章間㉞ 見送り
あら……? こんな時間にお酒を飲むなんて珍しいわね。
まぁな。でもわかるだろ?
えぇ、いったみたいね。
あぁ。だからこうして飲んでいるのさ。
ふふ……。向こうでもそうしてたものね。
笑って見送らないと後悔するってのを学んだからな。
懐かしいわね……。そいつのために悲しむくらいなら、そいつを思って笑いまくれだったったわよね?
おう。生憎俺は笑うのは得意じゃないからな。だからせめて気持ちだけでもってわけさ。
そうね、私もお供させてもらおうかしら?
最初からそのつもりだったにどの口が言う……。
貴方もそうだと思ったからもう一つ用意していたんでしょう?
……はぁ。本当にお前というやつは……。前から思っていたんだが、昔よりひどくなっていないか?
それはそうよ。貴方と私の関係はそれだけ変わったんだから。
そうだよな……。まさか親友が……なぁ。お前がこうなったときは本当に大変だったよ。
もう! あのときのことは謝っているじゃない。でも、今でもあのときはどうしようもないとも思っているわ。
是非もない。俺が逆の立場だったとしてもそうなっていたさ。まさか海都が……
その名前はもう出さないでって言ったでしょ? 過去とはもう決別したんだから。
まぁまぁ。こういうときだからこそ愚痴らせてくれよ。帰って来た後、お前の家での説明は本当に大変だったし。向こうの話をしても信じてもらえるわけもなく、お前はどこに行ったんだ、どうして俺だけ帰って来たんだって散々言われたし。
そうだったわね。貴方の横で聞かされていたからよく知っているわ。貴方には悪いとは思ったけど、過去との未練を断ち切るという意味でもいい後押しになってくれたと思っているわ。
お前は本当に酷いなぁ。でもまぁ、俺も踏ん切りがついたから丁度良かったとは思うよ。修矢と京に祖父母と顔合わせをさせてやれないというのは少し心苦しいところはあるがね。
でも、後悔はしていないんでしょ?
それはもちろん。そうでなければこうして遠く離れた地に引っ越して、名字から何まで変えたりしていないさ。
それもそうね。って、そんなことよりも京よ。大丈夫かしら? あの子の性格からして……
うん、恐らく予想通りのことが起きていると思うよ。
…………そう……よね。
大丈夫だって。健吾君は彼らの息子なんだ。最初は無理だと思うけど、きっかけさえあれば……。
そうよね……。あの子の力は向こうのものだから、私たちからは直接言ってあげられないのがもどかしいわ。精々、ゲームのアドバイザーのように、尋ねられたらどこどこへ向かうと言い程度しか言えないもの。いえ、それよりもひどいわね。正確に聞かれたときだけしか答えられないし。
そこは健吾君を信じるしかないよ。彼が本気で京のことを考えていくれているならば、絶対に僕たちのところに辿りつくからね。
そうね……。って、貴方は大丈夫なの? 健吾君の肩をもってるけど、無事に事が済んだとしたら、いずれ……。
それはそれ、これはこれだよ。もちろんそのときは邪魔をさせてもらうよ? 今から健吾君との言い争いを楽しみにしているしね。だからこそ、ちゃんと健吾君がその段階に行けるように手助けをすることもやぶさかではないということさ。
それってほとんど認めているようなものじゃない。本当に回りくどいことが好きね、貴方。
ははは、まぁそこは性分なんでね。
……はぁ。まぁいいわ。そのときはそのときで私も楽しませてもらうとしましょう。それじゃあ、そろそろ乾杯しましょうか。
そうだね。折角の見送りなんだし、もっと明るい話題をしなくちゃね。……こほん。それでは、一足先に未知への旅路に就いた彼女の明るい未来を願って――。
乾杯。
色々と新しいことが出てきましたが、
エピローグあたりでキチンとした説明が出来ると思います、たぶん。




