62話 アルバイト④
当たり前の話ですが、頭の中でぼんやりと話しの筋を考えただけで話を書くのと、その考えたことをしっかりとどこかにメモしてから話を書くのでは全然筆?が進むスピードが違いますね。
【追記】後書き部分に補足文章を追加しました。
「勇輝君……?えっ……?どうしてここに……?」
予想外のお客さんに、僕は戸惑いながらそう勇輝君に問いかけると
「えっ、あ、あぁ。ここには……、あー……。喫茶店があるっていうことを聞いてのぅ。それで早速来てみたって感じじゃ」
勇輝君は何故かはわからないけど、少し言い淀んでからそう答えてくれたんだ。だから僕は何で言葉に詰まったのか疑問に思いながら
「そうなんだ。でもこの時間から喫茶店なんだ?いや、悪いってわけではないんだけど……」
そう勇輝君に聞いたんだ。丁度昼過ぎて少し時間が経ったくらいで、お昼を食べるには遅いし、おやつの時間にはまだ早いしね。そう思っていると
「あぁ、喫茶店に来たのは勉強場所を探しておっての……。自分の部屋じゃとどうしても集中出来んくてな」
それでいつも集中するために喫茶店で勉強していて、そのまま喫茶店巡りが趣味になったんだって。でも……
「へぇ~。でも、それだったら図書館でいいような……」
勉強するためなら図書館でいいと思った僕は思わずそう呟いたんだ。僕はあの静か過ぎる空気が苦手だからあまり図書館では勉強したいとは思わないけどね……。
勇輝君に僕の呟きが聞こえていたみたいで、
「いやぁ、恥ずかしいことなんじゃが、図書館のあの張り詰めた空気がどうも苦手でのぅ。図書館以外で落ち着いて勉強するには喫茶店が丁度よくての」
喫茶店で勉強をするようになった理由を教えてくれたんだ。
「あっ、勇輝君もあの空気は苦手だったんだ!!やっぱりあの空気は好きには慣れないよね!!息がつまるというかなんというか……」
思わぬところで同志がいたことで嬉しくなった僕はテンションを上げてそう言っていると、
パンッ!パンッ!って手を叩く音が僕の言葉を遮ったんだよね。何の音かと思って、音の方を向くと枡岡さんが少し怒った顔をしながら
「ほらほら、京ちゃんはお客さんをいつまで入り口に立たせているつもりかな?早く席まで案内してね」
「あっ、ごめんなさい……」
そう言ってきて、そこでようやく僕は勇輝君を入り口に立たせたままだったことに思い至ったんだよね。だからすぐに枡岡さんに謝ると
「謝るのはこっちじゃないでしょ?ほらっ、早く早く!」
って、もう一度注意されてしまったんだ。待たせているのは枡岡さんじゃなくて勇輝君だもんね……。だから僕は勇輝君の方に向いてから
「勇輝君ごめんね?それじゃあ席に案内するね」
って、謝ってから席の方に向かって歩き出すと
「いや、京さんとゆっくり話せてむしろ嬉しかったから謝られることはないんじゃが……」
勇輝君が何か小さい声で言っていたんだよね。何を言ったか聞き取れなかった僕はもう一度振り返って、
「え?勇輝君何か言った?ごめん、上手く聞き取れなかったんだけど……」
勇輝君にそう聞くと、
「き、気のせいじゃ。ずっと入り口で立っていたのも気にしとらんから、席までの案内を頼む!」
って少し顔を赤らめながら勇輝君は少し言葉を大きめにそう言ってきたんだよね。いつもより声が大きかったものだから、少し気押された僕は
「う、うん。それじゃあついてきて」
少し言葉に詰まりながら勇輝君を席へと案内したのであった。そのときに、枡岡さんが妙にニヤニヤしていたような気がするけど、気のせいだよね?
