44話 体育祭④
「よぅって……。試合はどうしたの?次は健吾のクラスだったよね?」
いきなり僕たちのテントに入ってきた健吾を半目で睨みながらそう言うと
「ん?あぁ、もう終わったぞ?」
「えっ!?」
健吾にそう返されてグラウンドの方を見てみると次の試合が始まっていたんだよね。
「い、いつの間に……」
確かに一試合の時間は短いけど、まさか全然気付けなかったなんて……。
そのことに愕然としていると
「ちなみに、俺らのクラスが勝ったぞ?もちろんあのクラスの連中がしたような反則はせずにな」
「そうなんだ。あっ、でもそれだと次はあのクラスの人たちとじゃないの?」
「あぁ、そうだが?」
鬼ごっこ玉入れはトーナメント形式で、組み合わせを思い浮かべながら健吾に尋ねると肯定で返ってきたんだ。
「だよね?でも大丈夫なの?絶対にまた故意にルール違反してくると思うけど?」
「あぁ、それはもうクラスのやつらと話し合いは終わってるから問題ないぜ?」
「え?問題ないって……どうするの?」
「まぁ簡単に言えば……、目には目を、歯には歯をってやつだな」
「うん?」
健吾は簡単にって言ったけど、言っている意味がわからずにいたんだけど
「あぁ、なるほどね」
「確かに、予め相手がしてくるってわかっていたら開き直れますよね」
「俺らの分も存分にやってくれな」
「俺らもそれを考慮出来ていれば同じ対応を出来たんじゃが、惜しいことをしたのぅ」
皆はわかったみたいで、うんうんと頷きながらそんなことを言っていたんだよね。
「え?え?」
「でもそれだったら、いっそのことあたしたちも中山君のクラスに紛れて出てもいいんじゃない?まずバレないわよ?」
「確かに篠宮さんたちが怒っているのはわかっていたからそのことも考えたんだが、向こうがしてきていないルール違反までこっちがしてしまうと言いがかりをつけられかねないだろ?思うところはあるだろうが我慢してほしい。やっぱり同じ土俵の上で叩きのめしてこそ意味があるしな」
「なんや。俺らも仕返しが出来るんかと思ったんやけど、やっぱりそううまくはいかんわな」
「まぁ仕方ないじゃろ。相手の思い通りにならなくて悔しがる顔を見れるだけマシって思うべきじゃな」
「…………ふんだ」
戸惑っている内に僕は会話から完全に置き去りにされてしまって軽くスネていると
「中山さんは私たちがあのクラスの人たちにされたこと、つまりは籠を掴んだり進路妨害を次の試合で行うって言っているんですよ」
「なるほど!!って、最初からそう言ってくれたらいいじゃない」
優花ちゃんが教えてくれたんだけど、難しい言い回しをせずに最初からそう言ってくれたらもっと楽だったのにと思いながらそう言うと
「いや、別に難しい言葉でも何でもないからな?」
「そうよ?小野ですらわかったのよ?京は本当にピンポイントで抜けているんだから」
2人が呆れたような顔をして返してきたんだよね。
「うっ……。ま、まぁわかったからいいじゃない。それよりもほらっ!そろそろ健吾は試合始まるでしょ?期待しているから頑張ってきてね!!」
って言って僕は健吾の背中を教えてテントから追い出した。後ろで小野君が「今俺が貶される意味ってあったんか?」って言って優花ちゃんが「まぁ、そこはお約束というやつですよ」とか言っていたような気がするけど、今は気にしている余裕がないや。それよりもこのまま僕が弄られそうな流れを変えないと……。
そんな僕の願いが通じたのか
「まだ少し時間はあるが……。クラスの連中と最終打ち合わせをしてもいい頃合だから行くとするか。京も押さなくて大丈夫だから落ち着けって」
そう言って健吾は僕を立ち止まらせてから自分のクラスへと帰っていったのであった。
…………
……
「うわぁ……。露骨過ぎない?」
「いや?度が過ぎるほどではないと思うわよ?確かに明らかに見せ付けているような気がするけど……」
今2年A組と健吾のクラスの試合を見ているんだけど、2年A組の籠役の人を大勢で囲っているんだよね。それで動けなくなったところを他の人が拾った玉を入れていっているって感じ。もちろん2年A組の人たちもしようとしているんだけど、健吾のクラスは籠役の周りに比較的体格のいい人たちを固めて籠役の人が掴まれないようにしているんだよね。動く速度は遅くなるけど、掴まれて動けなくなるよりはいいもんね。
