章間㉙ ある日の帰り道
本当は文化祭の話の後に入れる予定だった話です。
流れ的に入れたくなかったので後回しとなりました。
時系列的には文化祭の練習の時期となります。
補足として、久しぶりの登場となる小野君は
関西弁を話す京たちの友達です。
「珍しいよね。こうして2人で帰るのって」
文化祭の練習の後の帰り道、色々と偶然が重なって小野君と2人で帰っているんだけど、ふと小野君と2人きりということは全然なかったことに気が付いた僕はそう小野君に話しかけると
「そうやな。っていうより、初めてとちゃうか? 熱海は大体篠宮や服部とおるし、たまに一緒に帰るときも少なくてもどっちはおったからなぁ」
小野君も軽く頷きながらそう返してきたんだよね。確かにずっと一緒にいるもんね。
「あはは……。でもその折角の珍しい機会だから小野君に聞きたいことがあるんだよね」
やっぱりこれだけずっと一緒にいるのっておかしいのかな? と苦笑いを返したんだけど、この帰り道のわずかな時間とは言え、真琴や優花ちゃんがいないこのときを逃すわけにはいかない僕は小野君にそう尋ねると
「それって俺のセリフやないんか……? まぁええわ。何が聞きたいんや?」
今度は小野君が苦笑してから了承してくれたんだ。だから僕は
「うん。真琴のことなんだけど……」
と前置きをすると
「何や、篠宮のことか? それやったら本人に聞いた方が早いんちゃうか?」
小野君がそう返してきたんだけど、
「そうなんだけど……。ほら……、本人には聞き辛いことってあるじゃない?」
僕は小野君にそう言ったんだ。正確には聞いても大したことじゃないからいいじゃないって言って真面に取り合ってくれないから何だけどね。まぁ、教えてくれないってことには変わりないから一緒だよね、うん。
そんなことを考えながら小野君の返事を待っていると
「……さすがにあんま踏み込んだこととは教えられへんで?」
小野君は少し悩んだ後そう言ってくれたんだ。
「うん、わかった。ありがとう」
僕は小野君にお礼を伝えた後
「それじゃあ早速なんだけど、小野君と真琴って高校に入る前からの知り合いなんだよね? いつくらいからなの?」
小野君に聞きたかったことを尋ねたんだ。すると
「なんや、そんなことか。篠宮とは所謂幼馴染ってやつやな。小さい頃からずっと同じ道場に通っとたんや」
小野君はそれくらいならと教えてくれたんだよね。それにそうなんだと返すと
「あぁ。それで初めて会ったときにも篠宮が言っとったことなんやけど、恥ずかしいことに今まで一回もあいつに勝ったことないねん。せやからほぼほぼ毎週、あいつに用事がないときだけなんやけど、道場で手合わせしてるんや」
小野君は続けて2人の関係について教えてくれたんだ。
「え? 一度も?」
普段から小野君が真琴に突っかかってもすぐにあしらわれていたから、真琴の方が強いんだろうなとは思っていたけど、まさか小野君が勝ったことがないなんて思わなかった僕は思わず聞き返すと
「せやで。最近はおしいところまでいけるときが出て来たんやけど、中学卒業するまでは本当に自分でも笑えるくらい手も足もでんくてなぁ」
小野君は笑いながらそう言ってきたんだよね。だけど
「それをずっと続けてるのはすごいけど、小野君もよく心が折れないね? 僕だったらそれだけ勝てなかったら途中で諦めちゃいそう」
ゲームでの例えになっちゃうけど、対戦ゲームとかで10連敗とかしたらその日はそのゲームはしたくなくなっちゃうもん。でも小野君は今までどれだけ真琴と試合をしてきたのかはわからないけど、一度も勝つことなく続けられる継続力ってかなりすごいよね。だから僕は小野君にそう返すと
「俺も途中で何回も諦めかけたで? こいつには逆立ちしても勝てんって何回思ったかわからんしな。やけど昔に色々あって、そん時に篠宮と約束したことがあってな。それだけを心の支えにして頑張ってんねん」
小野君は一瞬だけ遠い目をした後、心の支えがあったからこそ頑張ってこれたことを教えてくれたんだよね。どれだけ心を折られかけたのかも気になるところだけど、やっぱりその心の支えの詳細の方が気になるわけで
「そうなんだ。それでその肝心の心の支えの約束ってどんな約束なの?」
小野君にその中身を尋ねると
「内緒や」
小野君はニッと笑みを浮かべてからそう言ってきたんだよね。ここまで教えてくれて、まさか隠されるとは思ってなかった僕は
「え? 何で?」
小野君にその理由を聞くと
「まぁ……、改めて約束の内容を言うのが気恥ずかしいってのも理由の1つやな。でもあれやで? 約束が果たされたら外から見てもすぐわかるはずやし、それまでの楽しみってことで頼むわ。それが我慢出来ひんのやったら、いっそのこと篠宮に聞いてみたらええわ。……っと、丁度分かれ道やし今日はここまでやな。熱海も気をつけて帰れよ」
小野君は頬を指でかきながら僕にそう言ったかと思うと、そのまま走って帰っちゃったんだ。それを僕はポカンとした表情で見送り、小野君が見えなくなったあたりで我に返った僕はもやもやした気持ちのまま家へ帰ったのであった。
次の日、どうしても内容が気になった僕は真琴に小野君との約束のことを聞いたんだけど、案の定はぐらかされちゃったんだ。ただ、その後すぐに小野君に僕にバラしたことの文句を言いに行っていたんだけど、その時の真琴の頬がいつもより赤かった気がしたんだよね。でも戻ってきたときにはいつもの真琴だったし、やっぱり気のせいだったのかな?
<ある日の帰り道 END>
唐突な真琴についての話の回でした。
後章間は2つの予定です。




