13話 入学式⑤
【追記】誤字脱字修正しました。
【追記2】指摘していただいた内容を修正しました。
「ところで、漫画ってどんなやつを読むの?」
真琴がそう尋ねてきた。あ、そういやどういうジャンルを読むか言ってなかったね
「えっとね、基本的には少年漫画系のやつが多いかな?」
「へぇ~、そうなんだぁ。ってことはやっぱり最後は主人公が戦って勝つ系のやつが好きなの?」
「うん。やっぱり主人公が勝つところを見るとスカッてするもん!って、あっ……」
いざ帰ろうと教室を出たときに、僕はふと健吾のことを思い出した。
「ん?どうしたの、京?」
「えっとね?今日ここまで一緒に来た友達が1人いるんだけど、帰りも一緒に帰ろうって約束してたの忘れてたんだ……」
「あら?そうなの?なら一緒に帰ればいいでしょ。ね?皆」
「そうですね」
「そうやな」
「そうッスね」
真琴がそう言った後、すぐに皆がOKを出してくれた。断られたらどうしようかと思ってたけど、よかったぁ~
えっと……、それで肝心の健吾は……と、いたいた。あ、でも誰かと話してるみたい。あれ?健吾と話してる男の子、どこかで見たことがあるような……、無いような……?
そう思って二人が話しているのを見ていると、気付いた健吾たちがこっちに駆け寄ってきた。
「京すまん。待たせてしまったな」
「ううん。僕たちの方も今終わったばっかりだから大丈夫だよ?それでえっと……」
そう言って、僕は健吾の横にいた男の子の方に視線を向けた。
「あぁ、こいつは『俺と』同じ出身中学だった藤林晃だ。おまえが会うのは初めてだったな」
あー、だから見たことあったのか……。確か野球部だったっけ?
「おぉー。こいつが熱海の従妹か。ふむ……、少し幼い感じがするが、中々いい感じじゃん」
そういって、僕をじっとりとした眼で見てくる。むっ。なんか嫌な感じ……
藤林君の視線に僕が落ち着かないでいると
「おい藤林。そろそろ行かないとマズいんじゃないのか?」
「ん?おっと、もうそんな時間か。早く行かないと先輩に怒られちまうし、さっさと向かうか。それじゃあ京ちゃん、またね~」
健吾がそういってくれて、藤林君は去っていった。うーん……、会ってすぐなのに下の名前で呼んでくるこの馴れ馴れしさはちょっと苦手だなぁ……
「……すまん。根はいいやつなんだが……。明日にでもしっかりと言い聞かせておくから。それで、えっと……」
そう言って僕に謝ってから、健吾は僕の後ろで藤林君を睨んでいた真琴たちに声をかけようとして名前が分からずに戸惑っていた。そういえばまだ紹介してなかったや。ちょっと藤林君が強烈過ぎたしね……。僕は健吾と真琴たちを紹介したのであった。
…………
……
「いやぁ、中山君はタイミングをはかるのがうまいわね。あと少し遅かったら手が出ちゃってたわよ~」
そう言いながら真琴は拳を顔の前くらいにまであげていた。健吾は冗談だと思ってるみたいだけど、たぶん本気だったんだろうなぁ。小野君も明らかにイライラしてるし……。いやぁ、物騒なことにならなくてよかったよ、ほんと
「まぁ、いいわ。今度あいつがまた京にあんな態度をとってきたらシメるとして……。さっき話に出てきていた京の従兄ってこの学校にはいないの?話の内容からして、あたし達と同い年だと思うのだけど……」
「あぁ、京矢、京の従兄は高校入学直前くらいに板前になるとか言い出してな……。京の実家の寿司屋に弟子入りしやがったんだ。それで入れ替わりという形でこの高校に受かっていた京がこっちに来たって感じだな。昔から京はこっちにちょくちょく遊びに来ていたから俺とは昔から顔馴染みだったっていうわけさ」
「へぇ~、じゃあもしそんなこと言い出さなかったらこの学校に熱海君も来る予定だったの?」
「あぁ……、本当にあいつの突拍子のない行動には困ったもんだぜ」
そういって健吾はやれやれっていう仕草をしていた。
……そう、これが学校に行く途中に決めた設定なのだ。もちろん僕の実家の寿司屋というのは存在しないし、京矢と京が一緒に高校に行くということもない。まぁ調べられたらわかっちゃうんだけど、誰もそんなこと調べないよね
「ところで、篠宮さんたちの家はどっち方面なんだ?」
健吾もあまり詮索されるとボロが出るかもしれないと踏んで、話題を変えてくれた。真琴の話によると、真琴たちとは途中までは一緒に帰れるみたい。僕達も途中までは一緒であることを健吾が伝えてくれたら
「あら?思っていたよりも家が近いのですね。校門でお別れだと思っていましたので、嬉しいです」
と優花ちゃんが微笑みながら答えていた。今までは真琴の後ろであんまり会話に参加しなかったのに、今になって会話に参加してきたのどうしてかな?実は人見知りで、やっと健吾に慣れてきたからだったりして……。まぁ、さすがにそんなことないよね!ただ今まで会話に入るタイミングがなかっただけだよね!
