58話 文化祭準備②
「さって、それじゃあ曲もこれで決まりとして……。先に言っておくけど、当日はそれぞれの曲に合わせた衣装を着てもらうから覚悟しておいてね?」
「えっと、1曲目ってボクの記憶が正しければ女性グループの曲ッスよね?ということはもしかして……」
「えぇ、空元の予想通り、そのときには全員衣装を着てもらうわよ?」
「マ、マジッスか……」
「お、おい。それはさすがにあかんやろ……。なぁ、丘神もそう思うやろ?」
「ん?まぁ、確かに女性向けの服を着るのには抵抗はあるが……。篠宮さんと宇佐美さんに丸投げしてしまったのは俺らじゃし、そう決まったのなら文句を言うつもりはないかのぅ。それよりも、衣装の方の手配はどうなんじゃ?さすがにクラス全員分を揃えるとなると一筋縄ではいかないじゃろ?」
「そうなのよねぇ。だから衣装担当を作ろうと思うんだけどどうかしら?って言ってもこの学校は無駄にお金があるらしいから各クラスが全員分の衣装を揃えるだけなら全然予算内で出来るっぽいのよねぇ」
「でも、クラス全員で2種類の衣装ですよ?さすがに予算を超えてしまうんじゃないんですか?」
「それがそうでもないらしいのよ。確かに学費は他の高校よりは高めだからお金があるのはわかるんだけど、文化祭へ割り振っている予算の量がおかしいのよねぇ。まぁ、助かっているからいいんだけど……」
「篠宮さん。あの……。すいません……。そろそろ衣装の話を……」
「え?あぁ、ごめんごめん。そうね……、衣装係って言っても衣装を選んで発注してもらうだけだけど、誰かやってくれないかしら?衣装係は踊ってもらうのは1曲だけにするつもりよ。衣装係の1人として京にしてほしいんだけど、どうかしら……って京?」
「京さん、京さん。呼ばれてますよ」
「…………ふぇ?」
優花ちゃんに肩を揺らされて、ただみんなの話を聞いていただけの僕はそこで我に返ったんだ。だけど、我に返ったときにはみんなが僕の方を見ていたんだよね……。
「えっ!?……えっ!?」
状況についていけずに戸惑っていると
「もしかして聞いてなかったの?京に衣装の手配をお願いしたいんだけど、どうかしら?踊る曲も1曲だけでいいから。どう?」
って真琴が言ってきたんだよね。だけど
「衣装の手配って……。僕1人では出来ないと思うんだけど……」
さすがにクラスみんなの衣装の手配は出来ないと思ったぼくはそう返したんだ。確かに僕の体力から考えたら1曲だけの方が嬉しいけど、僕のセンスだけでみんなの衣装を選べられる気がしないしね……。そうしたら真琴は
「さすがにあたしも京1人に全部任せるほど鬼じゃないわよ。優花に……それに丘神君も手伝ってくれないかしら?」
「え?私ですか?それは別にいいのですが……」
「俺もかの?確かに男子も1人はいるじゃろうが……」
優花ちゃんと勇輝君にそう声を掛けてくれたんだ。確かに僕としてはその方が助かるんだけど、2人は答えを渋っていたんだよね。やっぱりダンスが2曲とも踊れなくなるのが嫌なのかなぁ?
