28話 休日【3】
【追記】指摘して頂いた箇所を修正しました。
「この服……、本当に着ないとダメ?」
僕は上目遣いをしながら聞いた。正直に言って上目遣いを意識的にするのってすごい恥ずかしくて嫌なんだけど、この服を着るよりはまだマシだからね!使えるものは全部使わないとっ!!
でも、僕の願いは虚しく……
「その上目遣いをされたら思わず頷きたくなるが……、その服を着た京に上目遣いがされたいから却下だな。それに、約束だろ?いい加減渋って無いで着てくれよ?」
却下されたのであった。
「うっ……。そうなんだけどさ……」
そう言いながらも、なおも渋って手に持ったままの僕に対して健吾は
「大丈夫だって!絶対似合うから!それにほら、1日だけだからさ!」
「わ、わかったよ……。それじゃあ、着替えてくるね?本当に今日だけなんだからねっ!!」
そう言って僕は健吾との約束を叶えるために自分の部屋に戻ったのであった。
…………
……
「おぉー!予想通りかなり似合ってるじゃないか」
「そ、そう?でも似合ってるって言われても全然嬉しくないよ……。なんで……」
僕は自分が着ている服を見下ろしてから
「なんで、あそこの店の制服を持ってるの!?」
健吾に向かって問い詰めたのであった。
そう、今僕が着ている服は、僕の家から自転車で10分くらいしたところにあるファミレスの制服なんだよね。制服が可愛いっていうことが地元じゃ有名で、中学時代はよく健吾と一緒に行っていたなぁ。まさか学校の服だけじゃなくて、この制服も着ることになるとはね……。
っと、今は何で健吾がこの制服を持っているかについて問いただす方が先だよね。健吾の答えを待っていると
「いや?さすがに俺のじゃないぜ?ってか、俺が持ってたら色々とヤバイだろ。これは都さんが貸してくれたんだよ」
っていう、ありがたい答えが返ってきた。お母さん、何でこんなの持ってるの……。何でお母さんが持っているのか疑問に思っていると、それが顔に出ていたのか
「ん?何か都さんはあの店の店長と昔からの知り合いみたいでさ。俺がお前とあんな約束をしたっていうのを知ったらすぐに用意してきたぜ?むしろこれを着させてくれってな。まぁ、俺もお前がこれを着てるのとか見てみたかったし、助かったぜ。着てもらうための服を調達するだけでも結構な金がかかるって思ってたからなー」
そう律儀に僕の疑問に答えてくれながらしみじみしてる健吾。その健吾に呆れていると、ふと視線を感じ、そちらを見てみると
「あっ、やばっ。見つかった!」
「シッ。まだ大丈夫よ」
「あぁ、まさか京のこんな姿が見れるなんて……」
修兄、お母さん、父さんがリビングの扉のところからこっそり見ていた。まぁ、こっそりっていうにはバレバレなんだけど……。っていうか父さん、僕が今まで着たことない服を着てるのを見るたびに感動して泣くのそろそろ止めてくれないかなぁ。僕の中での父さんの威厳がどんどん無くなってきてるよ……。
「……ふんっ!!」
さすがにジロジロと見られるのが嫌な僕は扉に近づいて、思いっきり扉を閉めて鍵を閉めてやった。何か扉の向こうから聞こえてくる気がするけど無視無視。僕は見世物なんかじゃないんだからね!
思いっきり閉めてやったおかげかは知らないけど、健吾が我に返って
「ハッ!?何しみじみしてるんだよ俺!?もったいねぇ!」
って叫んでいた。僕としては全然そのままでもよかったんだけどなぁ。これ以上何事も無いのが一番だしね。
「よし、それじゃあ約束通り頼むぜ?」
「うん、わかった!……でも本当にいいの?これを着て料理するだけで?いや、これだけで僕としては十分助かっているけど」
もっと無茶なことを言われるって覚悟してた分だけ、少しだけ拍子抜けしたところもあるけど、余計なことを言って追加とか言われないようにするためにもちろん口には出さないけどね。
「あぁ、それでOKだ」
そう言って健吾が親指を立ててきてるから、問題なさそうだしね
「それじゃあ、健吾の要望通りに僕の気まぐれメニューでいいんだよね?」
「いや、気まぐれじゃなくてオススメなんだが……。まぁ、お前の好きな料理を作ってくれたらいいさ」
「わかった。今から作るから、健吾は適当に時間でも潰して待っててね」
「りょーかい」
よし、健吾から僕が好きなように作っていいって言葉を貰ったから、本当に好きなように作らせてもらうかな。
ふふふ……。
僕はある決意を胸に料理を開始したのであった。
………………
…………
……
「は、はい……。か、完成したよ……」
「おう。待ってたぜ。ってかどうしたよ?そんなに疲れて?」
健吾がキョトンとしながら聞いてくるもんだから
「いや?完全に健吾のせいだからね?料理してる間ずっとこっちを見てるのはわかってたんだから!それが気になっていつも以上に疲れちゃったんだからね!!」
僕は健吾を軽く睨みながらそう返した。健吾のやつ、本当にずっとこっちを見続けるんだよね、それで僕の方から健吾を見たら視線を逸らすかなぁって思って何回か見たんだけど、逸らすこともなく、ただ本当にこっちを暖かい目って言うべきなのかな?そんな感じの表情で見続けたんだよね。あっ、これは何を言ってもダメなやつだって思って料理に集中しようとしたんだけど、やっぱりずっと見られてるっていうのがわかると余計な力が入るわけで……。それでいつもはしないようなミスをしそうになったりしてたら、余計な時間と体力を使ってしまったというわけです……。あぁ、疲れた~。
