8話 春休み終了
「こら、寝てないでちゃんと起きなさい!」
「ふ、ふぇ!?」
え?え?何事?
「やっと起きたわね?ゆっくりお風呂に使ってるにしても長すぎると思って、心配して様子を見にきたら……」
「あっ……」
どうやらお風呂が気持ちよすぎて寝ちゃってたみたいだ。だって今までずっと忙しかったんだもん。むしろ今まで頑張れてた僕をほめてほしいくらいだよ。
「ふぅ。まぁでも。ただ寝落ちしてただけみたいね。もう体は十分温まったでしょうし、そろそろあがりましょうね」
「うん……」
こうして素直に母さんと一緒にお風呂場を出た僕は母さんにやられるがままに体を拭かれたのであった……。まぁ僕のことを心配して様子見に来てくたし、今回だけは母さんの好きなようにしてあげようかな。ほんとに今回だけなんだからね!
あ、髪の乾かし方もまずタオルで水分を取ってから、近づけすぎないようにドライヤーで乾かさないといけないみたい。ドライヤーでの乾かし方にも順番があるみたいだったけど、よくわからなかったんだよね……。髪を乾かすのは暫く母さんにやってもらおうかな。
………………
…………
……
「京ちゃんどこいくつもり?今からお母さんと一緒に晩御飯を作るわよ?お母さん、娘と一緒に料理をするっていうのに憧れてたのよねぇ。楽しみだわぁ♪」
「えーっ!僕やらないといけないの!?今日はもう疲れたし、自分の部屋でゆっくりしてたいんだけど……」
お風呂からあがって、そのまま自分の部屋に戻ろうとしたら母さんに止められてしまった。あ、ちなみにパジャマはピンク色の可愛らしいやつなんだよね……。お風呂からあがったらそれしか置いてなかった……
「だーめ。前に言ったわよね?女の子になったんだから、家事は一通り出来るようにならないとって」
「だから僕は男の子だっt「そ・れ・に……」」
「お風呂に入る前に、お母さんと一緒に入らないかわりにお風呂からあがった後に言うこと1つ聞くって約束だったわよね」
「うっ……」
それを言われると、辛いです……。何で僕はそんなこと言ってしまったんだ……。母さんと一緒に入りたくなかったからですね、はい。
「さぁ、それじゃ一緒に作るわよ」
「………………はい……」
……………
……
「あ、ダメじゃない。そんな斬り方じゃ手を切っちゃうわよ?包丁を使うときは、添える手を猫の手にして……、そうそう。そうやって斬ったら手を切らないでしょ?はい、じゃあどんどんやっちゃって」
「う、うん……。え~っと、これであってるよ……ね……?」
「あぁ!!あってるけど、余所見したら手を切っちゃうわよ!?」
っとまぁ、こんな感じに、今まで料理をやったことない僕は、体が女の子になってから初めてみたんじゃないだろうかっていうほど真剣な顔をした母さんに厳しくされたのだった……。
まぁ、やっぱり全然うまいこと出来なくて、ほとんど母さんが作ったんだけどね
………………
…………
……
「このサラダね、なんと京ちゃんが作ったのよ?」
「何!?京が作ったのか!!それならお父さんが全部食べ……はさすがにしないけど、少しもらおうかな。母さんや、そんなに睨まなくてもいいじゃないか」
晩御飯が出来たのとほぼ同じタイミングで父さんが帰ってきたから今日は皆で晩御飯。やっぱり家族全員で食べるとおいしいよね♪
それにしても、ひと睨みするだけで父さんを黙らせることが出来るって……。母さんはどんだけ権力強いの……?
「いやぁ、それにしてもこのサラダおいしいなぁ。京には料理の才能があるんじゃないのか?」
「な、何言ってるの父さん?ほぼ斬っただけの料理じゃない。お母さんが作った料理の方が全然おいしいよ」
ほんとに料理っていえるか怪しいサラダしか作れなかったけど、それでもおいしいって言いながら食べてもらえるとうれしくなってくるね♪あ、少し料理する人の気持ちわかっちゃったかも?
