155話 思い出した想い3
「さて、どこから話そうかしらね」
都さんに勧められた椅子に座り、都さんの言葉を待っていると、都さんはそう呟き
「まず、あの子と私たちが関係者だってことはわかっているわよね?」
まずはと確認してきた。だから
「枡岡さんのことですよね。はい、さすがにそのことは」
俺も確認し返し、頷いた。
「えぇ、枡岡と名乗っている子で合っているわ。そうね……。健吾君に取ったら荒唐無稽なことに聞こえると思うのだけど……」
都さんはそこで一度言葉を切り
「異世界って信じるかしら?」
「……はい?」
都さんの口から全く予想だにしなかった言葉が出てきて、俺は思わず間抜けな言葉を口にしていると
「……まぁ、そのような反応になるわよね。でも本当のことなの。私もあの子も、時期は違うけど、同じ異世界に飛ばされているの。ただ、こっちに戻ってくる選択をした私たちと違い、あの子は向こうの世界に残ることにしたみたいだけど」
都さんは苦笑をしながらも続けて説明してくれたんだが、
「……でも、それっておかしくないですか?」
枡岡さんがその異世界ってところに残ったのだとしたら、どうしてこっちに干渉出来るのか。
その疑問について聞こうと思ったのだが、
「やっぱりそこは疑問に思うわよね? どうやらあの子の相方が時空系の能力が合って……」
聞く前に都さんは教えてくれたんだが、言っていることのほとんどを理解出来ずにいると
「要はあの子は自由にあっちとこちらの世界を行き来出来るってこと。だからあの子はこちらの世界にいたの」
都さんは簡潔に改めて教えてくれたんだ。
「それでなんだけど、実はね、京と健吾君も同じところに行くはずだったのよ」
ただ、続けてまた衝撃的なことを言われてしまい、
「……は?」
再び間抜けな声を漏らしていると、
「京矢が京になった日のこと、覚えてる?」
都さんが問いかけてきたんだ。
「それは、もちろん覚えています」
だってあの日、俺が不注意だったせいで京矢が事故にあってしまい、京になってしまったんだ。だから俺は忘れることなんて出来ない日だ。
「実はあの日、京矢と健吾君は異世界に飛ばされるはずだったの。予知能力持ちの知り合いから、あの日に2人が私たちがいたところに飛ばされることはわかっていたのよね。だけど、私たちには止める方法がなかった。そこで、あの子が自由にこっちと向こうを行き来していることには気づいていたから、協力を要請したのよ。十中八九面白がってでしょうけど、あれ程暴走したのは予想外だったわ。まさか転移を防ぐために車をぶつけてくるなんてね……」
都さんは片手を額に当てながらそう言ってきたが、いやいや、さらっと教えてくれてるが、あの事故は人為的な事故だったってことか? つまり――
「俺らがその異世界に行っていれば京矢は京にはならなかった?」
まだ都さんの話は半信半疑なところはあるが、本当だと仮定して、異世界行きを防いでもらったその代償として、京矢が京になったってことなんだろ? 俺もその代償がないとおかしいのに、どうして京だけ……。
「いえ、あっちに飛ばされていても京矢は女の子になっていたわよ?」
と考えていると、都さんは俺の考えを見透かしたかのようにそう言ってきたんだ。
「それってどういう……」
あの人のせいじゃなくて? 意味が分からず聞き返すと
「私の血筋はね、どういうわけか、こちらからあちらに移動するときに性別が反転するのよ。修矢はあの人の血の方が濃いから大丈夫だと思うのだけど、京矢は私の血を色濃く継いじゃってるから、向こうに行ったときに女の子になっていたでしょうね」
都さんは教えてくれたんだが、それってつまり……。
「ふふふ、言葉にするのが野暮ってことよ。それより、不思議に思わない?」
やはりそういうことのようだ。今思えば、京矢が京になったときに、ほとんど動揺していなかったのはこのことが原因なのだろう。それよりも不思議に思うこと……? そういえば、どうしてここまで話が出来ているんだ……? ここまで踏み込んだ内容になると、あの人のルールに抵触してしまうんじゃ……?
「気づいたようね。健吾君がこちらの方に片足突っ込んでいることもあるけど、私たちがルールの抜け道を使ったから、あの子今不貞腐れちゃってるのよ。今頃、こっちからじゃなくて、向こうからこちらの様子を見るために、拠点だった喫茶店を消しているんじゃないかしら? まだ魔法の複数同時操作が甘いから、こうしてルールに抵触しそうなことでもこの間なら普通に話せちゃうのよ。もちろん、京はまだこちらのことをほとんど知らないから話せないでしょうし、話せたとしても京の耳には京が理解出来る言葉では届かないでしょうね」
都さんは俺が気づいたことがわかったみたいで、なぜ大丈夫なのかについて教えてくれたんだ。ただ、あの人といい、都さんといい、俺の考えていることが筒抜けになってしまっていることはどうにも落ち着かない。まさか本当に筒抜けなんてことは――
「あるわよ」
ないよなと続ける前に都さんにそう言われてしまった。
「向こうにいる間に身につく能力の応用なんだけど、耐性がない人の考え事くらいなら読み取れるの。ただ、向こうに行かなくても、読み取ることは出来ないけど、それに対抗する手段は見つけられるから、今度教えてあげるわ。今日はもう遅いしね」
都さんは続けてそう言い、窓の方に視線を送った。同じように窓の方を見ると、いつの間にか日が沈みかけており、暗くなり始めていた。
「まだ時間としては早いけど、やっぱり暗くなってくると、治安も悪くなってくるしね。だから、また京との仲直りが出来た後にでも改めていらっしゃい? そのときに教えてあげる」
都さんは微笑みながらそうは言ったが、その笑みの中には今はもうこれ以上聞き入れないという意味も含んでいることを察した俺は
「わかりました。ありがとうございました。またお願いします」
と都さんに礼を言い、熱海家を後にしたのであった。
正直、作者的にもぶっとばしすぎたかなと思っています。ただ、投稿初期からこの設定は作者の中でありましたので、致し方なし。




