章間㉚ 振り返りとこれからのこと
「ふぅ」
私は1つ息を漏らした後、椅子の背もたれに身を預けました。
そのまま目を閉じて振り返るのは昨日までの、そう終業式までの日々です。
京さんは気づいておりませんでしたが、終業式まで多くの方々が毎日毎日京さんにアプローチしようとする方々の対応に追われていました。文化祭で京さんの踊る姿を見て、ファンクラブの方々が1つのグループへと統合されたことでこちらも把握し易くなったのですが、それ以上に京さんの姿を目の当たりにした方々が今までのような冷やかしではなく真面目に京さんへアタックをしかけるようになりまして、統合されたファンクラブ――確か親衛隊という名前だったはずです――のブロックさえ通り抜けて私たちの教室にまで辿り着く方が現れるくらいでしたから。まぁそういった方々私と真琴で処理させていただきましたが。
後はそうですね……。私か真琴が京さんの近くにいるときはクリスマスの話題を出させないように話題を調整することも中々に疲れましたね。本当はこちらはしなくても良いとは思ったんです。早く彼が京さんを誘って無事に了承をいただけていたならば、そのことを親衛隊経由で拡散すれば抑制することが出来たはずですし。それならさっさと京さんをクリスマスイヴに誘えるように場を作ってやればいいという話にはなるのですが、京さんのことですからクリスマスイヴのことは忘れていたでしょう。それに私たちが近くにいてしまうと私たちもどうかと誘ってくることは目に見えて明らかでした。さすがに意を決して誘ったところにそのような水の差され方をされるのはどうなのかとは思い、出来るだけ彼がいるところで京さんを1人きりという状況を作ったりしたのですが、中々上手く事を運ぶことは出来ませんでした。
その状況を作ったときは彼はほぼ必ず誰かと話しをしているか、何かの作業をしていましたが、出来れば切り上げて追いかけるなどをしていただきたかったです。それをしなかったということは余程大事なことだったのでしょう。教室ではあそこまで露骨にクリスマスイヴの話をしようとしていたのですから、京さんを誘う気がないということはないでしょうし。
果たして彼は無事に京さんを誘えたのでしょうか。
私個人的な気持ちとしては誘うことが上手くいかない方が少々都合が良いのですが……。
もちろん邪魔をしたりとかそういうつもりはありませんよ?
現状、彼は京さんの方しか向いておらず、アプローチをかけたところで全く無意味に終わることはわかりきっていますから。
京さん自身も彼のことはどういった種類なのかは置くことになりますが好意を抱いているようですし。そこに私が割り込むつもりはなく、京さんの周りの関係がハッキリとしたものになるまではただ成り行きを見守るつもりです。全てが終わった後にそうですね……。京さんが彼を選ばなかったときはアプローチをしてみましょうか。弱った心を慰めるというのは定番ではありますが、やはり定番になるだけあって有効的だそうですし。
まぁ現段階では捕らぬ狸の皮算用でしかありませんから、私はただ見守り、必要に応じて彼が望むことのフォローをするだけです。
いつの間にか芽生えたこの感情に従って彼とお付き合いをしたいという気持ちはもちろんありますが、今はそれよりも京さんの周りを見ていたいという気持ちの方が余程強いですしね。
やはりこれからどのような展開になるのかがハッキリとわからないものを見ている方がまだまだ心は惹かれますから、そちらの方面についてはまだ真剣に取り組むつもりはありません。
だから私はこれからもただ見守ることになるでしょう。幸いこの気持ちはまだ誰にも気づかれていないですから、私がボロを出さなければどうということもないでしょう。勘の良い真琴ならば気づいてくるかもしれませんが、そのときは小野さんとのことを言えばすぐに黙ってくれるでしょうし。真琴は誰彼構わず相手に非があるならばすぐに口論になるのですが、そのときは基本的に相手の言い分を論破するようにしています。ですが小野さんに対しては理不尽に自分の言い分を押し付けたり、ときには手を出したりしていました。小野さんへ特別な感情があることは普段の行動から察することが出来ましたが、その感情が何なのかが上手く判断出来ていませんでした。ですがそれが一種の甘えから来るものなのであろうということが京さんのおかげで確信を得ることが出来たことは色々な意味で丁度良かったです。あのときの真琴の反応からして約束の内容とやらの詳細まではわかりませんが、近々あの2人の関係に変化が生じることはまず間違いはないでしょう。幸い真琴がそれを隠そうとしているので、2人がそのような関係になるまでの間は少なくてもこのことをネタにすればやり過ごすことは出来るでしょう。
さて、明日はついにクリスマスイヴですが、京さんは誰と過ごすのでしょうね。気にはなりますが、さすがにこの日まで京さんの冷やかしをするつもりはありません。
まぁ、真琴に映画に誘われているだけともいいますが、真琴も私なんかと出掛けるより小野さんと出掛けた方がいい思い出を作れると思うのですが、観るのが恋愛映画ということもあって、まだ恥ずかしかったのかもしれません。小野さんもそういう映画はあまり好みではなさそうですから、観終わった後に何でこんな映画を観たのかということで喧嘩になることを懸念したのでしょう。
私もあの映画は気になっていましたので、丁度良い機会ですから楽しむことにしましょう。
そろそろ時間も良い時間になってきましたから、明日に備えて寝るとしましょうか。
そう決めた私は椅子から立ち上がり、ベッドへと向かったのでした。
<振り返りとこれからのこと END>
以上、優花視点でした。
あえて彼と名前を隠しました。バレバレだとは思いますが。
1人語りのときですが、段落分けるの難しいです(今更




