117話 文化祭②
「京!! こっちだ、こっち!!」
予想通り約束の時間よりも少しだけ早く集合場所についた僕たちは壁際で待とうと思って、3人で立ち止まっても問題無さそうな場所を探していると僕を呼ぶ健吾の声が聞こえたんだよね。その声がした方へ振り向くと健吾が手を挙げていたんだよね。
「ごめん、待たせちゃった?」
僕はそう言いながら健吾の方へと歩み寄ると、
「俺たちも今着いたところだ。俺たちが呼び出したのに待たせるのは悪いと思ったから丁度良かった」
健吾はそう返してきたんだ。そして
「で、早速で悪いんだが今日呼び出した理由をさっさと片付けておこうか」
そう言いながら清水たちへ指さしながらそう言ったんだよね。
「いやいや、さすがにその言い方は無いっしょ。君が熱海京ちゃんだよね? 本当に熱海……じゃ一緒になっちゃうか、京矢に似てるねぇ。むしろ本人って言われても信じてしまうくらいっしょ」
その投げやりのような言い方はどうなのかと思っていると、同じように思っていた清水ではない方――小糸光一――が抗議の声を上げていたんだ。そのときに僕が京矢と似すぎているとか言い出したものだから焦って否定しようと思ったんだけど、その前に
「……元々俺は嫌だって言ってたのにおまえらが無理言ってきたから仕方なしに場を設けてやっただけなんだ。これで十分だろ。それに京が京矢に似ていると言われて喜ぶと思っているのか?」
何言ってんだって感じで冷たい視線を小糸の方へと送りながらそう返していたんだよね。それに小糸が何か言おうとしていたんだけど、小糸に話をさせるとどんどん話が逸れていくということを中学時代に散々思い知らされていた僕は
「次から気をつけてくれればいいよ? やっぱりよく言われていたし。それよりも出来れば名前を教えて欲しいいな? あと、2人だけ? もう少し多いと聞いていたんだけど……」
割り込むように健吾にそう言ったんだ。まだ健吾から2人の名前を聞いてないしね。それと前もって健吾からは4人来るって聞いていたのに2人しかいなかったからそのことも一緒に尋ねると、
「あぁ、2人は部活の呼び出しでどうしても抜け出せなかったから来れないんだとさ。それとすまん、そういえばまだ名前を伝えていなかったな。こっちの無神経で五月蝿いやつが小糸で、もう1人の今は静かにしてる方が清水だ」
健吾が一言謝りを入れてから2人の名前を言ってくれたんだ。僕はもちろん2人の名前を知っていたけど、それを悟られないように気をつけながら
「初めまして。すでに僕の名前は知っているみたいだけど、熱海京です。僕の後ろの2人はまこ……じゃなくて篠宮と服部です」
自分の名前を言ってから2人を紹介したんだ。まぁ、今後2人が清水や小糸たちと会うことは無いだろうし、関心も僕だけだろうからいらないと思うんだけど一応ね。
ただ、これ以上一緒にいてバレる可能性を少しでも増やしたくない僕としてはもうこの場を離れたいんだよね。軽く健吾の方に視線を送ると健吾もそれを汲み取ってくれて、
「よし、これで十分だろ。おまえらの要望だった京の紹介も出来たんだ。それじゃあこれで解散というこ……「いやいやいや、さすがに早すぎるっしょ!」……チッ」
この顔合わせを終わりにしようとしてくれたんだけど、小糸が割り込んできたんだよね。思わず嫌な顔を出しちゃったんだけど、健吾が舌打ちをしてくれていたおかげでこっちを見られることがなくて気付かれることはなかったんだ。そのことにホッとしていると、
「さすがに名前だけ紹介してはい、終わりって味気無さすぎるっしょ。それにまだ熱海ちゃんに謝れてないし! 確かに熱海ちゃんたちはこの後の出し物があるみたいだから俺らがずっと引き留めているのも悪いとは思うけどさ! なぁ、清水もそう思うだろ?」
清水は健吾に抗議しながらも、清水の援護を求めて清水にも聞いていたんだよね。それに清水は
「いや、まぁ……」
少し良い淀んだ後、
「熱海さんたちさえ良ければいいんじゃないか? 余り俺たちに時間を使わせてしまうことは忍びないが。 あと、この後一緒に行動しようとか言ってくれるなよ? 初対面の俺たちがいて楽しめるわけないしな」
小糸へそう返ていたんだ。それを聞いて小糸は期待するような表情を浮かべながらこっちを見て来たんだよね。僕は僕だけでは決められないってことを伝えようとしたんだけど、
「京の好きなようにしていいわよ」
「そうですね。少しくらいなら話しても時間はかからないですし、京さんの好きなようにしていいですよ」
その前にまさに頼ろうとしていた2人からそう言われちゃったんだよね。思わぬことで逃げ道を失った僕は