「いやぁ、京が作ったっていうだけで最高のスパイスだよ。あ、あと、京。1つ頼みがあるんだが……」
「ん?何?」
なんだろ頼みって?思わず首を傾げる僕。何か母さんが悶えてる気がしたけど、父さんの頼みの方が気になるから無視することにした。
「えー、あのな?母さんのことはお母さんって呼ぶようにしたんだろ?だったらな?父さんのこともお父さんって呼んでくれないか?」
「え……?」
え?父さん何言い出してるの?何かすごい期待するような顔でこっち見てるし……。威厳ある父はどこにいったの……
「え、え~っと……。呼ばないと……ダメ?」
「おぉ、なんだその上目遣いは!?是非お父さんって呼んでくれ!!そしたらお父さん、京の欲しいの何でも買ってしまいそうだぁ!」
……母さんのときも思ったけど、この人誰?何か僕の家族が僕の知らない人になったみたいで少し怖い……。それに何でだろう?そこまで言われると逆に言いたくなくなってくるなぁ
「う~ん……。そこまで言われると逆に言いたくなるから父さんって呼ぶことにしようかな♪」
自分からしたら少し可愛いっぽいしぐさを心がけるようにして言ってみたんだけど、父さんはお父さんって呼んでもらえないのが余程ショックだったのか、すっごい落ち込んでるよ……。どれだけ呼んでほしかったの!?
軽く引いてると修兄がいきなり手を挙げ始めたんだけど、どうしたんだろ?
「はい、はい、じゃあ俺がお父さんって呼んであげるから俺の欲しいのをグフォ!?」
「修矢は少し黙ってなさい」
あ、修兄への対応はいつも通りだった。そのことに僕は少し安心。修兄には少し悪い気がしなくもないけど、まぁ修兄だしね。
ご飯を食べ終わった後、食器洗いを手伝ってからようやく僕は解放された。母さん曰く、食器を洗い終えるまでが料理なんだって。
それにしても今日は本当に疲れたなぁ。
少しフラフラしながらも自分の部屋に戻った僕は、すぐにベッドに倒れこみ、そのまま寝たのであった……。
………………
…………
……
「ほら、早く起きなさい!朝ごはんの準備するわよ!!」
「うぅ、まだ眠いよぅ」
「何言ってるの?今から準備しないと間に合わないでしょ!」
そう言って母さんは僕の布団をとっちゃった……。うぅ、まだこの時期は布団がないと寒いよぅ
「わ、わかったよ……。それじゃあ、準備するから下で待ってて……」
早く降りてきなさいねって言って母さんは僕の部屋を出て行った。
家事を始めてから早いもので、もう一週間経っちゃった。やっぱりまだまだ分からないところは一杯あるんだけど、少しずつ出来るようになってきてる僕って……。慣れって怖いね!それでも朝5時起きはまだまだ辛いけどね……
…………そんなことより早く準備しないとまた母さんが突撃してきそうだし、さっさと準備しよう。
あ、今日の僕の朝ごはんの当番はお味噌汁なんだ!今日はどんな具を入れようかな♪
………………
…………
……
「ふん、ふん、ふーん♪」
最初は嫌々だったんだけど、料理ってやってみたら案外楽しいものだっていうことがわかったんだ。おいしそうに食べてくれる家族の顔を思い浮かべながら作ってたら思わず鼻歌を口ずさんじゃった。
「本当に楽しそうに料理するようになったわねぇ♪後は料理の腕が上達すれば言うことなしね」
「うぐっ……。べ、別にもう食べられないような料理は作らなくなったもん!塩と砂糖はもう間違えないもん!!」
「……あなたが間違えないようにわざわざ違う容器に入れるようにしたんだから、間違えたら困るわ」
「…………」
ふ、ふん。前まで同じ容器に入れてたのがいけないんだ!こっちだって思って取ったら大体逆だっただけだもん……。最初にお味噌汁を作ったときの父さんと修兄の顔は今でも忘れられないよ……