…………
……
カリカリカリカリ……
カリカリ……
あれから勇輝君はさっそく勉強――夏休みの宿題だと思うけど――を始めたんだ。それからは邪魔するのは悪いと思って注文してくれたコーヒーを届けてからは少し離れたところで立って他のお客さんを待っていたんだけど、全然来ないんだよね。いつもこの時間は枡岡さんと雑談してるだけだしね……。
でも今日は勇輝君がいるから下手に枡岡さんと雑談も出来ないからどうしようかなって思っていると、
「よし、京ちゃんちょっと、ちょっと」
って枡岡さんが小声で僕にそう話しながら手招きしてきたんだよね。何事かと思って枡岡さんの方に行くと
「京ちゃんは今日は夏休みの宿題もってきてる?」
「え?持ってきていますけど……」
いきなりそう聞かれたんだ。あっ、ちなみに何で持っているかというと、何故かは知らないけど、枡岡さんに夏休みの宿題をここに持ってくるように言われていたからなんだ。枡岡さん曰く必要になることがあるかもしれないとのことなんだけど、誰もお客さんがいないときは枡岡さんと雑談しているだけだし、今のところ全然持ってきてる意味がないんだけどね……。
それで、持ってきてるって返したら枡岡さんはニッコリと笑ってから
「それじゃあ、これを入り口に掛けてくれるかな?そしたら勉強度道具を持って、えっと……、勇輝君だっけ?京ちゃんのお友達のところで一緒に勉強してもいいよ」
って言って何かを手渡してきたんだよね。何を渡されたのかと思ったら、よく……かは知らないけど、入り口のドアノブとかによく掛けられている札みたいなので、そこには『貸切中』って書かれていたんだよね。
「え?えっと……?」
確かに夏休みの宿題が進められるのは助かるけど、バイトはどうなるの?って思って戸惑っていると
「あぁ、もちろんこれは私が京ちゃんにお願いしたことだからバイト扱いで大丈夫だよ?それで、お願いできるかな?」
って枡岡さんが言ってきたんだよね。何で僕が不安に思っていたことがわかったんだろ?そんなに顔に出ていたかなぁって思いながら
「は、はい。ありがとうございます」
ってお礼を言うと
「はいはい。まぁ、どうせお客さんは来ないしね。それじゃあ、早く掛けておいで。万が一他のお客さんが来たら駄目だからね」
って最後に店の経営的には余計な一言を添えて枡岡さんが言ってくれたから、僕は心の中でそれでいいのかと突っ込みながら、言葉に甘えるために札を掛けにいったのであった。
…………
……
「えっと、勇輝君少しいいかな?」
「ん?なんじゃ……って、どうしたんじゃ?勉強道具なんか持って?」
『貸切中』の札を掛けてから店の奥に置いてあった勉強道具を持ってきた僕が勇輝君に話しかけると、勇輝君はすぐに顔を上げてくれたんだけど、僕が何で勉強道具を持っているのかがわからずに少し怪訝そうにしていたんだよね。まぁ、メイド服っぽい服を着ているのに勉強道具を持っていたらおかしいよね……。
「えっとね?枡岡さん……店長が他に誰もお客さんがいないから、他のお客さんが来るまで勉強していていいよって言ってもらえたんだ。だから折角だから勇輝君と一緒に宿題をしたいと思うんだけど、どうかな?迷惑だったら違うところでするけど……」
だから僕は勇輝君に勉強道具を持っている理由を説明をしてから一緒に勉強をしていいか尋ねたんだ。そしたら
「それは俺としても願っても叶っ……じゃなくて、京さんさえよければこちらからお願いしたいかのぅ。1人で勉強しているとどうしても問題を解く速度が落ちてしまうからの」
勇輝君は歓迎してくれたんだよね。断られなかったことに内心ホッとしながら
「それじゃあ、お邪魔しまーす」
と言ってから勇輝君と向かい合うように座って勉強道具を広げたのであった。
…………
……
「うーん……、今日はこれくらいにしておくかの」
「あ、あはは……。うん、そうだね……」
勇輝君が軽く伸びをしながらそう言って、僕は乾いた笑いをこぼしながらその言葉に賛成したんだ。
だってね?宿題に取り掛かる前に勇輝君がわからないところが出たら教えてくれって言ってきていたんだけど、結局わからない問題が出てきたのは僕だけだったんだよね……。
「ごめんね?結局勇輝君の邪魔しか出来なかったや……」
わからない問題が出るたびに勇輝君に教えてもらっていたせいで勇輝君の邪魔しか出来なかった僕は勇輝君にそう謝ったんだ。すると
「いやいや。京さんが気にすることではないから大丈夫じゃ。1人でするよりも一問一問に掛かる時間が短くなっておったから、むしろいつも以上の効率で宿題を進めることが出来たしの」
って勇輝君が言ってくれたんだ。だけど、どう考えても気を使わせているよね、これ……。そう思って軽くため息をついていると
「本当のことなんじゃがのぅ……。京さんさえよければまた一緒に宿題をしてくれると助かるから、考えておいてくれると嬉しいかの」
勇輝君はそう言ってから席から立ち上がって
「さて、それじゃあ俺はそろそろ帰るとするかのぅ。えっと、枡岡さんじゃったか?すまんのぅ、結局最初に席に着いたときから注文をせんかったのに長いしてもうて……」
「全然気にしなくていいよ。私個人的にもいいのを見させてもらったしね?勇輝君もいい時間を過ごせたでしょ?色々な意味で♪」
「まぁ……、そうじゃな。世話になった」
「いえいえ、どういたしまして。あっ、ちなみに京ちゃんのバイトは月・水・土だからよかったらまた来てね?」
「あぁ、もちろんじゃ。月・水・土か……。改めて礼を言わせてほしい、ありがとう」
「はいはーい」
枡岡さんとそういう話をしてから会計を済ませ、最後に僕に「またの」って言ってから帰っていったんだ。
勇輝君が帰った後のまだわずかに揺れているドアを見ながら
「ねぇ、枡岡さん。勇輝君が枡岡さんに世話になったって言ってたけど、枡岡さん勇輝君に何かしたっけ?」
って枡岡さんに聞いたんだ。だけど、
「うーん、それは私の口から言うことじゃないかな?まっ、いつか京ちゃんもわかるときが来るよ」
枡岡さんにはぐらかされてしまったんだよね。だから自分で考えてみたけど、結局わからずに首を傾げたのであった。
アルバイトの話は一旦ここで終わりです。
~追記分~
京は勇輝が来たことに動揺しすぎて服のことが頭から飛んでおり、また勇輝は勇輝で京の服についてふれる勇気がない……もとい京がこういう服を普段着ないことから察してふれていないようにしていたためそのことが会話の中で出てきませんでした。




