143話 クリスマスイヴ⑧
本当はもう少し早く更新する予定だったんですが、
これだけ急に寒くなると作者の体がついていけませんでした(言い訳)
「さすがに、女の子を1人置いて帰るなんて出来ないしな。そうだろ、彩矢?」
健吾さんは私に向かってそう言ってきました。私は1つ息をはき
「やはり……、わかりますか」
と呟くと
「やっぱり彩矢だったか」
と健吾さんは間違っていなかったことに安堵の表情を浮かべていました。どうやらカマをかけられていたようです。
「……ちなみにですが、どうして入れ替わっていると少しでも思ったのですか?」
このままだと癪なので、どうしてそう思ったのかについて尋ねました。すると
「いや、何だ。何となく雰囲気って言えばいいのか? それに違和感を感じたんだ」
健吾さんは頭の後ろをガシガシとかきながら私にそう言ってきました。違和感ですか……。私と京ではやはり何かが違うのでしょうね。私という人格が生まれた大元を考えると全く同じという方がおかしい話ではありますが……。それよりも……
「そうですか。ちなみにですが、私と京ではどちらの雰囲気が好みですか?」
ふと魔が差した私は健吾さんにそんな意地悪な質問をしました。すると
「えっ? いや、それは……」
私が答え辛い質問をしたこともあり、健吾さんはいつものように頭の後ろを何度かかきながら答えを探していたようですが
「そう言えば、京はどうしたんだ?」
すぐには答えが出なかったようで、あからさまに話題を変えて来ました。目的は時間稼ぎだとは思いますが、確かに私と京の約束を知らない健吾さんはわからなくて当然ですよね。
「京はそうですね……、寝ていますね」
なので簡潔に説明をしたのですが
「はぁ!? いやいやいや、何で!?」
さすがに簡潔過ぎたようで、理解してもらえませんでした。そのつもりで言ったので、逆に今の説明でわかられた方が驚きましたが。なので私はクスリと笑みをこぼした後
「京は今、誰かさんのせいでオーバーヒートしちゃっているんですよ」
今度はちゃんと健吾さんに伝えました。すると
「えっ、あー……、うん。ちゃんと意識してもらえて何よりだ」
健吾さんは少し恥ずかしそうに視線をこちらから少しだけ外し、頬を指でかきながらそう返してきました。…………わかっていたことですが、やはり……。
「ちなみにですが、私が健吾さんのことが好きだと言った場合、応えていただけますか?」
せめて、このくらいは聞いてもいいですよね? もちろん本気だということを悟られないために茶化す様な笑みを浮かべながらしか聞くことが出来ませんが。
「京はただ今オーバーヒート中で、こちらの声は届いていませんから、どのような返事でも京には知られないので大丈夫ですよ?」
万が一にですが、京のことが気になって答え辛いという可能性もありましたので、その必要はないと伝え、健吾さんの返事を待つことにしました。
「……すまない」
実際はほんの数舜だったのかもしれません。ですが、私にとって永遠にも感じられた時間が経った後、健吾さんの口からは4文字だけが紡がれました。
「……そうですか」
わかっていたことではありました。ですが
「私ではどうしても駄目なのですか? 京のおまけでも構いません。そもそも、この体は京の体そのものですし、私だったら京では出来ないような――」
ですが、どうしても健吾さんには確認しておきたかった私は苦し紛れにも取れる言葉を健吾さんに伝えようとしましたが、途中で健吾さんの顔に怒りの感情が出ていることに気付いた私は言い切ることが出来ませんでした。
「……あまり俺を見くびらないでくれ」
健吾さんはいつもよりも数段低い声で私にそう言ってきました。
…………。
…………。
…………。
…………よかった。
もう大丈夫だ。ようやく確信を得ることが出来た私は、先ほどまでの様な作った笑みではなく、本当の笑みを浮かべ
「これで心置きなく京を任せられます」