「そんな帰り道のことなんかより帰るならさっさと帰らん?いつまでもここにおっててもしゃーないやろ」
「そんなことじゃないわよ!!」
「そんなことではありません!!」
「お、おう……」
小野君は早く帰ろうと思って僕たちを急かそうとしていたけど、真琴と優花ちゃんに同時に突っ込まれていた。ご愁傷様です……。僕としても実はそろそろ帰りたいんだけどね……
「ははは……。でも、実際にここで立ち止まってずっといるわけにもいかないし、そろそろ帰ろうか」
「しゃーない。ここは中山君の顔に免じて早く帰るとしますかね」
「そうですね」
「何で中山やったら良くて俺やったらあかんねん!!」
「それは言わなくてもわかるでしょ」
ハァ……ってため息をつきながら真琴が小野君に返事していた。まぁ、小野君だし、仕方ないよね
「……小野、お前も苦労してるんだな……」
「そう思っとるなら代わってくれ……」
健吾もがんばって小野君をフォローしようとしていたけど、諦めた方が楽だよ?僕とか真琴たちと会ってすぐにフォローするの諦めたもん
それでも頑張って小野君をフォローしようとする健吾を横目に見つつ、僕たちは帰路についたのであった。
………………
…………
……
「それじゃあ、また明日ね~」
「それでは、また明日」
「また明日な」
「また明日ッス」
「うん、また明日~」
「それじゃあな」
いつの間にか皆との分かれ道まで来た僕たちは挨拶をしてから別れた。やっぱりまた明日って言える友達が出来るのっていいよね!
そうして僕と健吾は真琴たちが曲がり角を曲がるまで見送ってから帰ったのであった。
「…………いい人達だな」
「うん!ちょっと個性が強いけど、皆いい人だよ!」
ただ、個性が強すぎるのが問題なんだけどね、うん……
「そうか。京がちゃんと友達を作れるか不安だったが、無事に作れてよかったよ」
「もう!別に健吾なんかに心配されなくてもちゃんと友達くらい作れるもん!!」
別にボッチじゃないもん!ただ、ちょっと自分から話しかけるのが苦手なだけだもん……
「ははは、すまんすまん。それよりも……」
そこまで言ってから言葉を止めてこっちを見てくる健吾。どうしたんだろ?
「そろそろ限界なんじゃないのか?」
「っ!!…………やっぱり、健吾にはバレるよね……。うまく隠せていると思ってたんだけど……」
「まぁ、篠宮さんたちは気付けてなかったし、上手に隠せてるとは思うぜ?俺だって、行きにおまえがスタミナ切れを起こすくらい体力がなくなっているって知らなかったら見逃していたかもしれないし」
「うーん……。それでもやっぱりバレたってことには変わりないし、どうやったらうまく誤魔化せるだろ……」
「別に誤魔化さなくてもいいと思うがなぁ。倒れる前にはしっかり誰かを頼れよ。それで、どうする?」
「どうしようか?ゆっくり歩けば帰れないこともないよ?」
「いやいや、おまえに無理させたってバレたら都さんに何を言われるかわからないって」
「……くすっ」
僕のことで怒られている健吾を想像しようと思ったら、予想以上に簡単に想像出来てしまって思わず笑ってしまった。健吾ごめんね、でもやっぱり想像が簡単すぎるや
「…………今何を想像して笑ったのかは不問にしといてやる。まぁ、そういうわけでおまえを家まで送る方法はだな……」
そういって、こっちに健吾は背を向けてしゃがみ始めた。
「……何してるの?」
「何って、おまえをおんぶして帰るに決まってんだろ」
「!?いやいや、ムリだって!高校生にもなっておんぶとか恥ずかしすぎるよ!!」
「そんなにおんぶが嫌か?それなら……俺もさすがに恥ずかしいが、抱っこして帰ってやろうか?」
「そういう問題じゃないよ!!!!」
健吾は何を考えているの!?高校生にもなっておんぶとか抱っことか……。うぅ、想像しただけでも恥ずかしいよぅ
「うーん、それ以外には思いつかねぇし……。どっちかやらないといけないって言ったらどっちがいい?ぶっちゃけ、今はもう立ってるだけでも辛いだろ?」
「うぅ……。それはそうだけど……。どっちかを選ばないとダメ?」
「あぁ、ダメだ」
「……………………おんぶで」
苦渋の選択でおんぶを選ぶ僕。今回だけなんだからね!健吾に指摘されたとおりに、本当にもう立ってるだけで辛いし……。やっぱりちゃんと体力をつけないとなぁ。
「ほいほい。それじゃあしっかり摑まってくれよ」
「う、うん。そ、それじゃあ失礼します……」
そういって僕は健吾におんぶしてもらうのであった。
「うわっ!おまえ軽すぎないか?ちゃんとご飯食べてるか?」
「ご飯はちゃんと食べてるよ!今日の朝もちゃんと自分で作ったご飯を一杯食べてきたし」
「え?おまえ料理とか出来んの!?」
「え?う、うん」
健吾がすごい勢いでこちらに振り返るもんだから、僕は思わず言葉に詰まってしまった。
え?何?別に料理が出来るくらい、別に食いつくところでもないでしょ
「そうなのか。それじゃあまた今度何か作ってくれよ」
「機会があったらねー……」
「おう、それじゃあそろそろ行くか」
そう言って健吾は僕をおぶったまま歩き出した。
そうして、僕は健吾が歩くリズムのいい感じの揺れと疲れがたたったのか、そのまま眠ってしまったんだよね……
眠る直前には僕の眼には、想像していたよりも広い健吾の背中がうつっていたのであった
これで、やっと入学式の日が終わりです。




