148話 〇〇が消えた日
サブタイトルのは敢えて伏せています。
「んっ、んー……」
初詣に行った次の日、僕は身体を起こし、カーテンを開けてから伸びをしていた。僕の気持ちの問題と言われればそうなんだけど、健吾との約束だけじゃなく、真琴たちとの約束まで破っちゃうところだったしね。どうになかったのは本当に彩矢のおかげだよ。
「彩矢、ありがとうね」
だから気持ちを伝えるためにも、敢えて声を出して彩矢に感謝の言葉を言ったんだけど……
「…………あれ?」
彩矢からの返事が無かったんだ。いつもなら彩矢の方が早く起きているから、声を掛けたらすぐに返事が返ってきていたのに、今日に限って返事がなかったんだよね。
「やっぱり疲れたのかな?」
昨日はほぼずっと僕と入れ替わってもらっていたからね。普段はしていないことを全部押し付けちゃったし。だからこそ、普段よりもずっと疲れちゃってて寝過ごしているのかもしれない。前にも一回だけ寝過ごしたときがあったしね。あのときは授業中に彩矢が急に起きてきたから本当にビックリしたなぁ。先生の目には映らなかったおかげで咎められるということはなかったけど、バッチリ真琴と優香ちゃんに見られちゃっていて、居眠りをしていたと勘違いされたせいで、授業の後に散々からかわれたし。
反応がないからどうしようもないし、起きてくるまで待っていようかな?
僕は彩矢が起きてきたら改めてお礼を言おうと思い、リビングに向かったのであった。そうそう、お母さんから、お正月の間は僕の代わりに家事をするから、しなくていいって言ってもらえてるんだ。だから、普段じゃ絶対ないような、かなり遅い時間に起きたんだよね。もうすぐお昼って時間だから、もしかしたらみんな出掛けちゃっているかもしれないけど、とりあえず準備しておいてくれているだろう朝ご飯を食べてから今日はどうするか考ようかな。
…………
……
「うーん……」
予想通りにみんな出掛けちゃってたから朝ご飯を食べたんだけど、まさか昼を過ぎても誰も帰ってこないのは予想外だったよ。ご飯を食べている最中にも彩矢に何度か呼びかけたんだけど、全然彩矢も起きないし。
今日は特にする予定もないし、何をしようかなと考えていると、携帯が鳴り始めたんだよね。誰からかと確認すると、健吾からだったんだ。健吾からということで少しドキリとしたけど、面と向かってじゃなければ話すくらいなら大丈夫と、自分に言い聞かせて、1回深呼吸してから電話に出ると
『もしもし。今大丈夫か?』
健吾は何かしら僕に用事があるみたいで、今大丈夫か聞いてきたんだよね。
「う、うん。どうしたの?」
健吾の声にやっぱり動揺してしまって最初の言葉は少し詰まってしまったけど、その後は何とか普通にどうしたのかを聞き返すと
『1つ聞きたいんだが、昨日の晩に俺に電話をしてきたか? それか俺から電話を掛けたか?』
健吾がそう言ってきたんだ。だけど
「昨日の晩? いや、健吾と電話はしていないと思うけど……」
昨日は初詣から帰ってきた後は、少ししたら寝ちゃったからね。だから健吾に電話をした記憶がない僕はそう返すと
『そう……だよな。だけどさ、昨日の晩に京と電話をしていたみたいなんだ。この後にでも確認してくれたらいいんだが、通話履歴に残っていてな。だけど話した内容を全く覚えていなくて、少し気持ち悪くなったから京に聞いたんだ』
健吾がどうしてそんなことを聞いてきたのかの理由について教えてくれたんだ。
「そうなんだ。あー……。もしかしたら彩矢が健吾に電話を掛けたのかも?」
僕が知らないところでとなるとってことでもしかしたら彩矢が掛けたのかもと思ってそう言い
『彩矢……?』
「うん。彩矢からはまだ寝ているみたいだし、健吾と何を話したかは後で聞いておくよ。それより、昨日はありがとうね? 色々迷惑かけちゃって」
彩矢の話をして、健吾にも色々助けてもらったお礼を言っていないことに思い至った僕は健吾にお礼を言うと
『あぁ、別にあれくらいは構わないさ。それよりも、次からはあんな露骨に逃げないでくれよ? 意識してくれているのは嬉しいが、やっぱり話せないのは辛いからな』
なんてことを言ってくるもんだから、顔に熱が集まってしまった僕は
「う、うん……。がんばる……」
気が付くとそう答えていたんだ。
『おう。期待しているぜ。篠宮さんたちにも散々揶揄われたしな』
それに健吾は軽口で返してくるもんだから
「ははは……。本当にごめんね? 彩矢がいなかったら昨日はどうなっていたことか。本当に彩矢様様だよ」
僕は笑って返したんだ。だけど
『なぁ……』
健吾はそれには反応せず、何か違うことを言おうとしてきたんだよね。
「う、うん? どうしたの?」
しかもさっきまでとは違うトーンで言ってきたものだから、少し言葉に詰まらせながら答えると
『さっきから京が言っている彩矢って誰だ?』
健吾から帰ってきた言葉に、先程まで顔に集まっていた熱が一気に引いていくのを感じたのであった。




