127話 スポーツ大会
「よう……ってどうした? なんだか随分と疲れているようだが?」
あの後、何とか朝の支度を終えた僕はギリギリになったけど、健吾との待ち合わせ時間に間に合わすことが出来たんだ。だけどやっぱりいつもよりも急いでいたこともあり、満身創痍までとはいかなくても、普段以上の疲労を感じた僕は限界を出るときに溜息をもらしていたんだよね。それを健吾に見られちゃって、僕はそう健吾に聞かれたんだ。
「うん、朝にちょっとね。でも大丈夫だよ? 少なくても学校に行くのに支障をきたすほどの疲れでもないし」
僕は顔を左右に振ってからそう返し、自分の自転車を取り出したんだよね。
「そうか? ならいいが、無茶はもうするなよ?」
健吾は僕が自転車を取り出しているところを見て、心配そうな顔でそう言ってきたんだけど
「本当に大丈夫だよ。もうだいぶ涼しくなったしね」
僕は片手でガッツポーズを作って問題ないって返したんだ。
「ならいいんだが……。まぁ、顔色は悪くなさそうだから大丈夫そうか」
健吾は僕が引くつもりがないことがわかってくれたみたいで、渋々といった様子だったけど、引いてくれたんだよね。
「うん。それじゃあ行こうか」
僕は笑みを浮かべながら頷いて返し、そう健吾に合図を送ってから学校に向かって自転車を漕ぎ始めたのであった。
…………
……
「そういえば、結局あれはどうだったんだ?」
学校の駐輪場に着き、自転車を指定の場所に停めていると、健吾がそう僕に尋ねてきたんだよね。
「あれって?」
だけど、あれとはどれのことかわからなかった僕は健吾にそう聞き返すと、
「そりゃあれと言えばあれだよ。……神様からもらったやつ」
健吾は辺りを見渡した後、そう言いなおしてくれたんだよね。そこで、健吾にはまだ追加ペナルティのことを伝えていなかったことを思い出した僕は
「ごめん。そういえばまだ健吾には言っていなかったね。それじゃあ早速――」
丁度いいタイミングだから彩矢を紹介しようとしたんだけど、
「きょーーーーうーーーーーっ!! 早く来なさーいっ!! もう教室に居ないのはあんただけなんだからーっ!!」
と上から大声で僕を呼ぶ声に遮られちゃったんだよね。声のする方に視線を向けると、真琴が僕たちの方に向かって手を振っていたんだ。僕が真琴に気付いたことを確認した真琴は
「ほら、さっさとしなさいっ!! こんなことはさっさと決めてしまうに限るんだからっ!! そういうわけでさっさとするっ!! 3分以内に教室に来なかったら勝手に決めちゃうわよーっ!!」
さっきよりは小さいけど、それでも十分に大きい声でそう言ってきたんだ。かと思ったら大声でカウントを始めちゃったんだよね。僕はそれを見て苦笑いをしてから
「ごめん、健吾」
と健吾に一言詫びを入れると
「あれは仕方がないさ。時間切れする前に早く行って来な。ただ、焦ってコケないようにな?」
健吾も苦笑しながらそう言ってくれたんだよね。だから
「うん、気をつける!! それじゃあまた後でね!!」
と健吾に返してから駆け足で教室に向かったのであった。
向かっている最中に、彩矢のおかげで躓くだけで済んだことが何回かあったけど、コケなかったからノーカンだよね、うん。
…………
……
「お、おはよう……」
教室まで辿り着き、扉を開けながら挨拶をすると
「それじゃあ京も無事に間に合ったし、早く決めてしまいましょ」
真琴はパンと手を鳴らしてからそう言っていたんだ。その言葉で無事に間に合ったことがわかった僕は安堵の息を1つ漏らしてから自分の席に向かうと
「災難でしたね」
と苦笑いしながら優花ちゃんが話しかけてきたんだよね。
「あはは……。僕の名前を大声で呼んだ挙句、あのカウントダウンだもん。ここまで来るまでの間ずっと恥ずかしかったよ」