私の思いを伝えました。まさか私がそのような返しをするとは思っていなかったのでしょう。
「え……?」
健吾さんは困惑した表情を顔に浮かべていました。つい先ほどまで怒っていらっしゃったのに、すぐに違う感情が表に出ているあたり、怒っていたことももちろん京のことは大前提ですが、私のことも思ってのことだったのでしょう。そのことに思わずクスリともう一度笑みを浮かべてから
「私は恐らくもう長くないでしょう」
私は私自身のことを語り始めました。
「私は所詮、あの人によって自我を持つことが出来た存在です。それにも関わらず、私はあの人の思惑から外れたことばかりしています。なので私はいつ消えてもおかしくはないんですよ。それこそ、今この瞬間に消されても不思議ではありません」
私が消えると言ったときに、健吾さんの表情がまた別のものへと変わり、私に何かを言おうとしていましたが私はそれを無視して
「だからこそ、その前にしっかりと京を任せられる方を見つけたかったのです」
一番健吾さんには言っておきたかったことを言いました。京を任せることが出来るのは、私からしたら健吾さんしかいませんが。もちろんそれを本人に伝えることはないでしょう。
半ば無理矢理にでしたが、言いたいことを無事に健吾さんに伝えることが出来た私は健吾さんの反応を待っていると
「……それは本当のことなのか?」
健吾さんはそう私に問いて来ました。
「はい。こんなことは冗談では言えませんよ」
もちろん今日お話ししたことは全部……。そのことは私の内に秘めて頷いて返すと
「……京には?」
今度は京には言ってあるのかと聞いてきましたので、縦に振っていたそれを今度は横へと振りました。そして
「だから言ったでしょう? 任せました、と」
丸投げしますと出来る限りの作り笑いを浮かべながら返しました。するとその笑みの意味――私がすでに受けいれているということ――もわかってくださったようで、健吾さんは
「……わかった」
とだけですが、了承をしてくださいました。
「はい、お願いします。……さて、こんなお話は終わりにして帰りましょうか」
なので私はこれでこの話は終わりと、パチンと両の手を合わせて音を鳴らしてからそう言いました。
「おう……。えっ……?」
先程までとは違い、明るい声で話題を変えたこともあり、健吾さんはまたもや困惑しておりました。
「いえ、もう時間も良い時間になってまいりましたし、ずっと雪が降っていることもあって体も冷え切ってしまっていますもの。だから早く帰りましょう」
健吾さんが落ち着く前にと、私はもう一度家に帰ることを提案し、そのまま半ば力技でその提案をのませることに成功したのでした。
…………
……
「本日はありがとうございました」
あの後少ししてようやく健吾さんは落ち着いたみたいですが、そのときはすでに帰っている途中。今からまた戻るのもおかしいということで、家まで送っていただいた私は健吾さんにお礼を言いました。
「いや、元々家まで送るつもりだったしな。それよりも京はまだ目を覚まさないのか?」
健吾さんは気にするなと言って、その後に京の様子を尋ねて来ました。
「まだ暫くは無理そうです」
それに私は首を横に振って返すと
「そうか……。これからはあんなことはしないでくれよ? 俺を試すために言ったんだろうが……」
健吾さんはいつものように頭の後ろを書きながら私にそう言ってきました。
「はい、もちろん。こちらこそ、あのようなことをして申し訳ございません」
なので私は頭を下げて、改めて健吾さんに謝りました。すると
「あぁ。それじゃあ、暖かくして寝るようにな」
健吾さんは片手を軽く振ってからそう言って、健吾さんは健吾さんの家へと帰っていかれました。私がまだ家の中に入るのをあえて待たなかったのは、健吾さんなりの気遣いなのでしょう。なので私も健吾さんから視線を外し、玄関の扉を開けて体をくぐらせた後
「……告白なんて、したくてももう出来ないですよ」
と本当に、本当に小さい声で呟いた後、扉を閉めました。