で、でも最近は味見っていう画期的な方法を発見したし、もうそんなミスすることはないもんね。
コホン……。まぁそんな過去のことはさておき、今日のお味噌汁は人参と大根と揚げを一杯入れた具沢山お味噌汁にしたんだよね。もうほぼ完成したのもあって、お味噌汁のいい匂いがキッチンに広がってきた。後は母さんが焼いてる魚が出来上がったら父さんと修兄が起きてくるのは待つだけかな。
母さんの料理技術を少しでも盗むために魚の調理方法を眺めてたら(って言ってもほぼ焼いてるだけなんだけどね)母さんがふと思い出したように僕に話しかけてきた。
「そういえば、前から言おうと思っていたんだけど、京ちゃんって自分のことをまだ僕って呼んでるのね?そろそろ私って言うようにした方がいいんじゃないかしら?」
「それだけは絶対嫌だ!それに、僕は『男の子』なんだし、私っていうのはおかしいじゃん!!」
あと、私って言っちゃうと男の子だった僕がどこかに行っちゃいそうでなんか怖いんだよね……。って僕は男の子だって、何言ってるの僕!?
「そう……。まぁ無理強いはしないけどね……」
そ、それにこうやって強く言ったらお母さんも折れてくれているし、僕はまだまだ僕でいいってことだよね、うん
ちょっと微妙な空気になったんだけど、そこに丁度父さんと修兄が起きてきた。2人ともナイス!今からは楽しい朝食の時間だよ♪また腕を上げたって褒めてくれるかなぁ
………………
…………
……
ピンポーン
「はーい」
そう言って母さんは玄関の方に歩いていった。
僕?僕は今洗濯物を干してて、今は手が離せないんだよ。
まぁ今日はまだ焼け止めを塗ってないから外に出られないし、洗濯物のシワを延ばしてハンガーに引っ掛けてるだけだけどね……。
そうやってシワを延ばしてハンガーに引っ掛ける作業をしてるとドタバタと音がして、何かあったんだろうって思って顔をそっちに向けると、母さんがすっごい嬉しそうな顔をしていた。あ、これは何か嫌な予感が……
「京ちゃん!ついに届いたわよ♪」
「え?届いたって何が?」
そんなタメてる暇があるんだったら、あとは外に出すだけの洗濯物をさっさと出して欲しいんだけど……。そろそろこの周辺に仮起きしておける場所がなくなってきてるし……
「それはもう制服に決まってるでしょ?京ちゃんが行く学校の制服って可愛いって有名だし、きっと京ちゃんに似合うわよぉ?早速着替えてみましょ?」
「え?そ、そんなの後でいいじゃん。それよりも早く洗濯物を「洗濯物なんて後でいいわ!!それより早く着替えるわよ!」ぉぉぉおおお!?」
そうして母さんに連行された僕は洗濯物をほったらかしにしたまま制服に着替えることになったのであった……。健吾とこの学校の女の子の制服は可愛いし、きっと女の子も可愛い子が一杯くるに違いないっていう理由で行く高校を決めたんだけど、まさか自分がその女の子の制服を着る時がくるとは……。トホホ……
そうして制服が可愛いって家族全員が喜んで撮影会が始まったり、別の日に健吾が遊びに来たときに、父さんが「娘はやらん」とか言い出したりとか色々あったんだけど、家事に慣れることに一生懸命になっていたら、時間は気がつかない間に進むもので……。明日はいよいよ高校の入学式だったりします。友達ちゃんと出来るかなぁ。
あれ、でも友達って男の子?それとも体は女の子になっちゃったし、女の子?どっちなんだろ?
これで春休み編はほぼ終わりです。最後の方はかなり早足になってしまい、もうしわけありません(・ω・`)
本当は1章は5話か6話くらいで終わらせるつもりだったんですがね……(・ω・`)
あとはショートストーリーを幾つか残すのみって感じです




