90話 最後の一時②
先週は少しドタバタとしていたので更新できず、すみません(・ω・`)
コンコン
京の部屋まで来た俺は、京が起きているかどうかの確認をするためにドアをノックしたんだ。すると、
「……はい」
少し間があいてからだったが返事が返ってきたんだ。目を覚ましていることにホッとした俺はドアの取っ手に手をかけて扉を開いた。
「あっ、健吾さん」
扉を開いたのが俺とわかり、京の顔は安心したような表情をしていたのだが、すぐに表情が陰った。恐らくデートが途中で終わってしまったことを気にしているんだろう。そう思った俺は京が口を開く前に
「京ちゃん! 今日はごめん!!」
と頭を下げて謝った。
「えっ!? えっ!?」
いきなり俺が謝ったことが予想外だったみたいで京は戸惑っていたんだ。京が戸惑っていて、何か言い出す前に俺は畳みかけるように
「折角のデートだったのに俺がまともに考えなかったからちゃんと楽しめなかっただろ? それに最後は俺の不注意であんなことになってしまったし……。本当にごめん」
俺に全面的に非があることを強調しながらもう一度謝ったんだ。
謝られる前に謝ったことが功を奏したのか
「け、健吾さん! 私は気にしていませんから! 大丈夫ですから! お願いだから顔をあげてください」
京は俺に謝るよりも先に俺に顔をあげるように言ってくれたんだ。
俺は上手く行ったことを内心でガッツポーズを作り、それは表に出さないように気を付けながら俺は顔をあげた。そして
「よかった。京ちゃんならそう言ってくれると思ったんだけど、やっぱり不安だったからね」
京が謝ろうとしていたことを思い出さないように、あたかも誘導したかに見せかけるためにニヤリとした笑みを作ってそう言ったんだ。すると
「もしかして今のは形だけだったんですか? ……むぅ」
上手く誘導にのってくれたみたいで、京は少し不貞腐れていた。だから俺は
「ごめんごめん。申し訳ないと思っているのは本当なんだ。だからお詫びというわけではないんだけど……」
ポケットの中にずっと入れっぱなしだった小包を取り出し、京に渡したんだ。
「え……? こ、これは……?」
だけど、やはりいきなり説明もなしに物を渡しても京は戸惑うだけだった。本当ならすぐにでも説明すべきなんだが、
「あぁ……、えっとだな……。一先ず何も聞かないで開けてくれると嬉しい。開けたら爆発するとかはないし、もちろんドッキリ要素もないから」
ちょっとしたサプライズとしたい俺はあえて何も説明せずに開封を促したんだ。すると京は一瞬悩んでいたが、小包を開けて中身を確認していた。そして
「うわぁ……」
感嘆の声をあげながら小包の中に入っていた物を取り出していた。喜んでもらえたことにホッとしながら俺は
「京ちゃんはいつもヘアピンをつけているだろ? 何種類かあるみたいだけど、種類は多いことにこしたことはないと思ってね」
何でもないというのを装いながらそう伝えたんだ。表情まで上手く誤魔化すことが出来たかまではわからないが……。
「本当にもらってもよろしいのですか? あっ、でも私は何も用意していません……」
京は俺が上げたヘアピンに夢中になってくれていたみたいで、少し興奮しながら俺にそう聞いてきたんだが、途中で自分が何も用意していないってことに気が付いてヘコみ始めたんだ。その様子に俺は苦笑してから
「さっきも言ったことだが、俺が不甲斐ないせいでデートを台無しにしてしまったんだ。せめて相手にプレゼントを贈るくらいの甲斐性は見させてくれないか?」
少し頼みこむように言うと、
「……その言い方は卑怯です」
京は口を尖らせながらそう言ってきたんだ。
その、普段の京とはまた違う、可愛らしい動作をしている京と目線をあわせていることに限界を迎えつつあった俺は目を逸らしながら
「ははは……。それじゃあ、卑怯ついでということでもう1つ。今日の昼前によった店の、京ちゃんが気に入ったぬいぐるみがあっただろ? あれも明日には京ちゃんの家に届くようになってるから」
本当はぬいぐるみのことは今言うつもりはなかったのだが、何故か言った方がいいような気がした俺は気が付くとそう口にしていたんだ。すると
