134話 テスト結果
「おー! ほんとに成績が上がってるわね」
僕が渡した成績を見ながら真琴はそう言ってきたんだよね。
「どやぁ」
驚いている真琴と優花ちゃんを見て、思わずどや顔を決めていると
「殴りたい、この笑顔……。くっ……、小野だったら迷わず殴ってるのに……。つい許したくなるこの笑顔がにくい……」
「これこそが天から与えられたものにのみ許されるどや顔……。っとまぁ、冗談はここまでとして、わざわざ隠した秘策とは何だったんですか?」
真琴が何やら悔しそうな顔をしながらそう言ってきて、優花ちゃんもそれに少しだけ乗った後、僕に尋ねて来たんだ。
「えっとね……。もしかしたら優花ちゃんなら当たり前のことかもしれないけど……」
それに僕はそう前置きをしてから、今回試した勉強法である、何がどこに書いてあるかの把握について話したんだ。え? 違うだろって? だってもう一人に何がどこに書いてあるかを覚えてもらって、それを随時教えてもらうなんて僕以外の人が出来るわけないじゃん。だから彩矢と話し合って、一人でも出来るようにするならばどうすればいいかをすり合わせたところ、予め科目ごとに分けて、置く順番まで決めておくってことにしたんだ。そうすれば、彩矢に教えてもらうほどじゃないけど、今までの僕よりはかなり効率よく勉強出来たはずだしね。ちなみにあの後、いつも以上に勉強を頑張ったこともあって、彩矢がもう少し妥協してくれたんだけど、もう覚えた内容をど忘れしちゃったときに、教えてくれるようになったんだよね。確かにもう一度教科書を探しなおすよりは早いけど、結局ど忘れした内容を教えてくれるなら、もう少し早くてもよかったじゃないって抗議したんだけど返って来た答えは、京の最初の思惑の通りになったでしょう? だったんだよね。いや、確かに教えてもらおうと思ったけど、それはテスト中であって、テスト勉強中じゃないって思ったんだけど、そのまま続いて彩矢がこれ以上は譲歩するつもりはありませんよという言葉に、これ以上ごねると逆に何も手伝ってくれなくなりそうだと思った僕は彩矢に抗議せずにテスト勉強をしたんだ。
っと、そんなことはともかく、彩矢と決めた内容だけを伝えると
「あぁ、なるほど。下準備は少々面倒ですが、確かに勉強を始めた後は楽ですよね。でも、その程度なら隠す必要がなかったのではないですか?」
優花ちゃんはやっぱり知っていたみたいで、僕の言った内容に頷いた後にそう返して来たんだよね。それに僕は
「……だってそれを言った後、知ってるって言われたら恥ずかしいじゃない」
本当はまだあのときは彩矢とも相談出来ていなくて、伝えられる内容がなかっただけなんだけど、僕は誤魔化すために視線を逸らしながら返事をすると
「あはは……、すみません」
優花ちゃんは少し困ったような苦笑いをしながら返してきたんだ。それに僕は何も返さずにいると、
「もう! 流すことはないじゃない!! …………まぁ、予想はしていたけど……。それよりも、今京が言っていた勉強内容って、そんなに良いの? テストなんて適当に全部覚えればいいじゃない」
真琴は僕たちがスルーしたことに少し怒った後、僕たちにそう尋ねてきたんだ。それに優花ちゃんは
「そうやって順序を立てずに勉強をして点数が取れるのは真琴だけですよ」
呆れた表情を浮かべながら返したんだよね。その言葉に真琴はムッとした表情を浮かべて
「テストなんてその先生の出題傾向を掴めば良いだけじゃない。そうすれば勉強範囲は絞れるし、そもそも先生の話をしっかり聞いていればテストの点くらいなら取れるじゃない」
そう言い返していたんだけど
「……そんなこと出来るのは真琴だけだよ」
僕は思わずそう口に出しちゃったんだ。だって先生の言った言葉なんてメモとして取ったところくらいならまだ何とか思い出せるけど、全部をメモすることなんて到底出来るものじゃないしね。授業中の真琴の授業態度を見ている限り、時々何かを書き込んではいるけど、そんな全部を書き取っているようには見えなかったもん。
そんな真琴だけが出来る方法をという意味も込めて視線を送っていると
「いやいやいや、そんなことないって。むしろコツさえ覚えれば誰でも出来るわよ? 特に今の国語の先生なんか特に簡単だから試してみるといいかも。あの先生、授業中にこの文章とこの文章が関係あるとかどうとかってよく言うでしょ? あれをとにかく線でも何でもいいから繋いで、後から見直しても関係があるってわかるようにしておくの。そうすれば、あの先生のテストって大半がここの文章は何を示しているか、とかこの文章中のそれとは何のことかって問題だから、その関連している文章から適当に抜き出してあげれば大抵正解をくれるわよ? 他の先生も、テストに出そうと思っている箇所とか一番使わせるつもりであろう公式とかについては案外繰り返し言っているわよ。だから先生が他よりも多く言った箇所を重点的に見直しておくだけで平均点は取れるもの。そこにちょっと工夫すればあたしくらいの点数なんて誰でも取れるわよ」
真琴はむしろなんで出来ないんだという表情を浮かべながらそう返して来たんだよね。だけど
「いや、僕教科書には書き込まないし……」
やっぱり教科書は綺麗に使いたいしね。自分の字で汚くなっちゃったら見返す気が起きなくなっちゃうし。それに、最後のちょっとの工夫が一番大事なんじゃないのかって突っ込みを入れたかったけど、工夫って言っても授業をしっかりと聞くだけだという返事が返ってきてげんなりする未来しか見えなかった僕は教科書への書き込みのことだけを返すと
「あら? 京は教科書書き込みNG派なのね。それだったらそうね……。少し効率は悪くなるけど、メモ張を用意して、何ページの文章の出だしを書いて、どの文章同士が関係あるのかをわかるようにしておくなんてどう? そうすれば何もしないよりは見直しが楽になるとは思うのだけど」
真琴は少し悩んだ後、そう提案してくれたんだ。だけど、それをしたところで上手く見直しが出来る想像が出来なかった僕はどう返事をしようか迷っていると
『まとめるのは京ですが、今回のように復習の手伝いはしますので、試してみてはどうですか?』
彩矢がそう言ってくれたんだよね。僕だけだったら少し難しかったかもだけど、彩矢が手伝ってくれるなら何とかなるかなと思えた僕は彩矢にありがとうと返してから
「うん、次のときに試してみるよ」
と真琴に返事をしたんだ。
ちなみにこの後もう少し話が続いて、優花ちゃんも教科書に直接書き込む派で、教科書を見せてもらったんだけど、すごく綺麗にまとめられていて、これこそ僕には到底真似が出来そうにないと落ち込んでいたら2人にからかわれたんだけど、それはどうでもいいよね、うん。
特に進展もない、他愛もない回でした。
彩矢がいることで京がこんな恩恵を受けていますということが
伝わっていれば幸いです。
ちなみに、本編的にはもう少しで2学期編は終わりです。
次の章に移る前に章間を何話か入れますが……。




