151話 〇がいない始業式2
「このっ、大馬鹿者がぁぁぁっ!!」
丘神の声と共に頬に衝撃を受けた俺は後ろの机や椅子を巻き込みながら後ろに吹き飛んだ。
「っ! 何すんだ!!」
俺は巻き込んで一緒に倒れていた机を支えに立ち上がり、丘神に文句を言おうとしたのだが
「なぜ突き放したっ!!」
丘神は俺を責めるように言ってきたんだ。
「何がだよ!!」
急に殴ってきただけでなく、意味の分からないことを言われた俺は、その理不尽さに物申そうとしたのだが
「京は何か困っておったんじゃろがっ!! それで京自身ではどうすることも出来なくてお前を頼ったというのに……。それなのに知らないと返しただけじゃと? 京が学校に来れなくなってしまうほどに弱ってしまっておるのにのこのこと学校に来よって……、お前のそれがどれだけ京を傷つけたのかわからんのかっ!!」
その前に丘神に言われた言葉に俺は衝撃を受けた。いや、確かに京の様子はおかしかったが……。都さんに引き止められてしまっていたとはいえ、様子見だけして、何もしなかったことが、それだけで京を傷つけていた……?
全く思い至っていなかったことを丘神に言われ、愕然としていると
「……ったく。なんで俺がお前にアドバイスしてやらねばならんのじゃ。ただでさえ初詣でハブられたというのに……」
丘神は首を左右に振りながら聞き捨てならないことを呟いていた。
「ちょっと待ってくれ。初詣をハブられたってどういうことだ?」
だから俺が思わず聞き返すと
「はぁ? 何を言っておるんじゃ。わざわざ俺にだけ連絡がいかないようにしてお前たちだけで初詣に行っとったんじゃろ? 篠宮さんたちがお前の方についていたことには薄々感じておったが、それでも行ってきたということを聞かされるのは中々に堪えるものはあったというのに……。お前はお前で腑抜けておるし、一発だけにしてやったのも感謝してほしいものじゃ」
丘神は訝しむように眉をひそめながらもどういうことなのか教えてくれた。だがどういうことだ? 俺が京と一緒に初詣に行っていただと?
言われたことが本当かどうかを思い出そうと必死に頭の中の記憶を漁ったのだが、全く引っ掛かりもせず、頭を悩ませていると
「……今週だけじゃ。それ以上進展がないようならば俺は俺で動かさせてもらう」
ひそめていた眉の間を指で軽くつまみながらそう言うと、丘神はそのまま教室を出て行った。
「今週って、実質土日だけじゃねぇか」
俺は丘神を見送りながらそうつぶやいた。今日が金曜日だから今週って言ってもほとんど時間がない。まぁ、それでも時間がもらえただけでもありがたい。まずは――
「確認しないとな」
信じていないわけではないが、確信を得るために、彼女たちに会いに向かったのであった。
…………
……
「あら? もう来たの? まぁ、もう少ししたら来るとは思っていたのだけどね」
京たちの教室をのぞくと、そこには俺が来るのを待っていたのだろう。自身の机に腰かけた篠宮さんとその横の机の椅子に座っていた服部さんが待ち構えていた。
「丘神から聞いたかもしれないが、確認したいことがあるんだ」
彼女たちの方へと近づきながら訪ねると
「良いわよ。朝から何も変わっていないようだったら答えるつもりはなかったけど……、丘神君には後でちゃんとお礼を言って起きなさいよ? 京の様子がおかしいことをあたしたちから聞いて、それだけであんたに活を入れるって言ってきてくれたんだから。まぁ、あたしたちから丘神君に頼むことなんてとても出来なかったけれど……」
篠宮さんは苦笑しながら良いと言ってくれた。朝はあんな別れ方をしたから、相談に乗ってくれるかも少し不安だったが、どうやら何とか話を聞いてもらえる程度には許してもらえるようになったらしい。そのことに安堵の息をついてから
「その言い方からして、丘神が言っていた初詣の話は本当だったってことか」
2人に尋ねると
「えぇ。でも、そのおかげで初詣をほぼほぼ2人きりで出来たんだからよかったでしょ?」
篠宮さんは丘神から話した内容の詳細までは聞いていなかったみたいでそのように返してきた。
「いや、そうじゃないんだ」
俺はそれに首を横に振って返すと
「どういうことですか?」
服部さんが少し首を傾げながら訪ねてきた。
「俺が聞きたいのは、俺たちって初詣に行ったんだよなってことなんだ」
こんなことを聞くと引かれるだろうなと思いながらも聞くと、予想通り
「……痴呆症にでもなったの?」
2人は少し引き気味に俺に尋ねてきた。
「ははは、正月ボケが少しひどいみたいでな。ありがとう。これでやっと確信を持てた。それじゃあ、俺は行くところが出来たから」
俺はそれに苦笑で返し、教室を出ようとしたところで
「ちょっと待って」
と篠宮さんに引き止められ、視線だけそちらに向けると
「京さんは来週には学校に来られますよね?」
服部さんが少し不安の表情を浮かべて聞いてきたんだ。俺はそれに
「あぁ、任せてくれ」
と言って、今度こそ教室を出て目的の場所に向かったのであった。
…………
……
「ただいま」
目的の場所――自分の家なんだが――に帰ってきた俺は母さんがいるだろうリビングにすぐに向かった。予想通りリビングでお茶を飲んでいた母さんは俺を見るなり
「やっと帰ってきたか、馬鹿息子」
辛らつな言葉を浴びせてきた。まぁ、学校に行くまでの俺じゃ言われても当然かと、俺は苦笑していると、
「ん、少しはマシになった?」
母さんは俺の様子を見てそう言ってきた。俺はそれに
「あぁ、活を入れてくれる良い友達がいるんでな」
頷いて返し
「やっとわかったんだ。いや、違うな」
俺はそう言って少し間をおいてから
「母さん、俺は一体何を忘れてしまったんだ?」
本題を切り出したのであった。




