さんがあんまり来ないから枡岡さん以外従業員はいらないもんね……。でも聞いてみるだけならいいよね?
そう思って僕は
「えっと……。枡岡さんにお願いがあるんですが……」
おずおずと尋ねると
「何かな?お給料の値上げ?それとも私のスリーサイズ?それとも大穴で私の年齢かな?お給料なら考えてあげなくもないけど、スリーサイズと年齢は内緒かなぁ」
って枡岡さんは言ってきたんだ。お給料の値上げはいいんだ……。いやっ、別にスリーサイズも年齢も聞きたいわけじゃないんだけどね……。
「いえ、そういうわけではないんですけど……。あの……、枡岡さんがよかったらなんですけど、旅行から帰ってきた後もここでバイトをさせてもらうことが出来ないですか?」
やんわりと枡岡さんが言ってきたことを断ってから、そう聞いたんだ。まぁ、無理だと思うけどね……。
半ば諦めながら枡岡さんの答えを待っていると
「え?いいの!?いやぁ、こっちからお願いしようとしていたから助かるよ」
「やっぱり無理ですよね……って、え?」
まさかOKをもらえると思っていなかった僕は言おうとした言葉を言っていたんだけど、その途中でOKだということに気づいて呆けたような声が出ちゃったんだよね。
すると枡岡さんは苦笑しながら
「おや?もしかして断られると思ってたのかな?いやぁ、お客さんたちから京ちゃんの評判が良くてねぇ。少しだけだした京ちゃんの料理も人気だったしね。むしろ私の料理よりも人気だったんだよ?それでお客さんたちから京ちゃんのバイト期間を延ばしてくれって良く頼まれてたんだよね。京ちゃんから期間を延ばしてくれって頼んできたらって答えていたんだけど、本当に京ちゃんから言ってくれてよかったよ」
って、僕のお願いをすぐにOKを出した理由を教えてくれたんだ。僕の料理じゃダメかなって思ってたけど、予想以上に好評だったみたい。やっぱり自分が作った料理が喜んでもらえてるってわかるとうれしいよね。
そう思っていると、
「それじゃあ、そういうことで。今日はもうあがって……」
枡岡さんがそう言いかけて言葉を止めたんだよね。どうしたのかと思っていると
「そうそう。京ちゃんに1つ忠k……じゃなくてアドバイスを1つしてあげるよ」
枡岡さんは急にそんなことを言い出したんだよね。
「アドバイス……ですか?」
アドバイスって何についてだろ?これからもバイトをしていくにあたって僕が出来ていなかったこととかかな?
そう思いながら聞き返したんだ。そしたら枡岡さんは首を横に振りながら
「ううん。バイトのことじゃないよ。旅行のことだよ」
って言ってきたんだ。あれ?バイトのことって言ったっけ?口に出してたのかな?って思いながら
「旅行のこと?」
そう返したんだ。そしたら
「うん。少し前に京ちゃんのことを占ったんだけど、旅行中はどうも良くないみたいなんだよね」
「えっ!?どういうことですか!?」
枡岡さんにいきなり楽しみにしていた旅行に対して幸先悪いことを言われちゃったんだよね。だから僕は思わず声を荒げながらそう言うと
「どうどう、落ち着いて、落ち着いて。えっと、占いによると京ちゃんのお友達と一緒にいるなら全然問題ないんだけど、1人でいるのは危ないみたいなんだよね。だから知らない人にはついて行っちゃだめだよ?」
って占いの内容を教えてくれたんだけど、
「さすがに小さい子供じゃないから知らない人にはついていかないよ?」
最近じゃ小さい子供でもついていかない気もするけどね。そう思いながらそう返したら
「あぁ、知らない人っていうのは京ちゃんのお友達以外の人のことだから注意してね?1回か2回会った程度の人には特に注意だからね?」
っていつもからは想像出来ないような真剣な顔でそう言ってきたんだよね。今までそんな枡岡さんを見たことがなかった僕は
「え?あっ、うん。気をつけます」
少し言葉に詰まりながらもそう答えたんだ。そしたら枡岡さんはさっきの真剣な顔がまたいつもの少し笑みを浮かべた顔に戻してから
「うんうん。わかってくれたなら何より。まぁ心の片隅にでも置いておいてくれたらいいから、旅行は十分に楽しんできてね。それじゃあ、また旅行から帰ってきたらよろしく。それじゃあ、今度こそ今日はいいからあがって大丈夫だよ」
そう言って、僕に有無を言わせずに帰るように促してきたんだよね。
「……はい、ありがとうございます。また帰ってきてからよろしくお願いします」
だから僕は釈然としなかったけど、アドバイスをもらったことに対してお礼を言った後、服を着替えて店を出たのであった。
今回は導入部分ですので、旅行へはまだ出かけませんでした。
次回か次々回にはしっかり旅立ちたいと思います。
旅行編とは……