でも……
「まぁまぁ。それにしても相変わらず美味そうだなぁ。もう食べていいか?」
健吾は僕がした秘策に全然気付いていないっぽくて、今すぐにでも食べようとしていたのを見て、僕は密かに笑みを浮かべながら
「うん。っていうか健吾のために作ったんだから、遠慮せずに食べちゃって」
そう言ったのであった。すると健吾は
「おう!それじゃあ、いただきますっ!!」
って両手を合わせてから食べ始めたんだ。
あっ、今回のメニューはご飯にハンバーグ、レタスのサラダ、後はお味噌汁って感じなんだ。ハンバーグって便利だよね、色々な意味で。
健吾がご飯を食べているのを眺めていると、健吾が今回のメインディッシュであるハンバーグを口に入れると、動きを止めて
「ん?今日のハンバーグいつものと違うくないか?」
って、聞いてきたのに対して僕は内心ドキドキしながら
「い、いや。そんなことないと思うけど?」
そう返したのであった。だ、大丈夫。まだちょっと疑問に思っただけで気付いてないからね。それに、気付いてたらもうこのハンバーグは食べないだろうから、大丈夫なはず、うん。
その後、僕は下手なことを言ってボロが出てはいけないと思い、ただ黙って健吾がご飯を食べ終わるのを見守っていたのであった。
…………
……
「ふぅ、ご馳走様でした」
そう言って、健吾は満足した顔で再び手を合わせていた。
「はい。お粗末さまでした」
僕も健吾が食べきったことに満足で、笑顔でそう答えたのであった。そしたら健吾が
「お、おう。どうしたんだ?かなり機嫌がいいみたいだが?」
僕がいつも以上に機嫌が良いのを不思議に思って聞いてきたから僕は
「そう思う?だって健吾が苦手な食べ物を1つ克服したからね」
って返すと、健吾がピシッて固まっちゃったんだよね。予想通りの反応過ぎて笑いそうになったんだけど、そこはグッて我慢して健吾の様子を見ていると
「え?それってどういう……。ま、まさか、あのハンバーグ……っ!!」
少し考えてからあることに思い至ったみたいなんだ。健吾がついにあのときに感じた違和感が分かったみたいだから、僕は
「そのまさかだよ。どうだった?人参入りのハンバーグは?」
正確には人参をペースト状にして混ぜたんだけどね。健吾は昔から人参が嫌いで、人参が入ってるってわかると人参を全部除いてからしか食べなかったんだよね……。だから僕は人参のおいしさを分かってもらうために今日は頑張ってみたんだよね。
「まさか俺が人参を食べる日が来ようとは……」
健吾は絶望した表情をしながらそう呟いていた。いや、別にそこまでのことじゃないでしょ!?
「いやいやいや、普通に食べれたでしょっ!?そこまで絶望することなの!?」
って驚きながら聞くと、健吾は
「いや?全然?京にここまで上手くやられたのが初めてだったから意趣返しに演技しただけだが?あぁ、こうやったら俺も人参は食えるって知って今日は得したって感じだぜ」
「もちろん京のコスプレも見れてだからかなりお得だな」ってニヤリと笑いながら返してきた。
「……もう。まぁ、健吾が無事に苦手な食べ物を克服したからいいけどさ……」
結局いつも通りになった僕はそう言ってため息をついていた。
「……ところで」
ため息をつき終えた僕はチラリと横を見て
「何でお母さんはすごい笑顔でこっちを見ているのかな?」
僕たちの会話を温かい目で見守っていたお母さんに尋ねた。折角追い出したのに、ちゃっかり入って来てるし。鍵は閉めたはずなのに、どうやって入ってきたんだろ?
「いや?京ちゃんと健吾君のやり取りが完全に夫婦みたいだったからね?もう京ちゃんの将来も決まったようなものね♪」
「いや?冗談でもそんなこと言うの止めてよ!?」
僕は男なんだから健吾となんてありえないでしょ!?健吾も健吾で「任せて下さい!!」とか言ってるし……。
「ハァ……。健吾もそんな冗談はいらないからね?あっ、それはそうと修兄と父さんはどうしたの?お母さんと一緒に入ってきたんじゃないの?」
ふと疑問に思ったことを尋ねてみたら
「馬鹿ねぇ。そんなことしたら折角の甘々な空気が壊れちゃうでしょ?だから、実力行使しちゃった♪」
って返されてしまった。最後は軽く言っていたけど、抗議の声が全く聞こえないということは徹底的にしたんだろうけど、怖くてとてもじゃないけど詳細は聞けなかったよ……。後、別にそんな空気なんて作ってないんだからね!
そして、その後はお母さんを交えて3人で他愛も無い会話をして無事に今日という日を乗り切ったのであった。
……定期的に健吾が「さっきのは冗談じゃないんだけどなぁ……」って呟いていたような気がするけど、気のせいだよね、うん。気のせい。
僕は必死にそう自分に言い聞かせていたのであった。
話の展開のために、苦手なものが出来てしまった健吾君。
健吾は犠牲になったのだ……。




