132話 テスト勉強
実家に帰った後に、データを持って帰ってくることに気付いたときの気持ちプライスレス
「そういえば、今回は落ち着いているようですがどうしたんですか?」
文化祭、スポーツ大会といった2大イベントも終わり、期末テストも近づいてきた頃、今までと違って慌てる必要が無くなった僕は昼休みを普段通りに過ごしていると、一緒にお弁当を食べていた優花ちゃんがそう声を掛けてきたんだよね。その言葉に僕は
「うん。今回は少しばかり自信があるからね」
ドヤ顔でそう返したんだ。すると
「へぇ。いつにもなく自信たっぷりね。何かいい勉強方法でも見つけたのかしら?」
僕たちと一緒に食べていた真琴がそう言ってきて
「そうですね。もしそうなら参考までにその方法を教えて欲しいですね」
優花ちゃんもそれに乗っかるようにそう言ってきたんだよね。だけど
「本当に結果が出るかはわからないから、テスト返却があってからってことで」
僕は2人にそう返したんだ。本当はテストの、特に暗記の成績を上げてから自信があったって言うつもりだったしね。…………まぁ、そもそも誰も真似出来ない方法だけどね……。そんなことを考えていると
『何かいい方法でも見つけたんですか? 私が把握している限りではそのような方法を見つけたということを知らないのですが』
普段周りに人がいると滅多に話しかけてこない彩矢が話かけて来たんだよね。それに珍しいと思いながら僕は
『うん。まぁ、最近ふと気づいたことだしね。彩矢にもまだ相談していなかったし』
彩矢にそう返すと
『私に相談……ですか。つまりは私の協力が必要ということですか?』
彩矢は僕の言葉からある程度推測したみたいで、確認するように聞いてきたんだよね。それに僕は
『うん。彩矢の言う通り彩矢に協力して欲しいんだよね。ほら、暗記系の科目があるでしょ? それを彩矢にも覚えて欲しいんだ。もちろん、今まで通り僕も全部覚えるけど、どうしてもテスト中にド忘れしちゃうことってあるじゃない? だからそのときに助けて欲しいんだよね』
彩矢の言葉を肯定してから協力して欲しい内容を伝えたんだ。ただ、彩矢に丸投げしちゃうと絶対協力はしてくれないだろうから、自分でも頑張るっていう主張を混ぜつつお願いをしたんだ。こうすればきっと彩矢も少しは手伝ってくれるだろうと彩矢の返事を待っていたんだけど
『嫌ですよ?』
彩矢から返ってきたのは、僕の下心を見透かしたように協力拒否の言葉だったんだ。
「えっ……」
その言葉が予想外で、思わず口に出してしまったんだよね。
「どうかしたんですか?」
僕が対策は秘密って言って黙っていたこともあり、何も教えるつもりがないとわかった2人はそのまま雑談をしていたんだ。その中で急に声を上げたものだから、不思議そうな表情を浮かべながら優花ちゃんが声を掛けて来たんだよね。
「う、ううん。ごめん、何でもない。ちょっと体を捻ろうとしたときに声が出ちゃった」
僕は慌てて首を横に振りながら咄嗟に出た言い訳と共に優花ちゃんに返したんだ。すると優花ちゃんはそうですかと言いながらこちらを探るような視線を送ってきたんだよね。それに僕は苦笑いだけを返していると、先に優花ちゃんが折れてくれて真琴とまた話し始めたんだ。無事にやり過ごせたことに心の中でホッと安堵の息を漏らした後
『嫌ってどういうこと!?』
彩矢に抗議の声を送ると
『京のためにはなりませんからね。もちろん、テスト勉強の手助けはしますよ? ですが、テスト中の口出しは何を言われてもするつもりはありません』
彩矢からはそんな返事が来たんだよね。
『いや、そんな彩矢に全部頼ろうとかそんなつもりは全然ないんだよ? ただ、国語や社会で漢字を忘れちゃったときとか、数学の使う公式を忘れちゃったときとかにね? そういうときにほんの少し教えてほしいだけなんだって。だからね? ほんの少しだけでいいからさ』
それでも何とか少しだけでもお願い出来ないかと追いすがったんだけど
『だからですね? それを私が了承してしまうと京のことですから、どこかでいざとなれば私に頼ればいいと思ってしまって手を抜くのが目に見えてます。だから何を言っても無駄ですよ』
返ってきた言葉は先ほどと同じ否定の言葉だったんだ。その取りつく島もない様子に何も返せずにいると
『テスト勉強は手伝わないとは言っていないですよ? 今までよりは勉強効率だけで言うと良くなるはずなので頑張ってください』
彩矢はテスト勉強は手伝うって言ってきたんだよね。だけど
『彩矢が手伝うってどうやって? 見えるところは同じだからどうしようもないと思うんだけど……。鏡を使って分けたとしても、結局僕が教科書やノートの見るところを変えないといけないからむしろ効率落ちそうだし』
彩矢が何をしてくれるかはわからないけど、別々に勉強しようと思ったら二度手間なことが増えるから、絶対に効率が悪いよね? そう思いながら彩矢に返事をすると
『今京の考えているような別々の場所を覚えるということはしないですよ? 私がすることは何がどこに書いてあるかの把握です。それだけでも全然違うと思いますが、どうでしょうか?』
彩矢は僕の考えを読んだみたいで、僕の考えたことを否定した後にそんな提案をしてきたんだよね。折角提案してくれたんだけど、書いてある場所を覚えてくれたところで何が変わるかがわからなかった僕はそれにどう返そうか迷っていると
『やはり言われただけではどれだけ違うかはわかりませんよね。それは実際にテスト勉強をするときにでも実感してもらいましょう。……まぁ、京が必要ないというのでしたら私からはもうテスト勉強のことについては何も言うつもりはないのですが、どうしますか?』
彩矢がそんなことを言い出したんだよね。いらないという意味の言葉を返すと協力しないと言ってきた彩矢に僕は慌てて
『そ、そんなことない。お願いするよ』
と素直に返しちゃったんだ。すると
『はい、わかりました。それではまた自室で』
と言って彩矢はもうここでは話さないという意思を僕に伝えてきたんだよね。反射的に彩矢の提案をそのまま受け入れる返事をしてしまったことを軽く後悔しつつも、一先ず協力はしてもらえることになった結果にホッと一息ついてから
『うん。お願いね』
と彩矢に返したんだ。そして彩矢にそう返事を返したのとほぼ同時に
「ね? 京もそう思うでしょ?」
と真琴が話しかけて来たんだよね。だけど彩矢と会話していて真琴と優花ちゃんの話を聞いていなかった僕は
「ごめん、何だっけ?」
と真琴に聞き返すと
「もう! ちゃんと聞いてなさいよ! 優花ったらね……」
真琴は呆れた表情を浮かべながらも、何について聞いてきていたのかを教えてくれたんだ。僕はそれにもう一度謝ってから言葉を返し、その後は授業が始まるまで3人で話に花を咲かせたのであった。