「えっ!? ぬいぐるみってあのぬいぐるみのことですよね? さすがにそこまでしていただいて私からは何も返せないというのは非常に心苦しいのですが……」
京はやはりというかなんというか……。喜びよりも申し訳なさが京の中では勝ってしまっているらしく、すまなそうな顔をし始めていた。だから俺は京がまだ何か言おうとしているみたいだが、それに被せるように
「俺が好きでやったことだから気にしないでくれ。それに、俺の部屋にぬいぐるみがあってもおかしいだけだろ? 後、京ちゃんは何も俺に渡せていないって言っているけど、俺からしたらむしろ返せないくらいもらっているんだぜ?」
いつもより少しだけ声を大きくして言ったんだ。俺が思っている以上に声が出てしまっていたみたいで、京が身体をビクッと震わせていたことに悪く思いつつ、京の返事を待っていると、
「……はい。ありがとうございます。きっと喜ぶと思います」
何とか自分の中で折合をつけてくれたみたいで、はにかみながらそう返事してくれたのだが、
「喜ぶと思うって……。京ちゃんのために買ったんだぜ?」
変な言い回しの仕方に俺は呆れながらそう返すと、
「っ……。そうですね。ふふ……、ごめんなさい」
京は一瞬目を見開いた後、嬉しいような悲しいような表情をしながら俺に謝ってきたんだ。その表情について聞こうとしたのだが、
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
京は被せるようにして、改めて俺にお礼を言っていた。そして顔をあげると同時にくぁっと小さなあくびをして、
「すみません。先ほど起きたばかりなのですが、まだ少し眠たいようです」
眠たいと言い出したんだ。唐突に眠いと言ってきたことには驚いたが、目をしきりに閉じたり開いたりしているところを見ると本当に眠たかったのだろう。だから俺は京が起きたときに覚えていたら改めて聞く程度でいいかとさっきの表情について聞くのを止め、
「わかった。ごめんな、寝たかっただろうに長引かせてしまって」
会話を終わらせるべくそう言ったのだが、
「いえ……、私の方こそ気を使わせてすみません。あの……、健吾さん……、ここまで色々してもらっているだけでも恐縮なのですが……、最後にもう1つだけ……、お願いを聞いてもらえないでしょうか?」
京がその前に願い事があると言ってきた。今の京がこうやって自分から願い事を言ってきたことに軽く驚きながら
「あぁ。別に最後って言わなくても、また起きてから俺を頼ってくれたらいいんだぜ? 頼られないより頼られる方が俺もうれしいしな」
顔を出来るだけ笑顔になるようにして、嘘ではないことを強調するように言うと、
「ありがとうございます……。それで……、あの……。大丈夫だとは思うのですが、万が一ということもありますので……、耳を貸していただけないでしょうか?」
京はホッとしながら俺に近く寄るように言ってきたんだ。どうしても他の誰にも聞かれたくはないらしいが、この病室は個室だし、俺以外に誰もいないのだから大丈夫だとは思うのだが……。それでも折角の京の頼みだと思い、
「あぁ。それくらいならお安い御用だ。それでお願いってのは何……!?」
片耳を京に向けた体勢で京に顔を近づけていたのだが、不意に頬に湿った何かが触れたんだ。
俺は突然の出来事に思わず飛びのき、元いた場所を見ると丁度俺の顔があったであろう位置に目を閉じた京の顔があったんだ。それってつまり……
「……っ!!」
京に何をされたのかわかった俺は目を見開き、頬に熱が集まっていることを感じていると、京の眼がゆっくりと開き、
「ふふ……。悪戯成功……です……。健吾さん、ありがとうございました。そして……。おやすみなさい」
悪戯っぽく笑って俺にお礼を言った後、ベッドに潜りこんでそのまま寝息を立て始めてしまった。
俺は片頬を手でおさえながら、ただ寝ている京を俺たちの様子を見に来た丘神さんに指摘されるまで見続けたのであった。
さすがにもう1話この話題を健吾視点でするのはどうかと思い、
後半は半ば強引にしてしまった感はありますが、いかがだったでしょうか。
本編での健吾視点は恐らくこれでラストです。
章間ではまだまだ出番はあるとは思いますが。
次回は京ちゃん視点です。