そんなことを考えていると、真琴もそう思ったのか
「もちろん、2人がいいのなら2曲とも踊ってもらおうと思っているんだけど、どうかしら?」
2人にそう聞いていたんだ。そしたら
「そういうことでしたら問題ありませんよ」
「俺の方もそれでOKじゃ。片方しか参加出来ないのは不完全燃焼になりそうじゃったしな」
2人ともすぐに賛成してくれたんだ。その言葉を聞いて僕は内心ホッとしたんだ。2人が一緒に考えてくれるなら心強いもんね。
「えっと……、それじゃあ結局衣装は何着用意したらいいのかな?」
2人が一緒にしてくれることに安心しながらそう真琴に聞くと
「そりゃあもう全員分に決まってるわ。1曲目と2曲目のそれぞれクラス全員分お願いね」
「……え?」
「え?」
真琴はさも当然のようにクラス全員分の衣装の準備がいるって言ってきたんだよね。そもそも1曲目と2曲目で衣装を変えるんだ……。って、それよりも
「1曲目か2曲目のどちらか僕の衣装はいらないんじゃないの?」
優花ちゃんと勇輝君は踊るみたいだけど、僕は1曲しか踊らないからいらないと思って聞いたんだ。少しでも安い方がいいと思うしね。でも真琴は
「いやいや。そんなことないわよ?本番にはみんなにどちらかの衣装を着てもらって宣伝してもらうつもりだし。それに……っと、これはまだ宇佐美さんと相談中だから内緒だったわ。とにかく、京も両方きてもらうつもりだから全員分お願いするわ」
って言ってきたんだよね。内緒って……、真琴が企んだことだから不安しかないんだけど……。いつかはわかるんだろうけど、何をさせられるのかが全くわからなくて不安になっていると
「まっ、そういうわけだから衣装の手配はよろしくね。とりあえず後で要望は出すけど、衣装の方向性とかはさすがにこの2曲は知っているから大丈夫でしょ。だからある程度決めておいてくれると助かるわ。……あっ、そうそう。京にはこっちの曲を踊ってもらうからそのつもりでいてね」
って言って黒板に指をさしたんだ。その指の先を見るとそこには2曲目が指し示されていたんだ……。
「え、えっと……、そっちじゃないと駄目なの?」
出来たら2曲目じゃなくて1曲目の方がよかったからそう聞いたんだ。そしたら
「えぇ、あたしと宇佐美さんの計画だと京には2曲目の方を踊ってもらった方がうれしいんだけど……。どうしても京が嫌だったのならまた考え直すけど、お願い出来ない?」
僕が2曲目の方を嫌がっているのがわかったみたいで、真琴が少し遠慮気味にそう聞いてきたんだ。
「い、いや……。別にどうしてもってわけではないからいいんだけど……。2曲目の方は中学生のときも踊ったことがあるし……」
確かに嫌だけど、真琴がせっかく考えたことが無駄になってはけないって思って少し言葉につまりながらも問題ないことを伝えたんだ。だけど、そのときに思わず言う必要のないことまで言っちゃったんだよね。あって思ったときには手遅れで……
「あら?そうなの?なら問題ないじゃない。でも、それだけ渋っていたってことは何かあったのかしら?」
真琴にこの曲を踊ったことがあるのがばれちゃったんだよね……。それで、当然っていえば当然なんだけど、どうして嫌がっているのか聞かれたんだ。だから僕は正直に
「えっと……、この曲でどうしても上手に出来ないところがあって、何で出来ないんだって散々怒られちゃって、それで……」
この曲が苦手である理由を話したんだ。下手に隠すよりはこの曲を苦手としている理由がわかってもらえると思ったからそう伝えたんだ。そしたら
「あら?そうなの?だから余りいい反応じゃなかったのね……」
真琴は腕を組みながら少し悩んでくれていたんだ。だからもしかしたら……って思ったんだけど
「まっ、なんとかなるでしょ!京が苦手になるくらい怒られたってことはクセになっちゃってるのかもしれないけど、宇佐美さんならきっと大丈夫でしょ。ね?宇佐美さん?」
「あっ……、は、はい!もちろんです!本当に微力程度しか力添えは出来ないと思いますが、誠心誠意頑張りたいと思います」
「……ですよねー」
真琴はいつも通り何とかなるって言っていて、宇佐美さんもやる気だったんだ。だから僕は予想通りになった展開に対して小声でそう呟いたのであった。
もうすぐ今年も終わってしまいますね。
恐らく無理だと思いますが、出来れば後1話くらいは上げたいです。
あっ、前から言っていますが本編の第2章はこれで終了です。後数話章間を入れてから第3章に入る予定です。