「それにしても囲まれる前に自分たちで囲ってしまうというのは面白いですね。確かに籠に触れるないうルールはしっかりとありましたが、自分たちで囲ってはいけないというルールはありませんでしたものね」
「えぇ気味やわ。あいつらかなり悔しがっとるやん。まさか自分がやり返されるとは思ってなかったんやろうな」
「あの先生の顔も中々見ものじゃよ?黙認してしまっていたところは注意出来ひんし、もう1つの方はそもそもルール違反じゃないからな」
そう丘神君が言ったところで監督の先生の顔をすると「ぐぬぬ……」っていうのが聞こえてきそうなくらいに顔に出ていたんだよね。いや、そんなに悔しいなら最初からルール違反を黙認しなかったらよかったのに。そんなに自分が担当してるクラスを勝たせたかったのかなぁ……。
そうして健吾のクラスの術中に完全にハマってしまっていた2年A組はそのまま何か出来るというわけでもなく、健吾のクラスの大勝に終わったのであった。
…………
……
「よぅ。どうだった?少しは溜飲が下がったか?」
「えぇ、もちろん」
「ありがとうございます」
「出来れば出たかったんやけどな」
「まぁ、これだけしてもらえたんじゃ。十分過ぎるじゃろ」
再び僕たちのテントに入ってきた途端に真琴たちは健吾にお礼を言っていたんだよね。ちょっと流れに乗り遅れた僕も慌てて
「健吾、ありがとうね」
ってお礼を言ったんだ。すると健吾は
「まぁ、少しでも気が晴れてくれたら何よりってやつだ」
って肩を竦めながら返してきたんだ。
「何それ……ってあれ?」
「ん?どうした?」
「いや、次の試合がまだ始まらないのかなぁって思って」
「確かに、今までならもう始まっていてもおかしくないもんな」
健吾がワザとらしく肩を竦めたことを突っ込もうとしたとき、ふとまだ次の試合が始まっていないことに気付いたんだよね。健吾とそんな会話をしている間にも次の試合が始まらない気配が感じられないのを不思議にながら思っていると
「えー、先ほどの試合なんだけどな。この種目においてルール違反が行われていたことが発覚したんだな。先ほどの試合以外でもルール違反と見なせる行為がされていたことも発覚したんだな。これらのことを考慮して、今回の鬼ごっこ玉入れの種目そのものを無効種目にすることに決定したんだな。これは学校での決定だから抗議は一切受け付けないんだな。以上、これにて鬼ごっこ玉入れは終了するんだな」
監督の先生がマイクを持って言いたいことだけ言って退場していったんだ。
突然のこと過ぎて呆気に取られていると
「はぁ?何それ!?」
「自分のクラスが負けた途端にそれですか……」
「何やねんあいつは!?滅茶苦茶すぎるやろ!?」
「しかも自分に抗議が行かんように学校の裁定やって言い切ってから逃げたしのぅ」
「…………さすがにそれは予想出来ないぜ」
真琴たちが口々に監督の先生のことを批判していたんだよね。まぁ僕も余りのことで言葉が出なかっただけで、もし口に出ていたとしたら何かしらの悪口だったはずだしね。真琴たちの声が大きかったのもあって、それを聞いたクラスの皆が
「確かにあの裁定はマジでねぇよなー」
「ほんとほんと」
「中山だったっけか?俺らの仇を取ってくれてありがとうな」
とか言いながら僕たちの会話に参加してきたんだよね。そうしてそのまま監督の先生への悪口大会は次の種目であった二人三脚が終わるまで続いたのであった。
………………
…………
……
「んー!少しはスッキリしたかしら」
「ですね。それではこれからお昼の時間ですし、移動しましょうか」
「そうね。午後のためにエネルギーを補填しないと」
「そうだね。僕も午後には出る種目があるからご飯はしっかり食べないと」
後、日焼け止めをしっかり塗りなおしておかないとね。そう思いながら日焼け止めを入れてあった小物入れの中身を確認するためにあけてみたんだけど
「えっ……?」
「京、どうしたの?」
中身を見たまま固まっていた僕に真琴がそう尋ねてきたんだ。
「う、ううん。何でもないよ!」
僕は頭を振りながらそう答えて真琴たちの方に歩き出したんだけど、僕の内心は大量の冷や汗をかいていたんだ。
どうしよう……。日焼け止めがなくなってる……。
あっ、もちろんあの会話の中に空元君もいます。会話に参加しなかったために誰にも気にしてもらえなかっただけで……。




