番外編① エイプリルフール
本編とは時の流れが異なっているので、ご注意ください。
ついに3年目に突入ということで、記念に?ということで、
番外編という形でこういったネタを入れていきたいと思います。
作者の都合が絡むので、全部が全部出来るという確約は出来ませんが……。
あっ、時期的には1章終わりから2章の始めの間です。
「京矢……いや、京!! 好きだ!! 付き合ってくれ!!」
少しずつだけど、スカートの感覚に慣れ始めた頃、僕の部屋に遊びに来ていた健吾が帰る間際にいきなりそんなことを言ってきたんだ。
「……え?」
それに僕は呆けたような返事を返しちゃったんだ。だって僕、身体は女の子になっちゃったけど、少し前まで男の子だったんだよ!? いや、もちろん気持ちは今も男のこだけど……ってかそれは健吾だって知ってるよね!?
「じょ、冗談だよ……ね?」
さすがに冗談だとは思うんだけど、健吾の表情があまりにも真剣だったから僕は恐る恐る聞いてみたんだ。
「まさか。冗談でもこんなことは言わないさ」
すると健吾は表情を崩さずにそう返してきたんだ。いつもなら冗談だって言って肩をすくめるのに……。も、もしかしたら本当……に……?
ふとそんなことが心の片隅を過った僕は
「で、でも僕は男だよ?」
何とも言いようがない感覚に襲われながら、言葉につまりつつそう返したんだ。
「男? 今は女だろ?」
動揺している僕とは対照的に、健吾は冷静にそう言いながら僕の方にゆっくりと近づいてきたんだ。
僕はそれに合わせてゆっくりと後ろに下がったんだけど、狭い室内だからすぐに壁が来るわけで……
「あっ……」
トン……っと、背中に壁が当たったんだ。
後ろが壁のせいで僕はこれ以上後ろに下がれなかったんだけど、健吾はゆっくりとだけど、確実に近づいてきたんだよね。
そして、ついには僕に触れられる距離まで来ると
ドンッ――
と僕の顔の真横に勢いよく手が置かれたんだ。
えっ!? えっ!? 何これ!? 今僕は健吾に何をされているの!?
そして健吾に何をされているのかを頭が理解するよりも早く
「返事、聞かせてくれないか?」
どちらかが後少しでも動けば触れ合いそうな距離まで顔を僕に近づけてきた健吾は僕の眼を見ながらそう言ってきたんだ。
その健吾の行動に僕は思わず頬に熱が集まるのを感じ……って、何で僕は健吾に対してドキドキしてるの!? 僕は男で健吾も男なのに!! 何でこんなにドキドキしちゃったのかはわからないけど、とにかく断って早く離れてもらわないと……っ!
「あの……、えっと……、その……」
そう思ったんだけど、心臓の音がうるさくて回り音が聞こえなくなるほど冷静とは言い難い心境だった僕は中々言いたいことを言葉にすることが出来なかったんだ。
それでも何とか言葉にしようとして出来ないということを繰り返していると、
「くっ、くく……っ」
いつの間にか健吾は真面目な表情を止めており、僕から距離を取りつつ堪えていた笑いがこぼれ出たような笑いをし始めたんだ。
「えっ……?」
健吾が何で笑っているのか戸惑っていると、
「ははは……、すまんすまん。まさか本当にここまで真剣に付き合ってくれるとは思っていなかったんだ」
健吾は急に僕に謝ってきたんだよね。僕からしたら何で謝られているのかもわからない状態だから、さっきとは違う意味で頭の中にハテナを浮かべていると、
「ふぅ……、少し落ち着いた。京、どういうことかわからないって顔をしているな。ヒントっというよりは答えだが……、今日は何月何日だ?」
健吾がいきなり今日の日付を聞いてきたんだよね。なんだろうと思って
「何月何日って、そりゃあ4月1日ってあっ……」
返したんだけど、そのときに今日が何の日か分かったんだ。僕の表情を見て、僕が分かったことを察した健吾が
「つまりそういうことだ。エイプリルフール、つまり冗談ってことだよ」
ニヤリと笑いながら僕にそう言ってきたんだ。
健吾は冗談だったかもしれないけど、僕の心臓にとって悪すぎることだったから
「さすがにこれは冗談にしてはひどすぎるよ!」
と糾弾するように言うと、
「だからすまんって謝っただろ? この償いはまた後日ってことで。じゃあな!」
健吾は再びニヤリと笑ったかと思うと、逃げるように僕の部屋から出ていったんだ。
「健吾っ!!」
それに対して僕はその勢いのまま僕の家から帰った健吾に向かって叫ぶことしか出来なかったのであった。
このやり取りが後々この2人にとって裏目に出てしまうことはこのときは2人とも知る由もないのであった。
<エイプリルフール END>
エイプリルフールと言えば、年に一度嘘をついてもいい日ですが、
作者はどこかで見た午前中までという説を信じています。
作中はどう見ても午後ですが……。
それはさておき、内容の補足ですが、
この段階では
京はまだ京矢から京に変わったばっかりですので、健吾に特別な感情は何一つありません。
健吾も健吾で、京に特別な感情を抱いてはいますが、それは同性に対するそれであり、このときはまだ異性に対するものではありません。