「えっと……、それぞれ1つだけなら……」
思わずそんな言葉を言っちゃっていたんだよね。後悔先に立たずとは言うけれど、どうして言っちゃったんだろうと、視界の端に額に手を当てている健吾を捉えながら心の中で溜息をついていると、
「おっ! 熱海ちゃんは話が分かるじゃーん! 早速質問を……の前にまずは熱海ちゃんごめんね? 悪気があったわけじゃないことだけは信じてくれると嬉しいかな。それで質問なんだけど、好みのタイプとか連絡先を聞きたいけど、会ってすぐにってのもあるし、あんなこと言っちゃったこともあるから……。ここは無難に趣味とかでいくっしょ。そういうわけで京ちゃんの趣味を教えてもらえるかな?」
小糸は改めて僕に謝ってからそう言ってきたんだ。正直好みのタイプとか健吾との関係とかそんなことをきいてくると思っていた僕は、想像していたよりも簡単な質問だったことに拍子抜けしながら、
「さっきも言ったけど、次からは気をつけてくれればそれでいいよ。あと、趣味は読書とゲームかな? 家で暇なときは基本どちらかをしているって感じ」
小糸へそう返したんだ。小糸がほうほうとか言っているのを見ながら、今日の清水はなぜかかなり消極的だから質問も簡単なものにしてくれそうだし、もう大丈夫そうかなって思っていると、
「それじゃあ俺からの質問は、さっき趣味は読書とゲームって言っていたけど、それぞれで今一番好きなやつを教えてもらえるかな?」
予想通り清水からは簡単な質問が飛んできたんだ。それに僕は
「本は君の花で、ゲームはブリーズブラウかな。清水君はゲーセンで会ったときにあの筐体の前に僕が居たのを見たから知っているよね?」
何も深く考えることなくそう返したんだ。すると、
「うん、そうだね。本当にあのときはごめんね。それにしても君の花に、ブリーズブラウ……ね。君の花はともかく、ブリーズブラウは従兄の影響かな? 京矢もブリーズブラウにはかなりハマっていたしね」
清水は顎に手を当てながら聞き返してきたんだ。
「え? あ、う、うん。そうだよ? 京矢従兄さんの相手をしている間に僕もハマっちゃったんだ」
まさか聞き返してくるとは思っていなかった僕は咄嗟にそう返しちゃったんだよね。何とか何故ハマっているかについて誤魔化すことは出来たけど、思わず質問を2個答えちゃったってことは
「清水だけ2つとかズルいっしょ!! これは俺ももう1つ質問を答えてもらうしか……」
小糸が予想通りもう1つ質問をって言いだしたんだよね。僕が思わず清水の2つ目の質問を答えてしまったからこうなっちゃったし、どうしようかと考えていると、
「今のはあくまで俺の質問の延長線上のものだからまとめて1つだ。だから2つではない、残念だったな」
清水が小糸にニヤリと笑みを浮かべながらそう返していたんだ。いや、それを言うとそもそも清水の質問が小糸の延長なんじゃって思ったけど、下手に言っちゃうとまた小糸が何か言い出すと思った僕は何も言わずに小糸の反応を待っていると、
「そっかぁ。やっぱそんな上手いことにはいかないよなー。また今度中山に場を設けてもらうとして、今日は十分っしょ。熱海ちゃんありがとね! 後、篠宮ちゃんと服部ちゃんだったっけ? 君たちも熱海ちゃんがここに来ること了承してくれてありがとね!」
小糸は僕たちの方へニカッと擬音が出るんじゃないかっていうくらいの笑みを浮かべてそう言ってきたんだ。それに続いて、
「今日はありがとう。熱海さんについて色々とわかったし、とても参考になった。今日来れなかったやつらに自慢させてもらうよ」
清水も僕たちにお礼を言ってきたんだ。
「それじゃあこれでお開きってことでいいのかしら?」
その言葉を聞いて、今まで僕たちのやりとりを見守っていた真琴がそう健吾たちに尋ねると、
「あぁ。本当に今日はありがとうな。こいつらの面倒は後は俺が見るから気にしないで楽しんでくれ。それじゃあな」
健吾がそう返すと、清水と小糸を連れて中庭の方へと歩いて行ったんだ。
それを見送った僕たちは、真琴のそれじゃあ行きましょうかという声と共に次に向かう予定だった出し物のある建物へと向かったのであった。
そのときに、僕が京矢だとバレなかったこと、清水や小糸が真琴や優花ちゃんに関心を示さなかったことに安堵していた僕は、1人立ち止まり僕たちの――正確には僕の――後ろ姿を清水が見つめていることに気が付かなかったのであった。
今回出て来た君の花は某翻訳サイトにて元の漫画の英語タイトルを何度か日英、英日を繰り返したものをベースにしています。今年の某映画から拝借したわけではありません。