僕も苦笑いを返し、そう返したんだ。実際あの状況だと、急いでどこかに向かっている人がそうだってすぐにわかっちゃうもんね。ここに向かっている最中、すれ違った人全員に見られたり笑われたりしたもん。そのときのことの愚痴を優花ちゃんに言おうとしていると
「はいそこっ!! 余計なことを話さない!!」
真琴が僕たちを指差しながらそう言ってきたんだよね。そう言われた後まで何かを言う気力がなかった僕が口を噤んでいると
「よし、これで静かになったわね。それじゃあ、早速決めていくわよ!!」
真琴は1つ頷いた後、黒板をバンと叩いたんだよね。彩矢の手の動きを追う形で視線を動かすことで、もうすでに種目が書かれていることに気付いた僕はスポーツ大会の種目の一覧を確認するために黒板に書かれている文字を確認すると、そこには
・ソフトボール
・フットサル
・ハンドボール
・バスケットボール
・卓球
の5種目が書かれていたんだよね。
その5種目を見てどうしようかと悩んでいると
『卓球にしましょう』
と彩矢から提案があったんだ。
『うん。いいけど、どうして?』
僕としてはどれでもよかったけど、彩矢がどうして卓球を選んだのかが気になった僕はその理由を彩矢に尋ねたんだ。すると
『まず上3つは外でする種目ですから。もちろん対策をすれば問題はないとは思いますが、絶対は無いですからね。京がどうしても外で体を動かしたいというのでしたらソフトボール以外なら構いませんが……。後、バスケットボールは身長的な問題で、圧倒的に不利ですから。それらを考慮した結果卓球を選びました』
そんな返事が返ってきたんだよね。思ったよりもしっかりした返答だったことに少し驚いたけど、少し気になった僕は
『どうしてソフトボールは駄目なの?』
と彩矢に聞き返したんだ。そんなにソフトボールが嫌いになるきっかけって何かあったっけと、その原因を考えながら彩矢の返事を待っていると
『ソフトボールそのものが嫌いというわけではありませんが……。使用される道具の1つが例の事件で使用されたものですから……』
『あ……、うん。ごめん、そうだったね』
彩矢からそう言われ、あの事件で健吾があれで殴られてたことを思い出したんだ。そうだよね、あのせいで健吾は死にかけたもんね。どうしてかはわからないけど、あの絶対にトラウマになるはずだった事件のことは意識するとすぐに思い出すんだけど、そうしないとすぐに意識から外れちゃうんだよね。まるで誰かにそうされているんじゃないのかって思うくらいに。
今回もまた意識の外にいってしまっていたとはいえ、彩矢に不躾な質問をしてしまったことには変わりがないから僕は彩矢にすぐに謝ったんだ。それに彩矢は
『いいえ、気にしないでください。それも私の役割ですから』
僕に気にするなと言ってくれたんだけど
『え? それってどういう……』
その後に続いた言葉の意味が知りたくて聞き返そうとしたところで
「京っ!! 何ボーッとしているのよ!! もうあんただけなんだから早くしなさい!!」
真琴にそう言われちゃったんだ。彩矢との会話に集中していて周りを見ていなかった僕は体をビクッと震わせた後、急いで黒板を確認すると、真琴に言われた通り僕以外の人が参加したい種目に名前を書いていたんだよね。
「う、うん。ごめん!!」
だから僕は一言謝ってから、急いで黒板に自分の名前を書きに行ったのであった。
一応補足的なものとして、
京が夏のあの事件のことをすぐに認識出来なくなるのは大体とある人物? のせいです。
そのしわ寄せが全て彩矢に来ているため、一部を除いた男性はもちろん、野球などで使われるとある道具には拒絶反応に近い苦手意識を持っています。それを京に言ってしまうと京が遠慮してしまうことが目に見えているので、彩矢は京にそのことをほとんど伝えようとはしていません。




